第6話 エンディング召喚でございます
というわけで、百連コンボをキメたわたくしは、扉の前で二人の兵士が捕まえに来るのを待ちます。
RTA走者にとって待つだけというのは非常にもどかしい時間なのですが、こればかりはどうしようもありません。
その間にやるべきは、「足フェチ錬成」で得たふたつのアイテムをインベントリから取り出すだけです。
ひとつ目は『天使のハンカチ』――これを右手に装備いたします。
ふたつ目は『催眠ポーション』――これを左手に装備いたします。
これでなにをするか、もう想像がついたかと思います。
準備が整ったわたくしは、兵士に両脇を抱えられて華麗に退出となります。
王座の間から廊下に連れ出されると、扉が閉まります。
通常なら、このまま地下牢に幽閉されるのですが――わたくしは『天使のハンカチ』を口元に当て、『催眠ポーション』を二人の兵士を振りかけます。
すると――。
二人の兵士はすぐさま眠ってしまいますが、状態異常攻撃を無効化する『天使のハンカチ』のおかげで、わたくしは問題なく動けます。
そこで、昏倒する兵士の一人を抱え込み、扉にもたれかかるように立たせます。
さて、ここからがちょっとシビアなので、ガチ集中モードに切り替えましょう。
わたくしがやろうとしているのは「扉抜けバグ」。
『王妃(仮)』に限らず、多くのゲームで扉はバグの温床だそうです。
扉という日常ではなんてことないオブジェクトですが、ゲームでそれを再現するのはとんでもなく難しいらしいです。
詳しくは「扉 バグ」で検索してほしいのですが、扉ほど開発者泣かせなものはないみたいです。
もちろん、バグゲーである『王妃(仮)』においても扉バグは健在。
基本的にどんな扉もすり抜け可能になっております。
その方法はいくつかございますが、わたくしがやろうとしているのは最高難易度――1フレーム技(約0.016秒以内)を3回連続で成功させなければなりません。
ですが、何千回とやり込んだわたくしにとっては楽勝でございます。
「小足見てから余裕でした」なのです。
立てかけた兵士のお腹を蹴ってジャンプ。
肩を蹴ってもう一度ジャンプ。
兵士と扉の間に足を挟み込んだ瞬間|(1フレーム)――インベントリを開き、すぐに閉じる(1フレーム)。
そして、わたくしと兵士の身体が重なった瞬間|(1フレーム)、もう一度ジャンプ。
そうすると、扉と重なったわたくしは、王座の間の中へと押し出されるのです。
一発成功ですわっ!
この瞬間――エンディング召喚するためのフラグがすべて成立いたしましたわ。
◇◆◇◆◇◆◇
イェーリオ様ルートでエンディングが召喚される条件、それは――。
(1)『精霊の指輪』所持。
(2)『機密書類Ω』所持。
(3)イェーリオ様の好感度200以上。
(4)関係者が王座の間に揃っている。
この4条件を満たした上で、王座の間に入ることでございます。
わたくしがオープニングバグを発見するまでは、(4)が一番厄介でした。
オープニング以降はイェーリオ様はしばらく王座の間には近寄らないのです。
なので以前は、気絶させたイェーリオ様を窓から投げ入れなければならず、なかなかシュールでした。
ですが、オープニングシーンは関係者がみんな揃ってので、(4)は自動的に満たされ――エンディング開始です。
『王妃(仮)』のAny%はこの瞬間までのタイムを競うものです。
ステータス画面で経過時間を確認すると――。
――5:21.334。
よしっ!
記録更新っ!
ゲームと同じように、なにごともなくイェーリオ様エンドが始まった。
イェーリオ様が私に駆け寄る。
もちろん、一人だけだし、服もちゃんと着てる。
イェーリオ様にぎゅっと抱きしめられる。
ああっ!
憧れの王子様に抱かれ、脳が蕩ける。
生きてて良かった。
ホント、生きてて良かった。
イェーリオ様と結ばれる幸せ、そして、記録更新できた喜び。
ふたつの思いに、私は歓喜する。
その後は、ゲームと同じ流れだった――。
イェーリオ様が『機密書類Ω』を突きつけ、ダメ王子とビッチを断罪する。
青ざめた顔の二人は兵士に捕縛されて退出だ。
イェーリオ様が私の左手を取って高く掲げる。
『精霊の指輪』を皆に見せつけ、永久(とわ)の愛を誓う。
私とイェーリオ様の結婚が認められ、万雷の拍手が沸き上がる。
鳴り止まない拍手の中、イェーリオ様は私を強く抱きしめ、永遠にも思われる熱い口吻を――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
まさキチです。
お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
現実世界に戻れたのか、イェーリオ様とのイチャイチャ生活を送ったのか、皆様のご想像におまかせします。
お楽しみいただけましたら、フォロー、★でご支援下さいm(_ _)m
今後の執筆の励みになります。
◇◆◇◆◇◆◇
【宣伝】
まさキチの他作品もお楽しみいただけたら幸いですm(_ _)m
『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜』
https://kakuyomu.jp/my/works/16816927859671476293
リボ払いは絶対にやめよう!
ってお話です。
主人公を追放したパーティーがざまぁされるのを楽しみながら、借金の怖さも知れますよ。
幸いなことに、カクヨム公式から「カクヨム金のたまご」
https://kakuyomu.jp/features/16816927860888621999
で取り上げていただき、現在ランキング上位入りしてます。
こちらもご支援いただけたら嬉しいですm(_ _)m
『勇者(男)だけど、魔王(女)が「一年待てば強くなるからそれまで待て」って言うから一年待ってみた 〜ポンコツ魔王とお人好し勇者のほのぼのラブコメストーリー〜』
https://kakuyomu.jp/my/works/16816927859755592711
魔王(女)「一年待て」
勇者(男)「それ去年も言ったよな?」
ここから始まるラブコメです。
1万文字弱。
サクッと楽しめる作品です。
すきま時間、寝る前のお供にどうぞ。
『小説家になるためのQ&A』
https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054891032910
短いエッセイです。
書くのがツラいときにお読み下さい。
◇◆◇◆◇◆◇
twitterやってます
https://twitter.com/MasakichiNovels
@MasakichiNovels
バグ技は淑女の嗜みでございます まさキチ @maskichi13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます