鬼が店長の居酒屋さん、始めました。お昼はカフェ・レストランです。~モーニング&ランチサービス有ります~

とほかみエミタメ

第1話

「ねえねえ~、眞小都まことちゃ~ん。何だか私達って~、ここ数日毎日お店に通っちゃっているよね~。う~ん、でもまあ~「百鬼夜行ひゃっきやこう」は楽しいからしょうがないか~」


 僕の隣にて、おっとりとした口調で話すこの女子は麻宮逢あさみやあいちゃん。僕こと上代眞小都かみしろまことと同じ私立大御宝おおみたから学園・高等部のクラスメイトor親友です。ちな、大御宝学園は小中高一貫校のマンモス校だったりします。


 それでもって今現在、そんな二人の眼前には七色に光り輝く鳥居の形の妖怪「変わり門」が佇んでいる。この鳥居をくぐれば、外界とは隔絶された世界の居酒屋・百鬼夜行へと行ける仕組みなのだ。


 この変わり門が座する場所は大御宝学園の裏庭である。しかし、ここいら一帯には結界が張られており、絶対に一般人には見つける事が出来ない仕様となっているのです。


 そのハードルをクリアしたのち、更に変わり門に認められた者だけが、居酒屋・百鬼夜行に辿り着けるのです。変わり門=変わりもん=変わり者……そう、即ち単なる駄洒落でありまする。


 従って、僕と逢ちゃんは当然普通の人間ではありませぬ。両名共に見た目こそ超絶美少女の女子高生ですが、逢ちゃんはサイコキネシスやテレパシー云々、何でも御座れの超能力者だし、僕とて女装を極めたるおとこだったりします。


 ん? 「お前はサイキックJKと比べたら、遥かに劣ってんじゃねーか」との罵声ばせいが聞こえた気が致しますよ?


 ちっちっち、浅はかなりですぞ御客人おきゃくじん


 残念ながら僕の美貌は相当の物ですよ? そんじょそこらの女の子には負けていないと自負しておりますし、声だって某女性アイドル声優に匹敵する萌えボイスを完備しておりますから、声豚をキュン死にさせるくらい朝飯前かと。


 そして、件の居酒屋・百鬼夜行ですけれど、経営者もガチの妖怪の方々で、何と店長はの有名な鬼の頭領である酒呑童子しゅてんどうじさん(既婚者・息子と娘、二児の父)なのです。


 それで、副店長兼料理長が茨城童子いばらきどうじさん(酒呑童子の右腕・鬼族のナンバー2)と言う鬼なのですが、こちらの御方は女装が大の得意なのです。


 その茨城童子さんがですね、何と僕の女装姿を拝見して、最早妖術レベルであると絶賛してくれたのですよ。つまり、僕の女装は茨城童子さんのお墨付きと言う訳なのですな。えっへん。


 てな感じで、僕や逢ちゃんの様な、まさしく常人でない面々がお客さんとしてつどっているのが、居酒屋・百鬼夜行と言う訳なのです。


 それと、百鬼夜行には人間だけではなく、普通に妖怪の常連さんも来店されます。何せ僕達の学校の理事長先生は、妖怪の総大将であるぬらりひょんですし、僕と逢ちゃんのクラス担任兼、僕と逢ちゃんが所属する文芸部顧問の渡辺京夏わたなべきょうか先生は骨女って妖怪だしね。


 ここで、僕はふとスマホで時刻を確認する。


「おっと、現在午後の8時か……では、そろそろ百鬼夜行に入店致しましょうぞ、逢ちゃん。本日はついに、一切が謎のベールに包まれた禁断の不人気メニュー「なぞ焼き」をオーダーするのだからね」

「うんうん~、そうだよね~。だからこそ~、ついつい緊張しちゃって~、歩を進めるのを躊躇ちゅうちょしちゃったんだよね~。でも覚悟を決めて~、いざ向かおうぞ~、眞小都ちゃ~ん」

「おうともさ! 全くもってその通りだぜ、逢ちゃん! いざや、入店つかまつらん!」


 こうして、僕と逢ちゃんは変わり門をくぐり、一気に居酒屋・百鬼夜行へとなだれ込む様に突入する。


 お店の外観は伝統的な日本家屋なのだが、入口はナチュラルに自動ドアである。お店の中もお洒落な空間が広がっており、若者受けしそうな内装なのです。


「やーやー、いらっしゃいませなのだー、ー。今日もお二人での御来店で、相変わらずの仲良しこよしさんなのだー」

「……いらっしゃいませ、なのです……連日の御来店、感謝感激雨あられ、なのです……」


 お店に入ると同時に挨拶をしてくれたのは、わいら&おとろし姉妹ちゃん。ここ百鬼夜行のお運びさんです。


 元気いっぱいで和服メイド姿に身を包んでいる方が姉のわいらちゃんで、大人しめで洋風メイド姿なのが妹のおとろしちゃんですね。


 二人共に見た目こそ超絶ちょうぜつ幼いのだが、実はよわい千歳を超える神獣しんじゅうらしいです。


「はぁ~、いつ来てもこの感じがイイ気持ちだよね~。店内へと入った途端に~、身も心もスッキリした感じになってしまうんだよね~」

「やーやー、それはそうですなのだー。百鬼夜行のお店自体が、家獣かじゅうさんって言う屋敷の姿形すがたかたちをした妖怪さんなのですなのだー。だから気分爽快になっちゃいますなのだー」

