第5話 パシン、パシン、パシン、パシン――

 128人の半裸イェーリオ様が並ぶ天国――。


 わたくしはこのゲームをとことんまでやり込んでおります。

 イェーリオ様の尊い姿を拝むために、昼も夜もやり込みました。

 嬉しい日には、イェーリオ様と喜びを分かち合い。

 悲しい日には、イェーリオ様に慰めてもらう。

 わたくしの生活はイェーリオ様とともにあったのです。

 イェーリオ様はわたくしの灰色の生活に差し込んだ一条の光でした。


 イェーリオ様がいらっしゃったからこそ、お局さんクソババアのイビリにも、上司クソジジイのセクハラにも耐えられました。

 信頼できる友人も、甘えられる恋人も、わたくしには一人もおりません。

 そんなわたくしを支えてくださったのはイェーリオ様だけでした。


 わたくしにとって伴侶とも言えるイェーリオ様。

 どのお姿CGも素晴らしいのですが、ひとつ問題がございました。

 もっとも尊いお姿CGには、正規の方法では出逢えないのです。普通にプレイしても、CGやムービーを鑑賞するモードでもお逢いできないのです。残念ながら、バグを利用しなければ出逢えないのです。


 そうです。

 128人の半裸イェーリオ様に出逢うには、この方法しかなかったのです。

 そのうえ、この光景は保存できません。

 このお姿にお逢いするためには、毎回イチからやり直さねばならないのです。

 それゆえ、わたくしは走り始めたのです。

 一秒でも速くこのお姿にお目にかかるために――。


 じゅるり。


 ずっと眺めていたいところではありますが、そうもまいりません。

 キャラ選択画面で一定時間放置すると、ダメ王子が怒っ斬りかかってくるという謎エンドになるのです。

 このあたりが『王妃(仮)』が『王妃(仮)』たるゆえんなのでございます。


 ですので、名残惜しくもイェーリオ様を選択。

 イェーリオ様と視線が交わり、わたくしの心臓がキュンとなりますが、イェーリオ様の視線に熱はこもっておりません。

 現時点で、イェーリオ様の好感度は100。

 わたくしを好きでも嫌いでもない、ニュートラルな状態なのです。


 イェーリオ様はオープニングでは、一切行動いたしません。

 まあ、当然でしょう。もし、なんらかのアクションを取れるようにしていたら、新たなバグが生まれるだけです。

 クソ運営としては、懸命な選択でしょう。

 ともあれ、イェーリオ様が動けないことが、この後の行動に大切になるのです。


「――そこの悪女を牢に幽閉せよッ!」


 ダメ王子が部下に命じました。

 その後ろではビッチが醜悪な笑みを浮かべております。


 この後は、二人の騎士によって連行され、牢に閉じ込められる流れです。

 けれど、RTAプレイヤーが黙ってそれを待っているわけはないと、すでに皆様ご存知でしょう。


 インベントリを開いて、あれやこれやしますと――。


 本来は動けないはずなのに、自由に動けるようになるのでございます。

 今までは半径1メートル以内しか動けなかったのですが、赤絨毯の上ならば自由に移動可能になるのです。


 ほんとうに便利ですわね、インベントリ。

 『王妃(仮)』では、インベントリはバグの宝箱。

 大抵のことは、インベントリを操作することでなんとかなってしまうのです。

 あまりにも便利すぎて『四次元ポ○ット』と呼ばれておりました。


 というわけで、自由になったわたくしはクルリと反転、ずらりと並ぶ半裸イェーリオ様に向かって、まっすぐと腕を伸ばします。手のひらは開いたままです。

 騎士たちがわたくしを捕らえようと向かって来ますが、それより先にわたくしは扉に向かって走り出す――。


 走りながら、わたくしの手のひらは次から次へと半裸イェーリオ様の頬をビンタしてまいります。

 なぜ、最愛のイェーリオ様の頬を叩かないといけないのか、それはもちろんわたくしがドSだから……ではなくて、これこそがクリアに必要なみっつ目のフラグだからです。


 パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン、パシン――。


 彫像のように端整なご尊顔をビンタしていく乾いた音がリズミカルに鳴り響きます。


 これぞ、『王妃(仮)』名物の手動ビンタ!


 『王妃(仮)』にはアクションシーンも登場いたします。とはいえ、乙女ゲームなので、ガチではありません。

 『ビンタ』や『キック』などのオートコマンドがあり、タイミングに合わせて、コマンドを選ぶだけで自動的に攻撃が発動いたします。

 ここまでは問題ないのですが、クソ運営はいつものごとく無駄なこだわりを見せ、格闘ゲームみたいにプレイヤーが手動で主人公を動かすこともできるようになっております。

 手動戦闘では、攻撃判定は身体部位の座標と移動速度で決定されます。

 なので、戦闘シーンでなくても、今回みたいに速く身体を動かすことによって攻撃判定が発生するのです!。


パシン、パシン、パシン、パシン――。


 あっん、快感っ!


 エンディング召喚のためのみっつ目のフラグ。それは攻略キャラの好感度ですの――パシン。

 攻略対象の好感度は0から255まで――高ければ高いほど主人公への好感度が高いのです――パシン。

 そして、クリアするためには対象キャラの好感度が200以上なければならないないのです――パシン。


 だから、今はイェーリオ様の好感度を上げいてる最中でございます――パシン。

 言い間違いじゃないですわよ――パシン。

 下げているのではなくて、上げているのですわよ――パシン。


 なぜ、ビンタでそれが可能ですかって?

 それは愛しのイェーリオ様がドMだから――パシン。


 ではないですわよ。もちろん――パシン。


 当然のことですが、キャラを攻撃すると好感度は下がります――パシン。

 さすがに攻撃して好感度が上がるほど『王妃(仮)』は狂ってはおりません――パシン。

 バグまみれではありますが、世界観自体は王道なのです――パシン。

 わたくしがビンタするたびにイェーリオ様の好感度は1ずつ下がっていきます――パシン。


 そして、好感度がゼロになったところで――パシン!


 もう一発お見舞いすると、好感度は-1ではなく、255になるのですっ!


 いわゆる――「負のオーバーフロー」と呼ばれる現象ですわ。


 パラメータがゼロより小さくなれないので、最高値になる仕様(バグ)なのですわ。

 ふた昔前のレトロゲーではよくあったそうなのですが、この時代にそんなバグ潰さないわけがない――と思われるでしょうが、そこが『王妃(仮)』の『王妃(仮)』たるゆえんでございます。

 だてに、ク○ゲーオブザイヤーは受賞しておりませんの。


 ちなみに、なぜクソ運営が対策していないかと申しますと、通常プレイではゼロまで好感度が下がらないからです。

 キャラの好感度が20未満になると、主人公はそのキャラに殺されバッドエンドになるのです。

 なので、好感度がゼロになることはあり得ないから、いいよね――これがクソ運営の発想でございます。呆れてものも言えませんわね。

 まあ、そのおかげで5分ちょっとでエンディングが拝めるのですから、文句を言える立場ではありませんわね。

 殺されバッドエンドはオープニング中は発動しないのでございます。


 ということでビンタ百連発によって、イェーリオ様の好感度はMAX状態――余裕でフラグ成立でございます。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


ここまで長い長い道のりでございました。

ようやく、わたくしとイェーリオ様が結ばれますわ。


次回――『エンディング召喚でございます』


最終回でございますわ!


本日午後8時頃更新します。

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