第14話 髙山樹の独白

 彼氏ができた。

  


 男の子の僕に、彼氏ができた。



 昔から可愛いって言われることの多い容姿だった。だから女の子に間違われることなんてしょっちゅうで、だから少し前まですごい見てくれには気を使っていた。わざと男の子っぽい格好したり、女の子らしい仕草をしてみたり。色々自分の中で他人から見られる自分を模索してみたけど、結局よくわからず。次第に見られるのも飽きてきて、今では気にしなくなって。それでついこの間。何度目かわからないほどの告白に、ついオーケイを出してしまった。



 相手は男性だった。



 女の子に可愛いって可愛がられることはあっても、男性から求められることは今までなかったからオーケイしたのかもしれない。何か違うかなって、期待したんだろうね、たぶん。



 日本における彼らは、オネエキャラとかオカマとか何かと揶揄されがちなセクシュアリティにある。その傾向も、根強さも未だにこびりついて取れない文化だ。真面目で真剣な人ほど表立って言える人がいないだろう。それこそオカマとして生きる道を宣言できる人が羨ましいぐらいに。僕だってそうだ。普通の恋愛をしている人が心底羨ましい。こんな容姿でなければ、と何度思ったことか。他人が羨むほど良いモノではないし、立派な姿ではないのだ。ちょっと可愛くて女の子に似ていて、美少女のような男の子。それだけ。それだけなんだと、そう思っていた。



「あなたの優しさに惚れました。付き合ってください」



 枝桜心という名前の彼は、銭湯帰りの僕にそう告白した。それから話を聞くに、いつぞやの気まぐれで参加したボランティア活動での老人に対する仕草、対応、言葉遣いに感銘し、感心していたのが最初とのこと。ずっと目で追っているうちに、その優しさと容姿にすっかり好きになっちゃったんだって。性格を言われたのは生まれてはじめてのことで、なんかびっくりしちゃった。



「そんな理由?」



 なんて、誤解を招きそうな聞き返しをついしてしまったほど。言ってからしまったと思ったけど、彼はたじろぎもせずに


「はい」



 って一言。かっこいいよね。男らしいや。いや、男らしいとか女の子らしいとか言えた人間では自分がないし、相手も相手だし何だけど、だけど人としてかっこいい。うん。そうだ。人としてかっこいいと、そう思ったんだ。オーケイした理由そのに。



 いつも周りにいる女の子たちは妙に色めきだっちゃって好き放題に言い放題。妄想も妄想が膨らみ破裂寸前。女の子はすごいね。……ああ、また、とか考えてしまった。らしさで決めつけられるのが一番キライなのに。だからこそなのかは、自分でもわからないけど。



「お祭りに行きませんか」



 彼に誘われた。僕は自分から何か行動できるほど強くないから、誘われてばかり。断る理由もないので頷いた。デートらしいデート一発目である。案外ふたりきりになれなかったからね。やっぱり人の目を惹いてしまうから、周りを気にして行動できなかった。でも、お祭りっていう大義名分があれば少し違うかなって。しかも、心くんの友達がたくさん一緒に来るんだって。それなら、ふたりきりよりも気が楽かも。友達と来ているっていう事実ができるし、デートも一緒にできる。周りから浮くようなことも少ない。そう思ってオーケイしたんだけど。



「ヘイ様っ! 綿あめがほしいです!」


「夢野様、夢野様。私も、私もですわ!」


「おい、レイ。そんなにくっつくな。見苦しい。えっ? 三つも頼んだのか?」


「瑠衣ちゃんりんご飴あ~ん」


「あーん……あまっ」


「黒川ヨウヘイ! 邪魔するなっ! むきーっ!」


「ヘイ様っ、はい綿あめです」


「ああ、ありがとな」




 …………想像より騒がしかった。集団で動くからとても目立つし、さらにあの姫川桃子までいるんだもの。超有名人じゃん。めっちゃ目立つよ。うう。やめときゃ良かったかな、やっぱり。



「どうしました。気分でも?」


「いや、ありがとうね心くん。そうじゃないんだけど、後ろがね」


「……ああ、なるほど。あまり目立つのはお好きでありませんか」


「そうだね…………好きじゃない」


「まあ、しばしの辛抱ですよ。中心の黒川さんがもう少しでサーカスの方へ抜けられますから、一団はそちらへと向かわれることでしょう」


「えっ! あれやるの?」


「ええ。そのようです。小耳にした話では、なんでも手品のようなことをなさるのだとか。瞬間移動、らしいですよ。見に行きます?」



 瞬間移動? まるで超能力者みたいな芸だな。



「まあ、特に予定もないし。なんとなく見に行こうかと思ってたし」


「では、参りましょう」


「うん」




 優しさで言えば、心くんのほうが断然上な気がする。付き合ってみてそう思った。紳士さでは右に出るやついないんじゃない? 丁寧すぎるよ、エスコートとか。



 そのときだった。



 彼が手を握ったてくれたのだった。



 最初は触れただけで、探るようにして合図して。私が軽く了解を出したらすっと握り返してくれた。暖かく、強くて素敵な手だった。しばらくはこれを幸せと呼んでもいいのかな。これが普通の恋愛だと、そう言っていいんじゃないか。そう思えたのだ。



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