札の魔導具士

 投げ放たれた護符が空中を浮遊する黒衣の魔物へと向かって一直線に飛んでいく。

 黒衣の魔物は移動して避けようとするも、動きに合わせるようにして護符が軌道を曲げて追従する。


 結局、避けきることができず護符が黒衣の魔物に触れた瞬間、護符は魔力による爆発を引き起こし、魔物を一瞬で蒸発させてみせた。

 

 そこからシェリは間髪入れずに、また新たな護符を三枚取り出し、それらをすぐさま同時に投げ放つと、それぞれの護符は別々の軌道を描きながら違う魔物へと飛んでいった。


「あれがシェリの戦闘スタイル……か」


 武器を持ち歩いていないことや普段の足運び、それと身体強化の性質から体術を主体としない戦い方だというのは分かっていたが、かといって典型的な術士でもないとも思っていた。

 魔術士なら術式効果を底上げする――例えば、マリナの長杖といったような触媒を常に持ち歩いているはずだからだ。


 だけど今の護符を使った攻撃を見てようやく合点がいった。

 シェリは魔術士ではなく魔導具士だ。


 魔導具士は術式そのもので戦うのではなく、それ自体が魔力を宿し、特殊な効果を付与された道具――通称”魔導具”を用いて戦う。


 魔導具は魔力を消費せずとも宿した効果を発揮し、誰にでも扱うことはできるが、魔導具を作成するためにはスキルが必要になり、召喚術のように作成できる魔導具の傾向は人によって異なる。

 シェリの場合、護符がそれに該当するようだった。


 恐らく、籠められた魔力の爆発が護符に宿された能力であり、追尾するのはシェリの魔力操作によるものだ。

 身体強化をしているのは、飛ばした護符の追尾性能を高めるのと一度に扱える護符の量を増やすためといったところか。


 証拠にシェリは取り出す護符の枚数を少しずつ増やしながら、黒衣の魔物に投げ放っていた。

 同時に何枚かの護符は、壁に貼り付けるようにして宙に浮かべて展開していく。


 あれは……また別の能力の護符か?


 爆破の護符は赤く光る紋様が刻まれているが、展開された護符は緑色に光る紋様が刻まれている。

 見た感じだと用途は防御か補助のどちらかだと思われるが、わざわざ空宙に固定しているのは両手を空けてすぐに爆破の護符を扱えるようにするためだろう。


 などと考えている間にも数体、また数体と放たれる護符によって黒衣の魔物を撃破していく。

 魔物たちはシェリに近づこうとはするものの、一撃で葬られるせいで迂闊に距離を詰めることができずにいる。


 しかし、攻めあぐねているうちに今のままでは無理だと判断したのか、ある一体が身体を囲う形の魔法陣を展開すると、それに続くようにして他の魔物たちも一斉に魔法陣を展開し始めた。


 ――こいつら術式を使うのか!


 現状、残っている黒衣の魔物はおよそ三十体。

 例え下級だったとしても、これだけ大量に発動されたら防ぐのは容易なことではない。


「シェリ……!!」

「大丈夫です。この程度の攻撃であれば防げます!」


 そう言ってシェリは新たに緑色の紋様が刻まれた護符を取り出すと、宙に固定させておいた護符と重ねて目の前に張り出す。

 計七枚ある護符それぞれに魔力を一気に流し込むと、護符は淡い緑色に光る半透明の障壁へと変化して俺とシェリを覆い隠した。


 直後、展開した魔法陣から複数に分岐して襲いかかる闇属性の魔力の光線が発射される。

 放たれた術式は中級魔術の一つであるダークネスクライと酷似していた。


 想定よりも高威力の術式だったが、魔力の光線は障壁に衝突すると瞬く間に掻き消され、障壁には傷一つ付くことすらなく黒衣の魔物たちによる一斉攻撃を凌ぎ切ってみせた。


「凄え……」


 自分にだけ聞こえるくらいの声量ではあるが、思わずポツリと漏らす。

 純粋な耐久力でいえばスパイラル・シールドの方が大きく上回っているが、刮目するべきなのは魔力に対する耐性だ。


 さっきのスパイラル・シールドと鎧武者が放った雷撃のように、大きな魔力同士が衝突すれば余波が生まれる。

 だが、シェリが展開した障壁はというと、術式を相殺するだけではなく魔力を霧散させていた。


 どんな理屈でそうなっているのかは分からない。

 ただ、防御系の上級魔術にも引けを取らない性能を秘めていることは確かだった。


 術式を全て防がれた黒衣の魔物の大群だが、怯むことなくもう一度術式を発動しようと魔法陣を展開させる。

 しかし、術式の連続行使は一度目よりも発動するまでに時間がかかる上に、術式の構築中は大きく動くことができずに格好の的となる。


 その隙をシェリは見逃さなかった。


 爆破の護符を大量に取り出し、一度空中に浮遊させてから狙いを定めると、今度はシェリが護符を魔物へ一斉に射出する。

 放たれた護符は一直線に飛んでいき、魔物に命中すると一気に起爆し、魔物たちを一体も残さず吹き飛ばしてみせた。


 だが、今の攻撃はかなり身体に負担をかけていたようで、直後にシェリは膝から崩れ落ちてしまう。


「おい……!?」


 すぐにシェリの元へ駆け寄ると、シェリは苦しそうに息を切らせながらも笑みを繕う。


「えへへ、ちょっと無理しちゃいました。……でも、まだヴァンが戦っているから休むわけには……!」


 言いながら広間の奥へと視線を向けた先では、ヴァンと鎧武者が文字通り火花と電撃を迸らせ、苛烈な剣戟を繰り広げていた。

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カードを呼び出すことしかできない無能は邪魔だとギルドを追放されたけど、覚醒したら無限の可能性しか感じない万能スキルだったので、辺境の生まれ故郷を発展させながら最強の召喚術士を目指そうと思う 蒼唯まる @Maruao

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