「……家獣さんは、お客様のストレスやら疲れを糧としています、なのです……現代社会にミラクルフィットした、癒しの物の怪さん、なのです……」

「うんうん~、しかも家獣さんって、業務用空気清浄機ばりの役割も果たしちゃってて~、店内の清掃も全部やってくれるのでしょう~? とっても万能且つ優秀だよね~。いいなぁ~、私の家も家獣さんになってほしいよ~」


 ふむ、それにしても、百鬼夜行は本日もなじみ客で大繁盛だ。何時も見る顔ぶれが勢揃いってな感じでござんすよ。


 そんな事を考えておりましたらば、カウンター席を離れ、ふらふらとこちらに近寄って来る一人の酔っ払い野郎に、僕達は絡まれてしまいます。


「ヒック、ウィー……こらぁー、まーた現役jkが居酒屋なんぞに来やがってからにぃー。この正義の味方のー、本郷昇太郎ほんごうしょうたろうことイタダキマス仮面が補導しちゃうぞー……ヒック!」


 んもう、酒くさっ! この酔っ払い、実は正義のヒーローをやっており、敵対する悪の組織・ゴチソウサマーと日々戦っているのです。


「あらあら、御免なさいねー。直ぐに向こうへ連れて行きますからー」


 そう言いながら、間に優しく割って入ってくれたのは蜂川奈央はちかわなおさん。ゴチソウサマーの女幹部であり蜂の怪人である。


「いやいやー、奈央さんやー、これは未成年に対しての教育的指導をですねー、ヒック!」

「ええい、お黙り! 若人わこうど達に迷惑を掛けてんじゃないよ! ワタシの毒針を食らいな!」


 奈央さんは美しい容姿から禍々しい蜂の怪人の姿になると同時に、自身の尻尾の針で本郷さんを刺して気絶させ「うふふ、失礼しましたー」と本郷さんをり、自席に戻って行った。


 ここ百鬼夜行では、この様に敵味方が呉越同舟ごえつどうしゅう状態なのが日常茶飯事にちじょうさはんじだ。しかし、例の家獣さんの妖力により、来店すれば皆が睦まじくハッピーとなっちまいます。ちな、本郷さんと蜂川さんは周囲には内緒で恋人同士だったりします。キャッ♡


 すると、ここで別の座敷席より、先程のやり取りを傍観ぼうかんしておりました、二人のほろ酔い女性客から声を掛けられます。


「お、今日も来ちゃってんじゃん、不良JK二人組め」

「オーッホッホッホ! 良いですわね、青春真っ盛り! ワタクシ達も若かりし頃に戻りたいものですわ!」


 彼女らはVIP御用達の高級キャバクラ嬢。しかしてその正体は、魔法少女ユニットのマドカさんとアケミさん(両者共に源氏名で本名不明)で、悪い魔女と戦っている。彼女らは既に「少女」と呼ばれる年齢ではないらしいけれど、そこはご愛敬。


 そばには常に、猫に似た使い魔であるキュゥすけちゃんも居たりするし、特にアケミさんの方はアニメに出てくる様な金髪縦ロールにお嬢様言葉だったり、常に特徴的な高笑いを放つものだから、否が応でも目立ってしまう。


「アンタ達さー、見た目メッチャ可愛いんだから、学校卒業したらに就職しなよー」

「オーッホッホッホ! それはグッドアイデアですわよ、マドカさん! この御二人ならば、入店して即トップも夢じゃ御座いませんわよね!」


 いや無理でしょ。てか、僕男子だし。


 僕はすかさず「あはは、考えておきますねー」と適当に返事をした後に、チラリと逢ちゃんを見てみれば、彼女は目をキラキラと輝かしている。あっ、この女ってば、やる気満々だ。ったく、おだてられると何でもやっちゃうから困った子だよ、逢ちゃんは。


 ご覧の通り、百鬼夜行は本当に変わり者ばかりが集うのだ。例えば、本日来店されている他のお客さんにも目を向けてみれば、並行世界より来た、政府直轄特務機関で対巨大怪獣のエージェント(服部八重花はっとりやえかさん(くの一)・葉隠武士はがくれたけしさん(ラッパー侍)・初音有留はつねうるさん(アンドロイド))だとか、タイムリープ能力を駆使するフリージャーナリスト(筒井員子つついかずこさん)だとか、果てはオネェの地球外生命体(◎$◇#☆∞さん←呼称翻訳不能)が居られる模様。


「オーッホッホッホ! ですが御二人共、今はまだ未成年ですから、お酒は御法度ですわよ!」


 そうアケミさんに言われ、僕は舌をペロっと出しながら小悪魔的に答える。


「べーだ。僕達は「御茶おちゃけ」しか飲まないから大丈夫ですよーだ♪」


 この「御茶け」と言うのは、お茶(日本茶・中国茶・紅茶……その他、各種取揃えております)をベースに使ったノンアルコール飲料でありながら、何と酔っ払う事が出来る逸品です。


