騎士二人
その翌日。
執務室ではエミリオが真剣な面持ちでリュードに向き合っていた。
「隊長。お話があります。」
「どうした?」
真っ直ぐにこちらを見つめてくるエミリオ。
周囲の目が気になるようだ。
「エミリオに渡そうと思っていたものを部屋に忘れてきてしまった。取りに行ってくる。」
エミリオを見つめ返しながら、周囲にも聞こえる音量で言うと、エミリオもそれに乗ってきた。
「ああ、やっぱり!隊長の部屋にあったんですか。ずっと探してたんですよー。僕も行きます!」
そう言って二人して執務室を出た。
リュードの部屋に入るや否やエミリオが口を開く。
「隊長、以前お話しした国境近くの農村で感じた違和感。僕あれからずっと考えていたんです。」
「ああ。」
「昨日、その違和感の正体がやっと分かりました。」
「何だ。」
「はい。あの村で警部してた警備隊、全員若すぎたんです。僕より下の子たちばっかり、僕と同じくらいの人もいましたけど。班長も全員若かった、国境が近い村なのに。」
最悪のシナリオが頭をよぎる。
若くしてリュードが防衛隊長を務めているのはそれ相応の成果や因果があるわけで。リュードが信頼して様々な仕事を任せたりもしているが、エミリオも本来は何の肩書きもない騎士である。
エミリオより下ということは、まだ経験も浅いだろう。先輩騎士の後ろで振る舞い方を勉強している時期だ。警備隊も人手不足…ということは考えづらい。以前警備隊から派遣してもらった騎士たちは十分な実力を持っていた。いくら嫌味を言われようと、アイガスとて同じ騎士だ。疑いたくはない。いや、アイガスではなくジェイド団長の差金か。
「偶然であってほしいが…。疑わなくてはならないな。」
「そうですね、僕も単なる偶然だと願ってます。だから国境付近の村全部回って調査したいんです。」
「分かった。表向きは国境警備の下調べということにしよう。一応、私からの指示だという書面も書いておく。」
「ありがとうございます。2、3日で戻ります。」
そのまま話を切り上げようと、部屋のドアに向かうエミリオ。
「エミリオ。」
「はい?」
エミリオが振り返る。
「何か言われたら、リュード・ヴァンホークからの個人的な指示だと答えるんだ。」
「それって…。」
「必ず私の名前を出すんだ、そして自分は何も知らないと言え。いいな?」
エミリオが何か言う前にさらに重ねる。
「最悪のシナリオを考えろ。もし、本当にそうだったらどうする。頼むから、必ず私の名前を出すんだ。」
もし本当に。アイガスかジェイド団長か、はたまた他の誰かが何かを企んでいるとするならば、今回のことを絶対に嗅ぎ付けるだろう。
国境警備の防衛隊が村の内部を調べるなんてことは今までない。何も無いならそれで終わりだ。だが何かあるなら必ず仕掛けてくる。エミリオをその標的にするわけにはいかない。
「僕だってこの国の騎士です!この国のために王家のために命を賭けて戦えます!隊長一人に抱え込ませるわけには行きません!」
「では聞くが!お前の家族が人質に取られたらどうする?!お前は家族を守り切れるのか?!襲われたらどうする?同じ騎士の制服を着た者をきちんと反逆者として、迷わず首を刎ねられるか?腕を斬り落とせるか?足を切断できるか?」
リュードの気迫に押され、言葉が出てこないエミリオ。
リュードは脅すような真似をして申し訳ないと思いつつも、未来あるエミリオを守りたい、手を汚させるわけにはいかないと固く決心していた。
「いいか、必ず私の名前を出せ。必ずだ。」
「は、はい…。」
「さあ、執務室に戻ろう。」
「あ、じゃ、じゃあ僕は支度を整えてきます。」
「ああ。」
そう言って二人は部屋を出た。
廊下で一人になったエミリオはふと気になったことを呟いた。
「隊長とジェイド団長って、どっちが強いんだろう。」
その呟きを聞くものは誰も居なかった。
高嶺の花と紅蓮の子 西園寺司 @tsukasa_saionji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。高嶺の花と紅蓮の子の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます