薄っぺらな王様

荒川馳夫

多くの者がわたしにひざまずく!

多くの者が何かを待っていた。長い間、待たされているようだ。


「王様がお目見えだ。礼儀を欠くことのないように」


その声が聞こえると皆ひざまずいた。すぐに王がやってきた。


「ほう、集まったな。では、お話をしよう。この話を聞けば、私がどれほど偉いかが理解できるだろう」


王が周りの者に語り始めた。それも、耳が不快になるような声色でだ。


「最近の者たちは私たちを敬おうとしなくなった。私たちの方がベテランだというのに、デジタルとかいうやつが幅を利かせるようになったのが原因だ。お前たちもそう思わないかね?」


すると聴衆からいくつもの返事があった。


「ごもっともでございます。私も最近は人に使われる機会が少なくなりました。スマートフォンなるもので本を読んだりすることが増えたようです。ページをめくる手間すら惜しいというのか……」


「まったくです。新しい情報を得るのに、インターネットを使うのが当たり前の時代になった。我々新聞はただかさばるだけの存在に成り下がってしまった。人間は薄情者だ……」


愚痴が飛び交うなか、自信満々に王が言った。


「そうか、それは残念だねえ。だが、私は違う。電子機器に頼る時代になろうと私の価値は変わらぬ。多くの人が私にひれ伏す。人間世界の偉いやつだろうが私なしでは何もできぬ。だから、私は王なのだ。『紙の王』だ!異論はないであろう?」


何も返答はなかった。それが事実だったからだ。



 現代の私たちは紙に頼る機会が随分と減っているように思えますが、決して無くなることはありません。その証拠に、皆さんのすぐそばに『紙の王』はいるのです。


どこに?ほら、支払いの時に財布から出てくるアレですよ……。








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薄っぺらな王様 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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