「やーやー、眞小都ちゃんさんに逢ちゃんさんー、御免なさいなのだー。本日のお席は個室が満席なので、カウンター席でも構いませんかなのだー?」

「……眞小都様と逢様が御来店の際は、何時も個室ばかりの御利用なので申し訳ない限り、なのです……」


 姉妹ちゃんにそう告げられ、僕が「あっ、カウンターで全然大丈夫だよ姉妹ちゃん。あと、今日は創作料理の「なぞ焼き」を注文する予定なのだけれど、大丈夫かな?」と申した途端に姉妹ちゃんの表情が凍り付く。それと同時に「待ってましたで、この時を!」との声と共に、いつの間にか僕達の背後に立っていた、百鬼夜行店長こと酒呑童子さんがしゃしゃり出て来やがったのです。


 この店長、自称百鬼夜行のマスコットって事で、普段は店内の何処いずこかで腕組みをして仁王立ちしているだけの役立たずでなのである。かつては鬼の頭領としてやんちゃをしていたらしいけれど、今では関西弁の陽気なおじさんって印象でしかない。


「なはは、普段は料理の調理全般を茨城童子の奴に任せっきりやけど、このなぞ焼きだけは俺の出番やさかいに」


 店長いわく、なぞ焼きとは、大阪のソウルフード・たこ焼きを下地に、中身の具は何が入っているのか秘密と言う、ゲーム感覚も満点の面白料理らしい。別名「ガチャ焼き」とも。


 かてて加えて、当店の一番人気メニューだと店長は言い張るのだが、実は百鬼夜行のオープン以来、百鬼夜行切っての最安値にも関わらず、一品もさばけた事が無い不良在庫料理なのだと、以前にこっそり茨城童子さんが僕に教えてくれたのだ。


 そうそう、百鬼夜行は料金設定も破格の値段で、大半の一品が単価十円(税込価格)です……経営は成り立っているのかと心配になる度合いです。


 安価の理由として、百鬼夜行の裏側には、山・川・海が揃い踏み。加えて最先端のハイテクノロジー巨大農園や養殖場もフル完備。当の然、そこに酒蔵も有り、豊富な食材が無料で手に入りますもので、超格安で運営が行えるそうな。


 いやはや、駄菓子屋さんもビックリの価格破壊。途轍もなく財布に優しいですね。


 こうして、僕達はカウンター席へと座り、改めてなぞ焼きをオーダーする。姉妹ちゃんは相変わらず「正気ですか?」と言わんばかりの表情なのが、ちびっと不安だけれども……。


 すると、店長もカウンター前から見える厨房に入り、いよいよなぞ焼き作りの準備を始める。頭部に「店長です」と是見これみよがしに印字されたバンダナを巻き、気合十分・準備万端と言った所か。


 そんな中、茨城童子さんは店長には目もくれず、黙々と他のお客さんの料理を作り続けている。茨城童子さんはクッキング中は女装姿ではなく、眼鏡を掛けたインテリ優男タイプって感じだ。噂によるとキャバ嬢のマドカさんが茨城童子さんにガチ恋をしており、虎視眈々こしたんたんと狙っているみたいです。


 さて、店長はと言うと、調理場の奥の方にある冷蔵庫から紙パックを取り出すと、有ろう事かそいつをおもむろに電子レンジへとぶち込むのです。


「なはは、後は温まるのを待つだけやな。これにて俺の仕事はとどこおりなく終了や」

「ちょっと! まさかの冷凍食品ですか! これだけ引っ張っておいてこの落ちは無いでしょうよ!」


 温厚な僕も、流石に若干キレ気味のツッコミを入れる。


「いやいや、アホぬかさんといて。手作りの作り置きに決まっとるやん。今朝に仕込んで凍らしとっただけやっちゅうねん。まあ、心配しなさんな。この「妖怪レンジ」にて、出来立てのホヤホヤと変わらん美味しさを提供しまっさかいに」

「むうう、本当なのでしょうね? てか、なぞ焼きの作っている過程とかも見たかったのですけれど!」

「なはは、なんぼなんでも、それは企業秘密やさかい見せられまへんわ。すんまへんな。まあ、たちまちのうちに仕上がりまっさかいに、ちょいと雑談でもして待っとってや」


 ……くっ、部外秘とか言われましたら、こちとらもう何も言えないじゃないですか。あーあ、なぞ焼きを作っている間に、店長と色々な話がしたかったのですけどね。


「うんうん~、そうだよね~。この前に昼間の百鬼夜行に初めて行った事とか~、学校での鬼童丸きどうまる君や鬼蛇穴姫子きさらぎひめこちゃんの事とかね~」

「あ、コラッ、逢ちゃんめ! また超能力で僕の思考を読んだね? んもう、それは止めてって、前から何度も言ってるでしょ!」

「あはは~、ついついやっちゃうんだよな~、御免ね~」


 そう言いつつ、逢ちゃんは、先程姉妹ちゃんが運んできてくれたお通し&おしぼりを空中に浮かべてお手玉をし始めた。逢ちゃんはバツが悪いと、こうして即座に超能力を使って誤魔化ごまかす癖がありやがる。


 そうなのです。百鬼夜行は、何と昼間はカフェ経営で、店員さん達メンバーもガラリと変わり、狐の妖怪の天狐姫てんこひめさん(百鬼夜行オーナー)、土蜘蛛つちぐもさん(女)、女天狗めてんぐさん、女河童おんなかっぱさん、雪女ゆきおんなさんの五名で回しています。全員がギャルタレントっぽい見た目です。 


