瘴気耐性の再検査

 コンコンと控えめなノック音が二回響く。


 扉を開けると臆病そうな寮母の姿がそこにあり、ルチアはすぐに理由を思い当たった。用意していたカバンを持って談話室に出ると、そこには幼馴染のフーゴとその友人が待っていた。



「おう、待ってたぜ」

「どっちかというと待たせたのは僕たちだと思うぞ」

「うっせえ。アビッソが何回も絡んでくんのがわりぃんだろ」



 昨日、アーノルドに勝手に予定を埋められた後、ルチアが最初に頼ったのは幼馴染だった。偶然そこに居合わせたフーゴの友人であるロゼットも同行を申し出てくれたのだ。


アーノルドは複数人連れてこいと言っていたし、変に友達がいないやつだと思われても嫌なのでありがたく言葉に甘えさせてもらった。



「昨日はうやむやになってしまったから、改めて自己紹介するよ。僕はロゼット・アンタレス。フーゴと同じクラスで同室だ。ルチアのことはよく聞いてるよ」

「何を言われているのかは気になるんだけど……私はルチア・サンタリオだよ。今日は付き合ってくれてありがとう」

「瘴気耐性の再検査だっけ。僕はそこそこ高い方だから、何かあった時のフォローは任せてくれ」

「フーゴの友達と思えないくらいのしっかり者……」

「おいどういう意味だそれは」



 涼し気なアクアブルーの髪が太陽の光を反射する。ロゼットは大変爽やかな少年だ。とても天邪鬼でがさつなフーゴの友人とは思えない。現に何か言いたげにこちらを見つめるフーゴとは大違いだ。用があるなら言ってほしい。

 絶対に反応してやるもんかと無視してロゼットと談話室から出れば、フーゴは慌てて追いかけてきた。そのまま三人で談話しながら指定された情報室に向かう。



「てか、なんで再検査になったんだ?先週やったばっかだろ」

「瘴気耐性ってのは確か一生変わらないんだよな。せいぜいヤバい怪異案件に巻き込まれて覚醒した話くらいしか聞かないけど」

「再検査って言っても、瘴気耐性じゃなくて」

「サンタリオの能力の検査だ」



 突然背後から声をかけられて、フーゴの肩が少し跳ねた。



「うっわ、アーノルド先輩」

「先輩に対して随分失礼な態度じゃないか」



 嫌そうな声をあげたフーゴに、アーノルドが肩眉を上げる。しかしそれ以上何か言うことはなく、私たちと共に情報室に向かった。



「怪異対策本部の先輩がどうして」



 不思議そうに首を傾げたロゼットを一瞥したアーノルドは、軽く笑みを浮かべるとその腕に抱えていた魔導書を開いた。



「サンタリオの特異性に合った検査をするためだ」


。。。


情報室について、アーノルドは備え付けていたプロジェクターやパソコンを立ち上げるた。そして召喚呪文をとなえると、デスクの上に本を何冊か広げた。よく見ればそれは写真アルバムのようだ。



「映像の前に、まずは紙媒介の物を確認してみようか。三人とも、何を見たか正直に答えてくれ」

「え、俺たちもやんの?」



 驚いたようにフーゴがアーノルドを見つめた。



「サンプルをより多く入手するためだ。別に君たちの能力を計りたいわけじゃない」

「そういうことなら任せてください!」

「ロゼは人が良すぎ。もー、俺もやるしかない流れじゃん」



 そう言いながらも、フーゴはロゼットに習って席に着いた。アーノルドは準備が整った私たちの前にアルバムを置くと、自分の周りに結界を張った。測定役は必ず健康な状態で居なければならないからだ。



「順番は……カルド、アンタレス、サンタリオの順で頼む。君たちの瘴気耐性は把握しているし細心に注意するつもりだが、違和感あったらすぐに言ってくれ」

「わかりました」



 最初にアルバムを手に取ったフーゴは開く前にアーノルドに問いかけた。



「紙媒介っていったっすけど、これ何のアルバム?」

「心霊写真のアルバムだ」



 一拍を置いて、実はお化けが苦手なフーゴの甲高い悲鳴が情報室に響き渡る。防音なので外部に漏れることはないため、彼の男子高生としてのプライドは辛うじて守られたけど。



 まあ逆に言うと助けを求めることもできないのだが……ルチアは心の中でそっと手を合わせた。



(わあ、アーノルド先輩ぜんぜん気にしている様子ない)



 今も嫌そうにしているフーゴなど見えていないように、アーノルドは淡々と記録を取る準備をしている。

 それを見て、フーゴも渋々とアルバムに向き合った。フーゴも瘴気耐性検査の時に心霊写真見ているはずなんだけどなあ……。



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