第15話 黒川要黒の独白
他人の日常ほどどうでもいいことはない、と個人的には思う。
説教、昔話、苦労した自分の自慢話。この三つは特に聞きたくない。
基本的に人間は嫌いだし、人間関係は苦手というか嫌いだし、つまり他人のことなど興味も関心なければ、好きになることもない。つまり嫌いだ。
そう思っていた。
今でもこれに関しては変わることのない、私の思考の一つである。残念なことに。
でも今は自分の周りの世界における人間関係は、それだけは大切にしようと思う。考えが変わったというより、付け加えられたというべきか。
様々な要因で出会えた奇跡を大切にしたいのかもしれない。
その人柄を尊重し、大切にしたいのかもしれない。
恋愛や色恋だけが関係じゃないと、今なら明確に示せるからかもしれない。
百合の軍を指揮した姫に仕えて夢見がちな姫様を使って。
世界をニ、三度救った救世主。まるで物語の主人公のように、宇宙人と超能力者と未来人に出会って関わって。
自分の世界が平和であるようにという願いは誰もが考えることではないだろうか。そして、それ以外の世界の人の事など、究極的には無関心なのではないか。私はそう考えざるを得ない思考者だ。自分に被害が及ぶかもしれないと思えば、戦争に反対し、対岸の火事ならば世界平和という漠然とした言葉を口にする。同性愛者の友人がいれば全力で応援し、世の中の制度の理不尽さへ声を上げるかもしれないが、男と女の恋愛を普通とし、ノーマルな性癖で当たり前を当たり前とする人たちにとっては無関心なことだろう。問われればジェンダーの平等とか、ダイバーシティだとか、多様性を認めるべき時代だとか、そんな言葉を口にする。本当は無関心だから。無関係だと思っているから。自分の世界には存在していないから。自分の世界、自分の周りの世界が平和であればそれで人間は幸せになれる。きっとそうなのだろう。私は概ね今は幸せだと呼べそうだからだ。
幸せの定義として人間関係の他にお金が関わると個人的には思っている。
お金は生きていくのに必要だ。逆に言えば生きているだけでもお金はかかる。死んだほうが幸せな程にお金は負担を強いてくる。そういう世の中に、社会に生きていることは、よくよく考えなくても当たり前のことである。それはどのような性嗜好者でも、性指向者であろうともだ。残念なことに、社会はそのようにできている。自給自足で食費を賄い、エネルギーを自家発電したとしても、税金は支払わなければならない。お金がかかる。病院に行く。診察費がかかる。保険料もかかる。毎月毎月。払え、支払えと迫ってくるように。
経済的に余裕がある人にはない考え。持ち得ない価値観。
私も支払いに関しては自転車操業である。火の車とまではいかないが、そこそこ苦労している。物語るには関係なかったので話さなかったが、気づいたときには私は両親がいなかった身分だ。別にそれが可愛そうだとか、哀れんでとかそう言うのは一切求めていないし、これからも求めないだろう。そのように思われることも、考えることも嫌だ。他人のお前らに俺のことなんて関係ないことなのに。なのに関わろうとするな。なんの解決にもならない。慰めを求めない以上は嫌でしかなく嫌悪だ。だから他人は嫌いなのだ。
しかし、社会はこんな俺でも生かしてやろうと制度がいくつかあってだな。まあ、それでぎりぎり支払いを回してるわけで、誰かの世話になっているのかと言われればそれは国や社会に世話になっていることは間違いない。他人が嫌いでも、社会は見放してはくれない。そう簡単に死ぬでないと、生かされてしまう。なんとも無惨で無様ではあるが、しかしそれが現実だ。無関心でも無関係ではいられない。
百合に関心を持ち、好きになったのは彼女たちの普通を求めていながらも普通ではいられない歪さに惹かれてだと思う。百合において男は御法度、挟まるなど言語道断であるのはこの世界における常識なのだが、然して同時に百合を楽しんでいるのはその男なのではないかと私は常に思っている。正攻法でありながら矛盾をはらむ構図もまた、私はなかなかに気に入っているのだ。男など滅んでしまえ、女の子の世界に踏み入るな! と口で言いながらも、その百合を認めて理解して愛しているのは自分が男だからというそれに尽きるわけで。女の子が好きな女の子であればどれほどいいと思ったかはわからないが、そんなものはそれこそ物語る物語の中でしか起こり得ない不可思議ばなしにすぎない。
次の物語がそのようなあべこべにならないことを切に願って、ここまでの文章にお付き合いいただけたすべての方に感謝を述べて閉幕とさせていただきます。どうも、ありがとうございました。
【完結finale】百合姫に仕え夢姫を使え 小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】 @takanashi_saima
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