 ちな、鬼童丸君(中等部)と鬼蛇穴姫子ちゃん(初等部)と言うのは、店長の息子さんと娘さんです。僕達と同じ大御宝学園に通っており、僕と逢ちゃんの所属する文芸部構成メンバーに、お菓子で釣って無理やり部員として所属させています。 


 そうこうしている内に、厨房よりアラーム音と共に、店長の「よっしゃ、でけたな!」の声が響き渡る。


「なはは、へいよ、おまっとさん。なぞ焼き、ニ丁上がりやで。お熱いうちにお召し上がりくださいや」


 僕と逢ちゃんの目の前に出されたなぞ焼きだが、遊戯施設や高速道路のサービスエリア何かで良く見かける、自動販売機で売られている紙パックのたこ焼きと酷似している。やっぱこれインスタントじゃねーか!


 いや、しかし、このなぞ焼きの蓋を開けてみますれば、普通に良い匂いがするし、んまあ、多分美味しいのだろうね!


「ふむふむ~、見た目はちょい濃い茶色が目立ってて~、たこ焼きソース・青のり・鰹節・マヨネーズが掛かっていない以外は~、一般的なたこ焼きって感じだね~」

「うん、そうだね。それでもって僕が思うに、これは焦がして茶色と言うよりは、純粋に生地が褐色ですよね。そして、このかほりからして醤油がベースなのかな?」

「なはは、ご名答やで。まあまあ、取り合えず一口食してみなはれや」

「それでは……いただきます……」


 僕は猫舌なので、何度かフーフーをしている間に、逢ちゃんは一足先に口へと運んだご様子。幾度かハフハフし、咀嚼そしゃくした後の第一声は「ん~、美味おいひ~」である。んもう、この語彙力のとぼしさよ!


 まあでも、不評メニューと言われる割には、逢ちゃんのさっきの反応である。激不味げきまずではない様だし、毒も入っていないみたいだから食べても平気そうだね。←外道。


 さあて、僕もなぞ焼きを実食である。


「モグモグ……あっ、この味……もしかして、すき焼きですか?」

「なはは、ピンポン×3ー! 大正解やでー。具材には細かく刻んだ牛肉・焼き豆腐・糸蒟蒻いとこんにゃく長葱ながねぎ玉葱たまねぎ白菜はくさい人参にんじん春菊しゅんぎく茸類きのこるいを使い、生地には酒・味醂みりん・醤油・砂糖を合わせた調味料をたっぷり練り込んでんねんよ」

「あ~、でも~、私的には~、ちょっと味が濃ゆくてからめかも~。私はどっちかと言うと~、関西圏の薄味うすあじが好みなんだよね~」

「なはは、そう言うと思うてやね、ホレ、ばっちし用意してまっせよ。既に割って小皿に入れておいた新鮮な溶卵ときたまごやで」


 そうやって、店長に渡された生卵になぞ焼きをつけて、再びお口に運びます。これには、僕も思わず感想が口に出ます。「んー、美味おいひー」と。←オイ(笑)


「成る程ですね。なぞ焼きの正体はすき焼き味のたこ焼きだった訳ですね」

「なはは、ちゃうちゃう。それやと全然「なぞ」とちゃうやんか。他にも味が仰山ぎょうさんありますねや。今の所、カレーやらシチューやらラーメンやらカツ丼やらハンバーグやら……んまあ、取り合えず定番の人気料理は大抵たいていおさえとる感じやね。今は握り寿司を何とか再現でけへんか研究中ですわ」

「うわ~、お寿司味ですかぁ~、それも美味しそうですね~♪」


 逢ちゃんの意見に「寿司は美味しそうか?」とも思ったのだが、大人な僕は空気を読んで言葉をむ。


「なはは、せやろ×2。それとやね、スイーツなぞ焼きっちゅうのんも研究中やねん。甘い生地をベースにしてな、具材にはフルーツを散りばめたんねんよ。これめっさええ感じちゃう?」


 うん、それ多分ベビーカステラだな。もうめっさあるな。でもまあ、具のフルーツは新しいか……とも思ったのだが、大人な僕は空気を読(略)。


「なはは、ちゅう訳で、なぞ焼きっちゅうのんは、日替わりで既存の料理をたこ焼きで再現するってな料理やったんやね。何が出るかも分からへんし、全部くるめて、なぞ焼きってな訳や。どやねん、参ったか。俺に惚れてもええんやで?」

「や、そんなんで好きにならんし。しかもそれ、今の時代セクハラだし。その上にアンタ既婚者でしょうが。今度奥さんに言いつけてやろっと」

「なはは、それだけは堪忍したってや。はい、素直に御免ごめんやっしゃ。この通り土下座もしまっさかいに(笑)」

「よーし、しからば、なぞ焼きをもう一ヶ無料提供で手を打ちましょうぞ(笑)」

「なはは、今日日きょうびの現代っ子はちゃっかりしとんで(笑)」

「と言うか~、こんな美味しい、なぞ焼きが~、今までノーオーダーだったのが不思議でならないよね~」

「なはは、それやねんな。今の今まで売れへんかったんは何でなんやろか? メニュー表のあおり文句で「店長直々に作るで。食べたらあまりの美味うまさであの世きや」って書いてんのにな」

