回答編
JRの営業線上であれば、必ず一度は通ったことがあるか降りたことがあるはずだ。しかしこの駅は思い出せない。私鉄…非電化となると三セクか?
遠のきそうになる意識を夜風に叩き起こされる。この寒さ、よほど北かもしくは標高の高い地域だろう。そんな寒い地域で単線高架駅を有する三セク…必死に思考を巡らせるが脳内データベースにはヒットしない。
白い月を見上げる。もうだめかもな…。鉄道オタクとして、一度でいいから実物の鉄道車両を運転してみたかった。子供の頃憧れて見ていたあの運転士さんの背中のように、自分も電車か気動車を操って先頭の景色を眺めてみたかった…。
―運転体験…?俺ははっとした。もしや俺は、とんだ思い違いをしていたかもしれない。
再びレールの踏面を見る。錆はない。錆がないから廃線ではなく現役の営業線だと判断していた。だが本当にそうだろうか?廃線でも車両が通過することのある線路…運転体験の車両やレールバイクが走る場所なのではないか…?駅として廃止されていればこの荒廃具合も頷けるし、“奴ら”が人の来ない場所として廃駅に俺を放置したと考えれば筋が通る。
そして、かつて運転体験についてネットサーフィンをしていたときの記憶が瞬間的に蘇った。そうだ、この駅は…!
―岐阜県飛騨市・神岡鉄道飛騨神岡駅跡。
「大丈夫ですか!?」
空が白み始めた頃、耳に馴染む後輩の声に俺は失いかけた意識を取り戻した。後輩は横たわる俺を見つけると、駆け寄って抱きかかえた。
「間に合ってよかった…今解毒剤を打ちますから」
後輩は寝袋を開け俺の左腕をまくると、静脈に注射を打ち込んだ。
「これで一安心ですよ。あとは病院で治療しましょう」
俺が頷いたところで、他の仲間たちが担架を持ってホームに駆け上がってきた。そのまま載せられ、下で待っていた車に運ばれる。
古ぼけたRCの駅舎の壁に「ひだ神岡駅」と書かれた文字。朝日に照らされながら山影に隠れそうな白い三日月を眺めて、俺もしぶといな、なんて思った。
きさらぎ駅に連れてこられたオタクが特定する話 ナトリウム @natoriumu
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