1-2 葉の囁きと機械の歌を聞いてから駅で一息
千本鳥居で出会った女の子を案内して、街を西へ。
代表的な観光地の有名な橋を渡って山と川を眺めたら、近くのお寺でお庭を堪能して。
そしてそこを出ると、もう少しだけ北に進んでから、細い道を左に入る。
そこで左右から覆うように広がるのは、
「わぁっ、これ『竹』ですよね?
それがこんなにたくさん続いているなんて、まるで緑色のトンネルみたいです。
綺麗!」
その表情と足取りが、これでもかというくらいに彼女の気持ちを伝えてくれる。喜んでもらえて嬉しいです。
そんな彼女の周りを、葉の間から溢れる陽の光が舞うんだから、これはもう見惚れるしかないね!
吹き抜ける風に葉が揺れて奏でられるサワサワという音をBGMに、まるでステップを踏むみたいにウキウキと歩く彼女の隣を、たまに人力車が通り過ぎる。
彼女がそれを不思議そうに見送るけれど、人力車に乗ってる人たちも彼女のこと見てるんだよなぁ。なんなら、引いている車夫のお兄ちゃんも。
珍しい髪や瞳の色も目立つ理由だろうけど、その可愛さや何より溢れ出してる楽しそうな雰囲気が、そりゃ目も素通りできませんよ。
そんな娘と一緒に歩ける喜びを噛み締めつつ、俺も締まらない顔で彼女を追いかける。
いや、この顔は彼女の笑顔が伝染っただけだな。うん、きっとそうだ。
そして、珍しい黒の鳥居がある神社で分かれ道。
この神社だって凄くって、古典の代表と言えるくらいの物語にも登場する大したところなんだけれども、そのレベルの場所だってこの街で探せばキリがないから、今回はスルー。
そして本当の
左右に気をつけて踏切を渡ったら、右に曲がると普通の道へと戻ってきた。
このままもう一度さっきのお寺の方へと帰れば、次に乗りたい電車の駅もあるんだけれど。
でもその前に……
「ちょっと、ココに寄ってみない?
男女のペアだと、いくらかお得なんだ」
「へぇ、見た感じもおしゃれな建物ですし、なんだか面白そうですね!」
それで俺たちは、いま椅子に座って。
人による解説と一緒に、機械仕掛けで動く人形を見ながら、機械仕掛けで奏でられる音楽を聞いている。
櫛状の金属板が弾かれて奏でられる曲とともに、俺たちを迎えてくれるみたいに片目を閉じる月や、手紙を書きながら居眠りをする人形。
何回もの演奏と、いくつもの人形たちの演技が終わり。
解説の人がお辞儀をしたら、展示してあるものを自由に見ていいらしい。
「きれいな音がたくさん重なった、素敵な音楽でした!
それに私くらいもある機械のあの大きさもそうですけれど、とても精巧な動きがびっくりしました。
さぞ熟練の職人さんとかが、一生懸命作ったんでしょうね。
今はここにいないその人の心まで伝わってくる、そんな気がしました」
そう口にした彼女はどこか優しげな雰囲気で、今までの元気いっぱいな感じとは少し違う表情に、正直すごくドキッとしてしまいました。
そんな気持ちが繋いだ手から伝わってしまわないか少し心配しながら、そのまま併設されたショップも覗く。
お土産を買っても良いんだけれど。良いものだから、小さくても少しお高い。まあ、ここは節約しておきましょう。
ささやかな演奏会を楽しんだあとは、再び道に戻って、今度は駅まで。
隣を歩く彼女がいう。
「でも、本当に素敵なところをたくさんご存知なんですね。
私、あなたに案内してもらえて、良かったです!」
まあ、この街にはこれくらいスゴいところがもっともっとたくさんあるんだけれどさ。
でも、今は僕の手柄にさせてもらおう。
そんなことを思っていたら。
「はぁ、私何だか、ノドが渇いてきました!」
「そうだよね、もうだいぶ歩いたもの。
それじゃ、そこの自販機でなにか買おうか。何が良い?」
向こうに見える喫茶店に興味津々といった彼女に、あえて気付かないふりをして、ジュースを2本買う。
そのペットボトルをしげしげと眺める彼女は、もしかしたら不満を表明しているのかもしれない。
でも、もう少しだけ頑張って!
「飲むのは、ちょっと待ってね。」
もうずいぶんと人が増えた道の歩道を、南へ南へと。
食べ歩きの誘惑も多いけど、ガマン、我慢!
そしてそのまま駅までやってくると、俺はインフォメーションに声をかけてから、彼女を近くの建物の中へと誘う。
「ほら、靴を脱いで、このお湯の中に足を入れて。
だいぶ歩いたから、しっかり温めて疲労を取らなくちゃね。
ペットボトルならここでも飲んでいいから、どうぞ」
そして蓋を開けて彼女に差し出す。
それを気持ちよさそうに飲む顔と言ったら。
……いかん、俺ちょっとコーフンしちゃいます。
慌てて視線をそらせば、こんどはお湯の中でちいさく泳ぐ彼女の裸足に、追撃を喰らいました。
ちょっと、足湯でのぼせるかもって、どういうことですか?
偶然出会った女の子と街歩きをすることになりました めぐるわ @meguruwa
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