「あはは~、多分それが原因だよね~」

「なはは、なんでやねん。めっさええ惹句じゃっくやないか」

「いや、このお店で、しかも物本ものほんの酒呑童子である店長の言葉だと、洒落しゃれにならないと感じる人が多いのではないでしょうか」

「ああ、なるへそ。そう言う事やったんかあ……ほんなら「食べると美味おいしくてマジ昇天しょうてん」とかの方がええかな?」

「いや、意味変わってないですし。もうええわ」


 この様な漫才みたいな取り交わしを、百鬼夜行では必ず行ってします。常に笑顔が絶えないお店なのです。


 ……ある時に、百鬼夜行の成り立ちを店長さんから聞いてみますと、大昔の日本では大飢饉だいききんが起こり、大勢の人々が亡くなった時代が有りました。その光景を目の当たりにした酒呑童子店長率いる妖怪の面々は唖然あぜんとなったそうです。


 そこで、狐妖怪の天狐姫さんが、格安で、皆がお腹いっぱいに食べられるお店を作ろうと提案したのが始まりだそうで。


 余談ですが、先程のりから分かる通り、提案者の天狐姫さんには店長も頭が上がりません。その理由は、その天狐姫さんこそが、鬼童丸君と鬼蛇穴姫子ちゃんのお母さんであり、店長の奥方様ですからね。


 実を言うと、僕は百鬼夜行と出会う中学校の頃まで、この女装が趣味の個性的な自分であるからか、ずっと一人ぼっちでした。


 多様性社会の世の中になってきたとは言うものの、僕の様な人間に対しては、矢張やはりまだまだ理解が少ないのも事実でして……だって両親からもドン引きされているくらいですからね。


 ですので、夜な夜な女装子の姿に扮しては、こっそりと大御宝学園内を徘徊する事を繰り返していました。


 そんな折に、変わり門と遭遇した次第なのですよ。


 それからは、逢ちゃんや鬼童丸君や鬼蛇穴姫子ちゃんと言う個性的な友達も出来まして、他にも個性溢れるお店の常連さんとも親しくなれました。


 僕は僕で良い。個性的で構わないのだと、身に染みて実感させられたのです。そうやって全てが良好な方向へと回り始めたのでした。


 そう、人生は少しの切っ掛けでなのです……だけにね。←やかましいわ! ←笑


 それもこれも、全てが百鬼夜行のお陰であるからして、僕は本当に心から感謝しているのです。


 お昼はカフェで、夜は居酒屋。来ると必ず笑顔になれる百鬼夜行。


 僕も逢ちゃんも楽しいから、多分明日も来るな(笑)。


 そう、明日も明後日も、これからも、ずっとずっと。





 ~物の怪共@過去奇譚~





――時は平安時代――


 人と人ならざる者の境界線が、まだまだ曖昧な頃である。


 ある所に、人口百人程度の名も無き小規模な村があった。豊かな自然に恵まれ、村人達はとても幸せに暮らしている。


 この村の中心地には象徴となる神社が建てられており、ここでは村を守る姉妹の異形が住み着いていた。名を姉がわいら。妹をおとろしと言う。


 彼女らは神様の命を受け、神社で悪さをする輩を驚かせて追っ払う役目をおおかった神獣しんじゅうである。それとは別に、時には村を襲おうとする不埒者ふらちものから、この地を守護する役割等も担っている。尚、命までは奪わない。


