死告鳥より副会長が怖い

 ルチアがオスクリタ魔法学園に来て驚いたことはたくさんある。


 それは生徒の華やかさや建物の豪華さだったり、魔法具や電子製品だったりするけど、何より驚いたの生者がゴーストと普通に共同生活していることだ。

 故郷ではとても考えられないことだが、トップレベルの名門魔法学校なら当たり前のことかもしれない。都会ってすごいな。


 まあ、確かにゴーストの中にはそこにいるだけの無害なモノもある。だが、この学園にいるのはどれも怪異と呼ばれるのに相応しい存在だ。


 例えば図書館に居る司書は博識で本のことについてなら何でも教えてくれるが、騒いだり本を汚したりすると地の果てまで追いかける。西館三階の正面階段にいる黒髪のレディは以前女子にいじめられていたようで、女子生徒の背中をつい押しちゃうみたい。さすがに危ないからお帰りいただいたけど。


 あとは……そう、いつも燃えている小人のような存在もいれば、怪異を主食とする白蛇もいる。とにかくいたるところに怪異がこちらに干渉しているのだ。


 先日も備品を先生と整理していたところに、【首吊り紐】という見ると首を吊りたくなってしまう怪異を見つけた。すぐに燃やしたが、もう復活している頃だろう。ああいう概念タイプの怪異は無限にリポップするから気休め程度のことしかできない。



(でも、みんなこれを見てもぜんぜん動じないもんね。私も見習わなきゃ!)



 ルチアの故郷は電波もよく途切れるような田舎だったが、ちゃんとした魔法が使える人が少なかったから、何かあったら大騒ぎだったものだ。

 わずかなホームシックに落ち居ているルチアの前に、鳥のようなモノが止まった。



ギャアッ!



 酷く耳障りな鳴き声を上げたソレは、またすぐに中庭の方に飛んでいった。

 ソレが羽ばたく度に異臭放つヘドロが落ちていき、ジュッという音と共に地面を溶かす。瘴気を含んだヘドロに触れた地面はしばらく汚染で草も生えないだろう。そうならないように、ルチアは浄化魔法を使って大まかに修復した。

 そして一応鳥のようなモノの行き先を確認してから、頼まれていた仕事をこなすべく生徒会室に向かう。



「おーい、ルチアー!今死告鳥いなかったか?」



 しかしすぐに聞きなれた声に呼び止められて、抱えていた報告書を落とさないように振り返った。

 遠目でも分かる燃えるような赤い髪をぴょこぴょこさせて駆け寄ってきたのは、ルチアの幼馴染みのフーゴだった。



「死告鳥?あのヘドロをまき散らしている鳥みたいなやつだよね?」

「みたのか?!お前はなんともないよな?」



 怪異が出現したせいか、猫のように吊り上がった金色の目が心配そうにルチアを見ている。



「うん、私は元気だよ。物騒な名前だけど、その鳥がどうしたの?」

「あれA級の怪異みたいでさ、治安課が対象者操作に繰り出されてんの。対象者以外に被害はないみたいで、一年の俺も強制労働。お前は?」



 治安課は学園内にある生徒で構成された、怪異の被害に遭っている生徒を助ける組織である。

 完全スカウト制で、一定以上の瘴気耐性と攻撃魔法を習得している生徒のみが治安課に加入できるのだ。危険度が高い上激務だからか、仕事内容に応じて報酬が支払われることもある。その報酬がかなりいいらしいのだが……如何せん命に関わるので断る生徒も多い。



「生徒会に今週の出現怪異報告書を提出しに行くところ」

「そっちも大変だな」

「学園中走り回るフーゴよりは楽だよ」

「それはそう。ま、ルチアが対象じゃなくてよかったわ。お前なら大丈夫だろうけど、今日は気を付けて早く帰れよ」

「ありがとう。フーゴもね」

「あ、ちなみに死告鳥がどこに向かったとか、分かったりしない?」



 ちらちらとこちらを見る調子のいい幼馴染に冷たい視線を送りながら、ルチアは中庭の方を指した。するとフーゴはお礼を軽く述べると、風のように走り出した。



「うーん、危険度Aって感じじゃなかったけどなあ。あとでデータベース見てみよう」



 そんなことよりも生徒会だ。

 首席で入学したばかりに強制的に入れられてしまったが、何だかんだやりがいを感じているので遅刻はしたくない。あと純粋に副会長が怖い。


 怪異に時間を取られた分、ルチアは小走り気味に生徒会室に向かった。

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