KAC20226 全国のみんなー、佐賀に魅力をわけてくれーっ!

無月兄

第1話

 その日佐賀県庁では、ある重要な会議が行われていた。


 会議のテーマは、如何にして佐賀の魅力をアップさせるか。

 はなわ、がばい婆ちゃんなどで時々話題にはなるものの、県の魅力度ランキングでは底辺付近がホームと言っても過言でない現状を、なんとかして打破したい。そんな思いから企画された会議ではある。

 しかし、いくら知恵を絞ったところで、佐賀はしょせん佐賀でしかなく、今さら魅力度アップなど不可能ではないか。そんな諦めの思いが、みんなの心にもあるのだろう。会議が始まっても、職員達の口は重く、会議室全体が暗い雰囲気に包まれていた。

 ただ一人の職員を除いては。


「こちらをご覧ください」


 その職員が機械を操作すると、壁にかけられたスクリーンに、とある池の写真が写し出された。

 牟田池という、佐賀県有数の貯水量を誇るダム池だ。しかし、ただそれだけ。とても、県の魅力度を上げる要素があるとは思えない。これを、いったいどうしようというのか。困惑する周囲をよそに、その職員は続ける。


「大規模な工事を行い、牟田池の面積を広げます。最終的に、現在の二倍の大きさは目指しましょうか」

「おいおい、そんなことして何になる?」


 全てを言い終わらないうちに、誰かが口を挟む。すると、待ってましたとばかりに、こう問うた。


「皆さん、こう言われたことはありませんか。『佐賀って琵琶湖があるところでしょ?』」


 その瞬間、会議室の空気が震えた。 


「ある。百万回くらい言われた!」

「琵琶湖があるのは滋賀だと、何度言ってもそんな輩が出てくる」

「でかい池があるのがそんなに偉いかバカヤロー!」


 佐賀と滋賀。名前が似ているため起こる勘違いではあるが、佐賀県民にとっては屈辱だった。もしかするとそこには、琵琶湖なんて名所がないという悔しさもあるのかもしれない。

 一気に怒りムードの漂う会議室。しかし、それこそが職員の狙いだった。


「皆さんのお怒りはごもっとも。ですが、それを逆手に取るのです。琵琶湖があるのは佐賀。そんな風に思っている人達が溢れている中、佐賀にそこそこ大きな湖ができたら、どうなると思います」

「どうって……」

「まだわかりませんか? そこを琵琶湖と勘違いした人達が、こぞって観光にやって来るのです」

「なっ……!」


 それは、あまりにも突飛なアイディアだった。だが不思議と、誰からも反対意見は挙がらない。


「観光客の増加はもちろん、反響しだいではこちらが琵琶湖を名乗るのだって夢ではないかもしれませんよ」

「佐賀に琵琶湖ができるというのか」


 決して正攻法なやり方ではないだろう。だが魅力に餓えていた佐賀県にとって、琵琶湖を我が物にできるかもしれないという事実は、この上なく甘美な響きを持っていた。


 しかし、これは壮大な計画のほんの一部に過ぎなかった。その職員の語る計画は、決してこれだけではなかったのだ。


「唐津市に、名護屋城跡(なごやじょうあと)というものがあります。豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に拠点として築いたものですが、大事なのはその名前。もしもここに、金のシャチホコでも置いたらどうなると思います?」

「あっちの名古屋城と勘違いしたやつらがやって来る!」

「その通り。近くに味噌煮込みうどんの店でも出したら完璧です」


 さらに──


「佐賀と言えば、かつての呼び名は肥前の国。そこで、有田焼や伊万里焼といった佐賀県の焼き物を、全て肥前焼(ひぜんやき)という名前に統一します。そうすれば、備前焼(びぜんやき)と勘違いした人が購入すること間違い無しです」

「素晴らしい!」


 まだまだある──


「鳥栖市民は、自分たちのこと『福岡県側』だと思っている。ならばいっそ徹底的に福岡に擬態して、オシャレで垢抜けたイメージにするのです」

「ますます福岡に寄せられるのだから、鳥栖市民も喜ぶだろう」


 次々と出される画期的なアイディアに、もはや職員一同、スタンディングオベーションだ。


「「「全国のみんなー 佐賀に魅力を分けてくれーっ!」」」


 こうして、一連の計画は全て採用。日本各地から様々なものをパクるこの計画は、佐賀を豊かにするという願いをこめて、『佐賀百万石プロジェクト』と名付けられた。


 そして、この狙いは見頃大当たり。あっという間に、佐賀の魅力は急上昇。


 それはそうだろう。今や佐賀は、琵琶湖に、名古屋城に、備前焼に、福岡を有していて、加賀っぽいきらびやかさを持つ県となったのだ。これほど魅力的な都道府県が他にあるだろうか。いや、ない!


 こうして、佐賀県は誕生以来の隆盛を極めることとなる。












 だがある時、佐賀に悲劇が起こった。

 日本政府から、このようなお達しがあったのだ。


【佐賀百万石プロジェクトで主体となっている土地は、全てパクり元である都道府県の植民地となりました】


「「「なんだとーーーっ!」」」


 そのお達しがきた瞬間、佐賀県庁は悲鳴に包まれた。

 せっかく力を入れて、パクり、開発してきたというのに、その土地そのものが佐賀県ではなくなってしまったのである。

 最初にアイディアを出した職員など、ショックで泡を吹いて倒れてしまった。


「こんなことが許されていいのか。植民地で暮らすことになってしまう人達はどうなる!」

「それが、これで正式にメジャー県民を名乗れると喜んでいます」

「そんな……」


 こうして、各地都市を没収されてしまった佐賀県。

 元々魅力に乏しかったところに、なけなしのPRポイントがこぞってとられてしまったのだから、残された部分はそれはそれは悲惨だった。もはや畑と田んぼ以外に何もない。


 少し前までの隆盛とは一転。一気にどん底に叩き落とされた佐賀県民は、そのショックで生きる屍のようになってしまった。


 そんな佐賀県を見て、人々はこう言った。

 ~ゾンビランドサガ~











 しかしそんな中、佐賀にも数少ない希望が残っていた。


 佐賀牛。そして、ありたどり。

 言わずと知れた、佐賀のブランド牛&ブランド鶏である。

 しかし、なぜその二つが残ったのか。


「これらも他の県をパクろうと思ったんだけどな、それだと産地偽装になるからやめといた」


 そう。食品関連だけは、昨今の産地偽装による世間の目とコンプライアンスに配慮し、パクるのをやめたのだ!


 こうして、佐賀牛とありたどりに佐賀の最後の希望を託し、佐賀県民は毎日ステーキと焼き鳥を食べるようになったという。


 特に焼き鳥は、食べ歩きもできるということで、佐賀限定で若者に大流行。佐賀に残った唯一の希望ということで、みんな死に物狂いで食べていた。


「朝、昼、晩、食事は全部ありたどりの焼き鳥です。給料が入ったら、佐賀牛のステーキを食べます!」


 ここから、焼き鳥とステーキを主軸とした佐賀の新たなアピールプランの物語が始まるのだが、それはまた別の話だ。





 ※佐賀県の皆様、本当に、本当に、ほんとーに、申し訳ありません!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20226 全国のみんなー、佐賀に魅力をわけてくれーっ! 無月兄 @tukuyomimutuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