 両者共に大きな四足獣の様な見た目ではあるが、そんな優しい心も持ち合わせている姉妹である。


 村の子供達は善悪をこの神社で学ぶ。そうして大人になり、又次の世代へと道徳は受け継がれて行く。これが、ここの村の伝統であるのだ。


 わいら・おとろし姉妹は、この村が大好きだった。


 大人達が用意してくれるお供え物も美味であるし、何より無邪気にはしゃぐ子供達を眺めているだけで、姉妹はとても和むのであった。


 しかし、時節が巡れば周囲の環境も変わって行く。それは世の常である。


 この平安の時代は、日ノ本全土で数多くの飢饉に見舞われた。それにより、多くの人間が亡くなってしまったのである。


 それは、姉妹の住まう村も例外では無かった。


 山や川、田畑も枯れ果てて、村は寂れる一方であった。


 一人又一人と村から人は出て行き、遂に村は無人となってしまう。


 そんな中、姉妹は神社に居座り続けたのである。


 こうして神社を守り続けていれば、いずれは人が戻って来るだろう。そして、再び子供達がこの村を駆け回ってくれるだろうと。


 来る日も来る日も、その日を信じて。その光景を夢見て。


 だが、姉妹のその想いは届かず、何時いつしか村は木々と草木に覆われてしまう程に荒れ果ててしまった。


 神社の方は辛うじて形だけは残っているものの、鳥居も社もボロボロで、今や風前の灯火である。


 それから更に歳月が流れた。


 一体どれだけの年数を重ねたのだろうか。


 そう、あやかしの体感時間は、人間とは圧倒的に違うのである。


 姉妹にとって、精々数ヶ月程度だと思っていた日数は、周囲の景色が示す通り、実際には数百年の時を刻んでいたのだ。


 すっかり弱り切り、妖力を使い果たした姉妹は、本来の姿を保つ事が出来無くなっていた。


 その見た目は、人間の幼き子供の姿であった。


 それでも姉妹は、この地を離れようとはしない。それこそ自身の命の炎が燃え尽きるまで。


 姉妹はそう決意していた。


 それが使命だと誇りを持って。


 だがしかし、その姉妹の役目も、恐らくは持ってあと三日が限界だろう。


 それも姉妹は理解していた。


 最後まで頑張ろう。


 姉妹はお互いの手を握り合いながら、覚悟を決めたが如く、静かにまぶたを閉じた。


――…………――


 そんな意識が朦朧もうろうとしている姉妹の所へ、とある一団が、どやどやと近付いて来る気配があった。


 この集団、最近ちまたで乗りに乗っている妖怪軍団、人呼んでチーム「百鬼夜行ひゃっきやこう」である。


 この頃、自分達のチームに名前を付けて、ブイブイ言わすと言うが、一部の若者の間で流行っていたのである。


 これなる百鬼夜行……元々は別々だった二組のチームが合併し、一つのチームとして再編成しているのだった。


 一組目は鬼のエリート一族、酒呑童子しゅてんどうじ茨城童子いばらきどうじが所属するチーム「ダブルドウジ」である。


 何だか漫才コンビの名称みたいだが、ツッコミは野暮と言う物だ。関西出身で大のお笑い好きである酒呑童子が付けた、納得のネーミングセンスと、嘘でも良いから称えたげて。


 他の構成員は、女装を得意とする茨城童子のみだ。成る程、今の茨城童子は女性用の和服をちゃくし、美しい婦女の姿に化けている模様である。


 もう一組のチームは五人の女妖怪が徒党を組んでいた、レディースチーム「五栖十ゴースト」である。


 これら二大勢力が合流した最大の理由として、人間の退魔師たいまし源頼光みなもと のよりみつ率いるチーム「雷公らいこう」が台頭し、妖怪達をおびやかす事態が発生したからである。


 なれば、妖怪チームは一枚岩となり、チーム雷公を牽制けんせいしようではないか、と言う流れになるのは最早必然だったと言えよう。


「あー、やっぱここに居たー。妖力が消え掛かってて、超見付けにくかったしー。……つーか、この二人ヤバい! 超可愛いんですけど。……さあ、あーしらと一緒に行こう!」


 真っ先に姉妹を見つけ出し、話し掛けたこの女性は、褐色肌でギャルファッションを着こなす美女であった。……って、今は平安時代だよな? 時代を先取りし過ぎだろう!


「あー、あーし、ミステイク。御免御免ー。つーか、人間の姿じゃ分かんないよねー」


 そう言った彼女はドロンと音を立てて変身を解いた。その姿は五栖十のリーダー格である狐妖怪……荘厳そうごん十二単じゅうにひとえまと妖狐ようこ天狐姫てんこひめでありました。


「あーしらは、あんた達とお仲間だしー。つーか、妖怪って事ね」


 天狐姫は長崎県出身で、ここ最近は南の島(現在の沖縄県)の暮らしが長かったせいで、人に化けた時の姿が健康的な小麦肌なのである。まあ、現代で出くわしたのなら、只の日焼けサロンに通う黒ギャルだ。けれども、この時代の人間からすれば、仮の姿でも妖怪と見間違われただろうね。


 そして、その隣に居るのは、五栖十の副リーダーである、土蜘蛛八十女つちぐもやそめ……又の名を土蜘蛛つちぐもである。百鬼夜行の中でも一番背が高いのが、この土蜘蛛なのだ。


「なはは、り来て、一緒に行こうって言われてもメッチャ戸惑うわな。おい、土蜘蛛よ。お前も何ぞ、幼子おさなごが安心する様な気の利いた事を言うたれや」

「……ぐーぐー……ぐーすかぴー……わらわは、もう食べられぬ……ZZZ……」

「……か、考えられへん……マジかこの女? この状況で立ったまま寝とるで……。ホンマこいつ、見た目はエロそうな……もとい、偉そうな巫女装束みこしょうぞくくせに、天然ちゃんで戸惑うわ……シャーマンって、変な奴ばっかやで。めっさ食いしん坊やしな」


 更にその隣には五栖十の斬り込み隊長であった、女天狗めてんぐが居る。


「……グーグー……グースカピー……われも、もう食べられぬ……ZZZ……」

「せやから、寝んなや! お前までかぶせんでええねん! 山伏装束やまぶししょうぞくから溢れんばかりの、ドでかいパイオツしよってからにホンマ。ムッチャちちんだろか!」

「オ~イ、オラの事を置いて行かないでケロ~」


 遅れてやって来たこの子は五栖十のメンバー最年少の女河童おんなかっぱである。こちらの者、ほぼ全裸となっております。


「なはは、遅かったやんけ? 女河童。何をしとったんや、このハゲ」

「ウウ~、ハゲって言わないでケロ~」

「なはは、こら失敬。スマンスマン。で、何をしとったんや、このハゲ」

「ウウ~、……あ、あのね、オラ達河童は頭のお皿が乾いてしまうと死んでしまうのは御承知でしょケロ~。それでね、丁度向こうの方に水溜りが有ったから、そこで水浴びをしていたんだケロ~」

