第7話 極限闘破
立花・桔梗・門脇の三人は目立たないように塀に寄り掛かるように立っていた。
門脇がひょこりと顔を出し心配そうに道路を覗き込んでいた。
「アレかなあ?」
門脇が見ていると車が一台やってくるのが分かった。
「そうみたいだな」
「ああ、運転してるのは桜井だろう」
もちろん、運転しているのは桜井だ。借りてきた(?)車が三人の元にやって来たのだった。
「ほら、言った通りだったろ?」
立花が得意げに話しながら後部座席のドアを開けていた。
彼は桜井が車を調達して戻って来ると言っていたのだ。
「そのまま逃げても問題なかったのに……」
桔梗が苦笑いしながら言っていた。桔梗は桜井が戻ってこないと言っていたのだ。
普通に考えてもそうだろう。誰だって面倒事は嫌なものだ。
「まあ、いいじゃねぇか……」
立花はそう言って後部座席に乗り込んでいった。
助手席に桔梗。門脇は後部座席に乗り込んだ。
「よし、逃げ出そうぜ」
「ああ、そうしよう」
「ごーごー!」
「はいよー」
四人が乗った車は大通りに乗り出した所で桜井が質問した。
「何処に向かいます?」
「大きめな駅なら良いんじゃないか?」
立花が返事をした。
「終電に間に合うだろう」
腕時計を見ながら桔梗が答えている。
「嬢ちゃん。 実家は何処だ?」
立花が門脇に尋ねた。
「淡路島です」
「じゃあ、東京駅だな」
「あいよー」
四人は東京駅に向かうことにしたようだ。
「……」
暫く走っていると桜井が急に黙り込んだ。盛んにサイドミラーを見ている。
「どうした?」
その様子に気が付いた立花が桜井に尋ねた。
「お客さんが来たようだ……」
替わりに桔梗が返答した。彼も後方を気にしていたようなのだ。
立花が後ろを振り返るとバイクが二台やってくるのが見えていた。
「連中の仲間か……」
バイクが側に近づいてくるとは二人乗りであるのが見える。後部席に座る奴は、これ見よがしに鉄パイプを振り回している。
「ふっ、バイクでどうしようと言うのさ……」
桜井はニヤリ笑うと運転席のドアを開けてブレーキを踏んだ。
車は急速に減速してバイクに迫る。避けようと足掻いたバイクは駐車していた車に突っ込んでしまった。
仲間のバイクが事故を起こした事に驚いたもう一台はバランスを失って転倒してしまった。
「バイクの後ろからも白い車がやって来るな」
事故を起こしたバイクの事など無視して白い車が迫ってきたのだ。
車の行く手をトラックが塞いだ。仕方なく車は違う路線を選ぶ。
「そっちは高速道路だ」
「分かってますよぉー」
四人の乗る車は首都高速道路を逃げた。
かなりキツ目のカーブをカウンターをあてながら曲がっていった。
桜井が見た目と違ってドライビングテクニックが優れていたのだ。
「うおおおおっ」
「あっはっはっはっは」
「きゃあきゃあ」
「ひゃっほぃ」
桜井以外の面子は車の挙動にドギマギしている。日常生活ではお目にかかれない運転であるからだ。シートベルトをしているとは言え、体重が座席に押し付けられたり剥がされそうになったりとカオスな状態だ。
「アンタ、車の運転が趣味なの?」
「ええ、車のカスタムするのに金がかかるんで、車上狙いで資金調達をするようになったんですよぉー」
桜井がそんな事を言っていると、一台の赤いスポーツタイプの車が近づいてきた。ルーレット族であろう。
猛スピードで自分を抜き去った社用のバンに挑戦されたと勘違いして並走して来たのだ。
ルーレット族とは首都高速道路の環状部分をサーキットのように見立てて、タイムを競う集団がルーレット族と呼ばれるようになった。関西方面だと環状族と呼ばれるらしい。道路交通法に明確に違反しているのだが何故か取締が緩い。
「ええい、この忙しい時に!」
桜井が毒づいた。
自分たちの真後ろにはハングレたちの追跡車が盛んにパッシングしている。止まれというのだろう。
(止まれと言われて止まる奴なんか居ないだろう……)
「んんーーーー、ちょいっとなっと……」
桜井はルーレット族の前でブレーキを踏んだ。車が急に減速するのが体感で分かる。慌てたのはルーレット族の運転手だ。
いきなりのブレーキランプの点灯に慌ててかわそうとして、ハングレたちの追跡車を巻き込んだ事故を起こしてしまった。
「お前、とんでも無い奴だな」
宙に舞う二台の車を見ながら立花が言った。
車は様々な部品を撒き散らしながら路面に叩きつけられクルクルと回転していた。
「褒めて貰えて嬉しいです」
邪魔な車が纏めて消えたのが嬉しいのか桜井は上機嫌で答えてきた。
「いや、褒めて無いし……」
立花は呆れたように言った。
しかし、中々にぶっ飛んだやり方をする桜井の事が気に入ったらしい。
「覚悟が無いのなら家に引きこもって膝を抱えていれば良いんですよ」
「見た目と違って過激なんですね」
そんな桜井に門脇が言った。
事実、桜井は職務質問されるより道を聞かれる事の方が多い。飄々とした桜井には良い人オーラが出ているらしい。
もっとも、中身は前科三犯のクズ野郎だ。
「いやあ、照れるなぁ」
「いや、褒めて無いし……」
門脇も呆れたように言った。
「わはははは」
桔梗は面白いのか笑いっばなしであった。彼はこう言うギリギリの状態が好きなのだろう。
その時、大型トラックが追い越していった。
カーブを抜けた先にある出口への分岐に、先ほど追い抜いて行った大型トラックが道を塞いでいた。
群狼牙突 百舌巌 @mosgen
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