第12話 明治魔獣討伐録

 後日、甲州こうしゅう街道での大規模な戦闘を制した黎明警衛隊れいめいけいたい隊長、藤田ふじた五郎ごろうが屋敷へと帰還。冠百村かんびゃくむらの事件の報告と、新入隊員となる伽羅木からき武威むいとの正式な顔合わせも兼ね、武威、周彦あまねひこ、プルヴィア、藤田の四人が居間へと集まっていた。


「多くの隊員が不在の中、よくぞ三人で任務を成し遂げてくれた。犠牲者たちのことは悔やまれるが、さらなる悲劇の連鎖を食い止めることが出来た。隊長として君達を誇りに思う」


 隊長である藤田を筆頭に、多くの隊員が不在の中で起きた突発的な襲撃。大型の魔獣であるアゲルドラコまで出現したとあって非常に危険な状態であったが、三人は見事にその脅威を取り除いてくれた。この活躍は非常に大きい。


「プルヴィア。昨日はゆっくり休めたかな?」

「はい。半日睡眠を取ったおかげですっかり全快です。また何時でも出現可能ですよ、小父おじ様」


 プルヴィアは十分に休息をとり、体調はもちろん肌艶もとても良い。プルヴィアは藤田をこの世界での父と慕っており、無邪気な子供のように笑っている。


たかむら。留守を預かってくれてありがとう。君にも大きな負担をかけてしまった」

「警察官として当然のことをしたまでのこと。市井しせいの人々を守るため、今後とも身を粉にして働く所存です。もっとも、自分だけでは今回の事件は解決出来なかったでしょうが」


 周彦が目線を武威に移すと、藤田も嬉しそうにその目線を追った。


「九年振りだな。見違えぞ伽羅木武威。当時から屈強な肉体をしていたが、それにようやく体格が追いついたな」

「んだ。怪力も体力もあの頃とは桁違いじゃ」


 斗南藩となみはんで共に戦って以来の再会だったが、懐かしさはある一方で、二人の間に距離感や遠慮はあまりない。九年の時を経て、外見の印象はあの頃とは変わったが、芯の部分は何も変わっていないと、一目見て共感出来た。


「そういう斎藤さいとうさんは、凄みが増したべ」


 肉体はもちろん、剣士としての気迫も決してあの頃から衰えてはいない。年功を重ねたことでその風格はさらに増している。


「若い隊員には負けていられないからな」


 そう言って一笑すると、藤田は一本の刀を取り出し武威の前へと置いた。


「あの日、君から譲り受けた刀だ。激戦の中で破損し、何度か讐満帯刀アダマンタイトウで打ち直してもらったが、今でもこれは変わらず君のお父上の形見だ。今からでも君に返そうか?」


「まだ使っててくれたんじゃな。親父もきっと喜んでる。ワは相変わらず、鉄塊振り回すしか能がなくての。未だに剣術は使えんのじゃ。それに、今となってはワよりも斎藤さんが持っていた時間の方が長い。それはもう斎藤さんの刀じゃ。どうかそのまま使ってやってくれ。親父が健在でもそう言うべ」


「承知した。また肩を並べて戦えることを嬉しく思う」


 九年越しに再び思いを託され、藤田はそれを快く受け取った。


「冠百村での報告は受けている。正直な話、最初は篁と伽羅木が上手くやれるか不安だったが、杞憂きゆうだったな。すっかり打ち解けたようで何よりだ」

「隊長ともあろうお方が、何を仰いますか。こいつの戦闘能力は認めますが、打ち解けてなどいません。こいつの飄々としたところはどうにも好かん」

「そうかの。ワはヒコのことを嫌いじゃないべ」

「ほら、こういうことを平然と言うんですよ。こいつは」

「プルヴィア。ああいうのを打ち解けているというのではないかな?」

「そうですね。ですがヒコ様は強情ですから。きっと認めませんよ」

「ふっ、そうかもしれないな」


 戦場で芽生えた絆は何よりも強固だ。例え私生活では反りが合わなくとも、いざ戦場に立てばお互いの存在を認め合い、背中を預け合える間柄。二人の間にはそんな信頼関係が感じられた。


「藤田様。お話し中に失礼いたします。石蕗組つわぶきぐみ成桝なります様がお見えです」


 女将がふすまの向こうから報告した。成桝が訪問したということは、再び魔獣が出現したということ。激戦から間もないが、魔獣の侵攻は時を選んではくれない。


「新たな任務だ。篁、プルヴィア、伽羅木。私と一緒に出られるな?」

「無論です」

「どこまでもお供します」

「斎藤さんの前で成長を披露するいい機会だべ」


 明治十二年。日本は異世界ファーブラから侵攻するディルクルム暗黒教団と魔獣の驚異に晒されていた。


 その脅威と日夜戦っている者達がいる。彼らの名は黎明警衛隊。文字通り新たな時代を迎えたこの世界を守るために戦う者たちのことである。


 異世界の驚異あるところに黎明警衛隊あり。今日もまたどこかで、彼らは戦い続けている。


 第一章 了

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黎明警衛隊・明治魔獣討伐録 湖城マコト @makoto3

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