「なはは、嘘付けや。連日猛暑もうしょ日照ひでり続きやのに、水とか何処どこに有ったっちゅうんじゃ」

「ウウ~、……でも、確かに存在していたんだケロ~」

「なはは、ちょい待てよ? それってもしかして、今さっき不注意でこぼしてもうた、俺の酒とちゃうか?」

「ウウ~、道理で頭がクラクラしていると思ったんだケロ~」

「なはは、お前は河童のイメージを大いに裏切って下戸げこ(酒が飲めない人)やもんな? アレやで、語尾の「ケロ」を「ゲコ」に言い換えて「お酒は飲めません」アピールをしてみたらええんちゃうか?」

「ウウ~、何だか汚い感じにならねえゲロか~?」

「なはは、早速使っとるやないかーい、もうええわ」


 ここで一旦、酒呑童子は漫才の区切りをしたかったのだが、邪魔が入ります。


「オイ! の女河童ちゃん虐めてんじゃねーよ! 締め上げんぞテメー?」


 この一番ヤンキーお姉ちゃんぜんとした妖怪は、女河童と同い年で五栖十のメンバー最年少の雪女である。こちらの者、ほぼ前科(者)となっております。←笑


 雪女はちょびっとレトロなレディース特攻服に身を包み……って、今は平安時代って何度言ったら分かってくれるのだ! この時代にそんな服も無えよ!


「……チッ、誰かに見られている気配がすんぜ……オイ! こっそり遠くから見てるそこのテメェ! ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ! ブチ殺すぞ、ゴラァ!」


 む? ……あらやだ、この子ったら、に対して文句言っちゃってますわよ。え、待って、こっち滅茶苦茶睨んでるんですけど。こわっ!


「なはは、何や何や、こまっしゃくれたガキが? 一番若い年齢やからって、優しくしとったら付け上がりやがって。ナマ言うとったら、いてまうど!」

「ヘッ! 上等だぜ。やってやんよ。はまだアンタを頭領とうりょうだと認めて無ぇかんな!」

「なはは、ええやろ。隙があったら、かかってこんかい!」


 すると、光の速さで雪女に叩きのめされる酒呑童子である。これが伝説の瞬獄殺しゅんごくさつってやつか!


「ケッ! 何が鬼の頭目とうもくだよ! 口程にも無ぇ野郎だぜ! テメーみてーな腑抜ふぬなんぞよりな、天狐姫の姐御あねごの方が数兆倍相応ふさわしいってんだよ! そして、そんな負け犬のオメーの顔面ツラにはな、ウチの寒冷かんれいつばきをれてるぜ! ……カーッ、ペッ!!」


 そ、そんな雪女ちゃん……その行為は、一部の人の業界ではご褒美ですぞ。


「……なはは、よっしゃ、今日はこれぐらいにしといたるわ。命拾いしたの。……てて……ううう、しくしくしく、しくさんじゅうろく……(泣)」


 本来喧嘩の実力に際して、酒呑童子の方がずっと上なのではあるが、お笑い好きの気質にはどうしても抗えないのであろう。彼はついついボケ倒してしまうのだ。悲しい性である。


 ……てか、何これ? 周り女ばっかじゃん。茨城童子は女装子だけどさ。


  ……まるでギャルゲーかハーレムラノベやん。ヒャッハー! 歓喜しろや、萌え豚共!


「あーしさ、この姉妹ちゃんらをチーム百鬼夜行に引き入れたいんだけど、別に良いっしょ? 童子?」

「なはは、天狐姫ちゃんよ。童子って、俺か茨城か、どっちに言うとんねん」

「うーん、つーか、土蜘蛛に?」

「お前、童子って言うたやないか! ええ加減にせえよ!」

「つーか、良いのか駄目なのか、どっちなん?」

「なはは、どうせ俺がアカンって言うてもアカンのやろ? それに、特に他のメンバーの異論もあれへんみたいやし、別にかめへんよ」

「やたー。つーか、童子、ばばり好いとるばい」

「なはは、せやからどっちの童子やねんな? 急にあざとい九州弁で喋りやがって」

「つーか、童子好きやけん」

「なはは、あんな? 俺はそんなもんに騙されへん……っちゅう事は全然ないで? 速攻恋に落ちる自信があるで? 気ぃつけなはれや。惚れてまうやろー!」

「つーか、童子、たっくるさりんどー」

「なはは、この流れやともっぺん「愛してる系」の台詞やんな? ……しやけど、聞ぃた事も無い方言やで。……アカン、降参や。今のは何て言うたん?」

「うん。あーしが百年くらい拠点にした南の地(現在の沖縄県辺り)の言葉で「ぶっ殺してやるぞ」の意だしー」

「なんでやねん! もうええわ!」


 長いボケの前振りであったが、これは、わいら・おとろし姉妹を気遣きづかう、百鬼夜行メンバーなりの取り計らいであった。


「……つーか、残念だけど、この村は終わったんだ。もうあんた達が命懸けで守る必要は無くなったんだよ。マジでお疲れ様……」


 そう天狐姫は姉妹に告げ、そっと手を差し伸べる。


 姉妹は恐る恐る、その手を取った。


「あれ? つーか、この子達、力超強ーい。あーし、ヤッベ!」


 思わぬ姉妹の腕力で、天狐姫は転けて尻もちをついてしまった。


「フッ、少し弱っている様子でしたが、それだけの力が残っているなら心配りませんね。しっかり食事をして療養すれば、ぐに回復するでしょう」


 クールな口調で茨城童子がそう語る。見た目は美女で、中身はイケメン! その名は、名女装子茨城童子!


