ビキニアーマーチャーハンをありがとう

ながくらさゆき

キラキラ輝く美男子

「はあ〜さっぱりした。仕事終わりのお風呂は最高だあ」

 彼女はスーパー銭湯に勤めている。勤務した日は入浴料が無料なので利用してから帰宅する。

「お客さん、今日もあんまり来なかったなあ」

 自分が入浴する時にすいてるのはいいが、あんまりお客が来ないと経営が心配だ。



「ゆかり、おつかれ」食事処の厨房から茶髪の男が声をかける。

「あ、幸也さちや。お先に失礼」

「待って。新メニュー考えたからさ。食べてよ」

「何? また『ビキニアーマー・チャーハン』?」

「いや、今回は『ビキニアーマー・ドライカレー』」

 ビキニアーマーとはビキニの形をした女性用の鎧である。冒険ゲームや冒険小説に登場する色っぽい女性の戦士が装備してたりする。

「今回は胸の再現率高いぞ。鎧部分はパプリカにした」


 幸也がカウンターにお皿を差し出す。お椀型に盛られたドライカレーが二つ並ぶ。それらを胸と見なしてパプリカがかぶさっている。腰の部分は三角に切ったパプリカがのせられている。それから両肩にもパプリカ。


「まったく……セクハラだよ。今回の乳首は?」

「ウインナーの先っぽ」

「自分で食べてろ」

 ゆかりはあきれながら店の外に出て行った。

「干しぶどうより良くね?」

 幸也はビキニアーマー・ドライカレーを食べてもらえずガッカリした。


「幸也め、おっぱいメニューばっかり考えてんじゃないよ」

 ドスッ。

「ん、なんか踏んだ?」


 ゆかりは足元を見た。

「えっ、人!」

 ゆかりの足の下に髪の長い人が倒れている。目を閉じていて苦しそうな表情だ。髪は長いが体付きはガッシリしているので男だろう。

「えええ、どうしよう。幸也呼んでこよう」

 ゆかりは店内に戻った。


「幸也、人が倒れてる」

「ええ?」

「なんかね、色が白くて髪が長くてきれいな人」

「おお、それは助けないと」

(あっ、でも男の人)とゆかりが言うより先に幸也さちやが外に出て行った。


「大丈夫ですか! ってなんだ男か」

「ウウッ」

 倒れてる彼は目を開けた。カラコンでもしているのか綺麗な灰色の目をしている。よく見ると髪の毛は青紫色。ビジュアル系バンドにいそうな整った顔立ちをしている。彼はとてもキラキラしていて、髪と肩が白く輝いている。


「フケすごいな。何日風呂入ってないんだ」

「えっ、フケ!」


 彼のキラキラした輝きはよく見たら白いフケだった。


 ☆


「ありがとうございます」

「今日だけだよ。今日までの無料券がちょうど余ってたから」


 倒れていた青紫の髪の彼には銭湯に入ってもらった。風呂に入ってないニオイがキツくて、会話にならなかったからだ。今はお風呂あがりで、蜂蜜のいい香りをさせている。銭湯に備え付けてるシャンプーの香りだ。さっきまでギトギトしていた髪がサラサラになった。


「どんなに男前でも臭くちゃねえ……」

「臭かったらモテないだろ」

「あの、恥ずかしいのであんまり言わないでください」

「あ、ごめん」


 グキューッ


「あ……」青紫の髪の彼のお腹が鳴った。

「お腹空いてるの?」

「ビキニアーマー・ドライカレー食うか?」

「え?」

「ビキニアーマー・チャーハンもあるぞ」


 青紫の髪の彼は黙々とビキニアーマー・チャーハンを食べている。乳首部分のウインナーを先に食べるのか後に食べるのか、ゆかりと幸也は見守った。


「ねえ、幸也さちや。この料理随分雑じゃない? チャーハンにウインナー差してパプリカのっけただけでしょ」

「パプリカじゃなくて、玉子とかクリームシチューかけても良かったんだけど、それだときれいにのせるの難しいじゃん」

「えー、玉子とクリームシチューかけた方がいいよ。おいしそう」

「ブラの形にするのムズいんだって。ハムとかチーズにしようかな」


「そういえばお兄さん。お名前は?」

 ゆかりは青紫の髪の彼に聞いてみた。

「あ、名前……」

「言いたくないってよ」

「まだ何も言ってないでしょ」

「えっと……」


 思い出せないそうだ。


「どこから来たの?」

「んんと……」

「言いたくないんじゃん?」

「そうかもね」


「ごちそうさまです」

「いいってことよ」

「今日だけだよ」

「今日だけ……」

「で、この青紫君どうするんだ?」

 青紫の髪の彼は青紫君と呼ぶことにした。

「うーん。もう夜遅くて市役所やってないから相談に行けないし、幸也さちやんちに泊まらせてあげたら?」

「うちは無理」

「幸也がお風呂入らせようって言ったんじゃん。幸也が拾ったようなもんじゃん」

 どーすんだよーと二人でもめてたら青紫君が立ち上がった。

「僕はもう大丈夫です」

「青紫君……」

「ビキニアーマー・チャーハンとてもおいしかったです。ありがとうございます。この御恩は忘れません」


 青紫君はきれいな青紫色の髪をなびかせて去って行った。


「ちょっと追いかけなよ」

「だからどこに泊めるんだよ」

「大丈夫かな」

「大丈夫だろ」


 

数日後


「ゆかり、『ビキニアーマー・肉まん』作ったから食べて」

「もう、またあ?」

 幸也さちやは肉まんが入ったせいろをゆかりの前に置く。

「ビキニアーマー・メニュー、今日から商品化したから。注文殺到したら手伝ってよ」

「はいはい、こんな恥ずかしいメニュー誰も注文しないよ。ビキニアーマー・肉まんの鎧と乳首は何でできてるんでしょうねえ」

 ゆかりがせいろのフタを開けようとしたその時、お客さんがたくさん店内に入ってきた。

「ここが王子を助けた銭湯なの?」

「ビキニアーマー・チャーハンある?」

「ビキニアーマー・ドライカレーください」


「えっ、何事?」

「ビキニアーマー・メニューが求められている!」


 お客さん達に教えてもらった話では、ナントカカントカっていう長い名前の国の日本大好きな王子様がお忍びで旅行中、家来達とはぐれ何日もお風呂も入れずご飯も食べられず困っていたところ、親切な二人がお風呂を貸してくれ食事も食べさせてくれた。場所はビキニアーマー・メニューを出してる銭湯だったと発表したそうだ。

「どこの馬の骨とも分からない僕に親切にして下さりありがとうございます。いつかまた日本にビキニアーマー・チャーハンを食べに行きたいです」と書かれたお手紙が大使館から送られてきた。

 蜂蜜の香りのシャンプーも大変お気に召されたようであのシャンプーがすごくいい、輸入させてくれと書いてある。

「あのシャンプー、業務用の安物なんだけど……」

 でも王子のお気に入りのシャンプーが置いてある、王子を救った温泉があるということで来てくれるお客さんがたくさん増えた。ビキニアーマー・メニューも大人気になった。おかげでここの銭湯はつぶれずに済みそうだ。


「ありがとう。青紫君」


 おわり









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