女郎霊

斉藤なっぱ

第1話

私は貧しい農村で生まれました。名をしずと申します。私は小さい頃から肌の色は白くきっとこの子は美人になるよと言われて育ちましたが、毎日の家事や小さな妹たちの世話、農村での仕事に追われ、すっかり見る影をなくし、なけなしの金で買った鏡にはそれは焼けて小さなしょぼくれた幼女の姿が映るのでした。当時の日本は内乱が続き、あまり政治に詳しくない無知な私たちにも西郷隆盛の軍が押し寄せてきて何やら戦争をしているようだと伝わってきたのでございます。貧しいものはより貧しくなっていき、戦争はいつまで続くのだろうかと心を痛める日も少なくなく、そうして…私は女郎部屋へと売られることになったのでございます。年端もいかない少女だった私にはその仕事がどんなものであるのか想像もつきませんでした、ただ見送ってくれた両親が幸せそうにしていた、ただそれだけで十分だったのでございます。

それから色んな人を相手にしました、この戦争は負けると予言のように呟く人たちもいました。肉欲はとどまることを知らず、私はその仕事に喜びすら感じていました。芋の粥しか食べられない生活からしたらどんなにかましだろう……!

その仕事がどんなに危険をはらんでいるのか、また両親が幸せそうだった理由すら、私には見当がつきませんでした。ただ猿のように肉体を重ね、それが毎晩のように続いていくだけの日々を過ごし、やがて私は病気をもらい、やせ衰えて野垂れ死んだのでございます。そしてあれから月日が流れ私は地縛霊となってここで休んでいました、売春のメッカだったこの土地は豊かな住宅街となっており、子供たちがきゃきゃっと騒ぐ声がします。私は霊となってその幸せそうな様子を眺めていましたそして女郎小屋だった場所に立った住宅に幸せそうな親子が住み着くようになったのでございます。一人娘は毎日ハンバーグやステーキを食べ朝はパン、お昼は母親の作った弁当を食べていました、ほとんど食べられず、芋粥がご馳走だった私の人生とはなんだったのだろうかと思うようになりました。恨めしい……私は嫉妬で狂いそうなほどになり清潔で幸せな人生のあの子にとりつき運命を狂わせてやりました。まずあの子はご飯が食べられなくなりました。私のようにがりがりやせ細って死んでほしいという願いが神様に届いたのです。夢魔の見せる官能の夢のように幸せでした、やがてここに祈祷師が現れ、それでも私は成仏できませんでした。幸せで清らかなあの子たちが悪いのよ……私は三人ほどの女の子を殺しました。ここは出る、昔ここで売春が行われていたと住民たちが知ることになり呪われているということが知れ渡るようになったのでございます。私は梳いていない髪の毛を振り乱し、今日も自分の身の上の呪う毎日を過ごしていくのでございます。

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女郎霊 斉藤なっぱ @nappa3

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