「あー、つーか、あーし、格好悪かっこわりー。服汚れたしー。童子の所為せいだかんねー」

「せやからどっちの童子やねんて。てか、なんで俺らの所為せいになんねん。もうええわ」


 取り敢えず、力自慢のお二方……土蜘蛛がわいらを、女天狗がおとろしを、それぞれんぶをする事となります。


「……うええーん……有り難うなのだー……」

「……うええーん……有難う、なのです……」


 ずっと我慢していた感情の泉が溢れ出す様に、わいら・おとろし姉妹は泣き出してしまう。


 皆はそれを黙って……しかし優しい笑顔で、それを受け入れているのであった。


「つーか、この飢饉で多くの人間が亡くなってんじゃん? みんなお腹空かせてさ……。そこで、あーし決めた事が有んのよ」

「なはは、何や何や? どうせ死ぬんやったら、ひと思いにお前ワレがとどめを刺すんか?」

ちげえーし。つーか、童子の発言、超ドン引きなんですけど。あんたが真っ先に逝けよ」

「……す、すんません……流石に不謹慎過ぎる発言でした……反省します……なはは……」

「……あーしさ、何かお昼に御飯を出せるお店とか、いつか経営したいなーって思ってんだよねー。そいで、来店してくれた御客さんがさー、お腹いっぱい食べられるお店みたいな? 超理想じゃね?」

「なはは、それええやん。そんで勿論、低価格で料理を提供したんねやろ?」

「それな。つーか、童子、ちゃんと分かってんじゃん。マジ偉い」

「なはは、せやからどっちの童子やねんて。……せやけど、この平安の世て、朝方と晩方の一日二食が常識やろ? そないな店が流行るんかいの?」

「フッ、大丈夫ですよ。世の中は変わります。それも、今とは比較にならないくらい、劇的にね」

「あっ! しやけどアカンわ! お前ら重要な事を忘れとんで。俺らは言うても妖怪やんけ。少なくとも今の時代、人間からは嫌われ者扱いやんかいさ? そこん所の障害の壁は、かなり事大きいで?」

「つーか、大丈夫だって。あーしらの事をきらわない……それこそ、変わり者の人間達だけに提供するお店……初めはそんな場所でも良いじゃん。だよね? 童子?」

「フッ、そうですね。ゆっくりと行きましょう。我々の寿命は、途方も無く長いのですから」

「まあ、せやな。……なはは、そうと決まったら、何やら俺、俄然がぜん楽しみになってきたわ! ほんで、しつこい様やけど、どっちの童子やねーん!」

「つーか、あーしって、夜は美容の為にも眠りたいからさ? 昼間はあーしが出るけど、夜間は童子らが店番って事で宜しくね」

「いや、なんでやねん。お前ホンマに妖怪か? 俺らの本文はな、夜は墓場で運動会。朝は寝床でグーグーグーやっちゅうねん! 本気でやるんやったら、きっちり仕事せえよ! もうええわ!」


 すると、今にも崩れ落ちそうであった鳥居と社が、突然七色に光り輝き出したのだった。


 その直後、鳥居は新品となり、社にいては立派な一軒の小料理屋へと変貌したのである。


「なはは、月日を重ねて、鳥居と社は付喪神つくもがみ(長い年月を経た器物等が妖怪と成った物)になりおったんやな」

「フッ、建物が付喪神に変化した場合、自由自在に姿を変えられると聞いていますよ」

「つーか、それマジで? じゃあさ、昼と夜でお店の見た目も変えられんじゃーん。マジ上がるわー」

「フッ、彼ら付喪神もこう言っていますよ。「是非とも我々を使って、その店屋てんやを営んで下さいませ」……だそうですよ」

「つーか、マジ最高じゃん。てか、鳥居ちゃんと社ちゃんの言葉が理解できるとか、童子、超凄くね? マジ受けるんですけどー」

「なはは、これで万事解決やな。ほんなら、役割分担もきちんと決めんとやで。……うっしゃー、何やら、やる気出てきたやんけ! 俺もバリバリ働きまっせよ!」


 これからのち、鳥居は変わり門、社は家獣かじゅうと名乗る様になり、居酒屋兼カフェ・百鬼夜行を開店する運びとなったのである。


 かく紆余曲折うよきょくせつ有りながらも、妖怪達は現代まで懸命けんめいに生きて来た訳で御座います。


 その間にも様々有った逸話いつわ……例えば酒呑童子が起こした天下分け目の大恋愛の話や、西洋・東洋との妖怪間で勃発ぼっぱつした妖怪大戦争の話等々……幾千万と話は尽きませぬ。


 もしもアナタ様が変わり者で有るのならば、必ずや変わり門を見付け出し、お昼はカフェで、夜は居酒屋・百鬼夜行へとおもむく事が出来る事で御座いましょう。


 そのあかつきには、アナタ様自身が直接的に、酒呑童子店長の口から語って貰うのが宜しいのでは無いかと思われます。


 それでは、お決まりの言葉にて、〆る事と致しましょう。


 めでたしめでたし。


 了。

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鬼が店長の居酒屋さん、始めました。お昼はカフェ・レストランです。~モーニング&ランチサービス有ります~ とほかみエミタメ @Tohokamiemitame

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