百合に始まり百合が世界を救う新感覚SF

百合×SFモノということで、この組み合わせは個人的に斬新で目新しく、非常に面白いテーマだと思いました。

一見すると複雑な理論が展開されるものの、文体や語り口調は軽快で、最後までストレスなく読み切れた点に、技量や文章力の巧さを感じました。
最初は「超能力者や未来人や宇宙人が出てくるハルヒっぽい感じで、男主人公の要黒が女子達のキャッキャウフフを見守る、ライトなラブコメかな?」と予想していました。
しかし蓋を開けてみると、宇宙人の侵略や異世界者の混入による世界の破滅を阻止するため、一人の少年が奔走する重厚なタイムリープや改変モノだったのです。

ただ逆を言うと「思ってたのと、期待してたのと違う」と感じてしまったのが残念でした。
特に『百合モノ』を大きく掲げている割には、百合要素が少ないとも感じました。
私も百合ジャンルを楽しむタイプですが、『百合』というのは「女の子同士なのにドキドキしてしまう……。あの子と交流しているとトキメキを感じる……」そんな感情の機微や美少女達の日常を、読者や視聴者も見て癒される……それが百合だと思います。
ですので『部室の扉を開けたら、美少女同士がキスしてた』『無垢な侵略者にキスして、宇宙人を百合堕ちさせる』……それだけで百合と主張するのは、正直言って大雑把だと感じました。女の子同士でキスすれば百合になるわけではないと思います。

更に、要黒が世界を守るために悪戦苦闘する部分にも、理由付けが足りなかったのが惜しいです。
姫やユメという魅力的なダブルヒロインがいますが、要黒が彼女達と絆を結んだのは作中の物語が開始される以前の話で、特にユメが要黒に心酔して付き従う理由や彼女の過酷な体験は、読者の側に細かく公開されていないため、理解はできても共感まではできなかったです。どうしても読者は要黒の人間関係の『傍観者』になってしまうと思います。

ただ、最後の瑠衣ちゃんや髙山樹くんの独白、仲間達とのお祭りシーンは非常に良かったです。
こういった『百合』や『同性愛』、『仲間達と結んだ関係や過ごした日常』といった部分を、むしろ前半に持ってきた上で、それらを守るために時間や空間を飛び越えて行った方が良かったんじゃないかなと思います。

惜しい部分が色々と多かったですが、文章や発想力、会話劇という点では一定以上の水準だと感じました。ですのでストーリー面でも読者の共感やエンタメ性を高められれば、素晴らしい作品が生まれると感じました。