1日目は、西のあたりを
1-1 山と川と、近くのお庭
千本鳥居の近くで出会った女の子と一緒に、街歩きをすることになった俺。
駅ビルでお茶を飲みつつ打ち合わせをしたら、『西』に行きたいと言うので、まずやって来たのは。
金ピカに行く前に、電車の路線を利用する感じで、大きく寄り道・回り道。
駅をいくつか通りすぎ、ここで下りたら少し離れた別の駅で、違う電車に乗り換えるといえばそうなんだけど、その前に。乗り換えだけで素通りするなんて、もったいない!
駅から裏道をいくらか歩いて、目指したのは。
「わあっ!
川の青と山の緑の対比が、とっても綺麗です!」
ここだって、この街を代表するくらい有名な観光地のひとつ。そこを代表するくらい有名な橋を渡って、いまは中洲につくられた公園にある四阿から新緑の景色を堪能中です。
「この時間だから、まだのんびり見れますね」
「いつもは混雑するんですか?」
「この連休なんかじゃ、午後にもなったら、凄いことになりますよ」
俺がそう言っても、彼女にはいまいちピンとこないみたい。
や、歩道とか動かなくなるからね?
でも、彼女は呑気なものだ。アチラコチラに顔を向けつつ。
「へぇ、ボートに乗ることもできるんですね」
「もう少しだけ季節が後だったら、昔の雅な舟遊びを再現したお祭りが開催されたりもするんですけれど」
ああ、あと。ずっと上流の方からここまで川を下ってくることもできたっけ。上流まで行くときに乗れる窓のない鉄道も、これまた人気があるんだよね。この季節ならどちらも気持ち良いだろうし、そうしても良かったかな?
だけど俺、両方試したことないから、これ勧めにくかったんだ。ゴメン。
そうそう。一説には大雨の後運行休止になる直前くらいの濁流下りが凄いらしいけれど、女の子には怖いよね……いや、この娘は喜ぶかも。どっちかな。
俺がそんな事を考えてるなんて、知ってか知らずか。
彼女はまた、あちらの方にある堰の向こうに浮かぶボートを眺めている。
「乗ってみますか?」
そう聞いてみたんだけど、彼女は首を振って。
「それより、もっといろんな所が見たいです!」
その好奇心旺盛な瞳のキラキラが、たまらなく眩しいです。
「それじゃ、午前中はこのあたりを歩きましょう。
まずは、近場の有名なお寺でも見ましょうか」
そして、少し北に歩いて、広い境内に入っていく。
「ここって、どんなところなんですか?」
ああ、『お寺』がピンとこないのかな?
そんな彼女の質問に。
「ここは、そうですね。『お寺』と言う宗教施設で、この国の『教会』とか『神殿』みたいな場所でしょうか」
あまり適切ではなかったかもしれないけれど、彼女は「なるほど!」とばかり首を縦に振ってくれたから、まあいいとしよう。
正確さより、伝わり易さだよね?
「このあたりの『五山』っていう格式の高いお寺のなかでも、一番すごいんだそうです。
昔共に戦った男2人がその後袂を分かって相争うんですけれど、なお愛慕の情が忘れられなかった1人が、亡くなったもう1人のために建てたとか」
そして続けた俺の説明を、彼女は興味津々といった感じで聞いてくれている。
これ、やりがいあるな!
そして俺たちは、拝観料を払って、中へ。
ここは、なによりお庭を散策だ。彼女と手を繋ぎながら、のんびり歩く。
「へえぇ……!
お池の周りを歩いて、色んな方向から楽しめるようになっているんですね。
さっき見ていた山とかが池の水面に写って、きれいです。
それにここから見ていると、まるであの山までお庭が続いている気がしてきますね。面白いです!」
「『借景』っていう、庭造りの技法らしいですよ」
彼女の思いがそのまま溢れたかのようなコメントに、返事をする俺。
「でも。何だか、不思議な感じですね。
すごく丁寧に作られているのに、敢えていろいろ不揃いで、自然を残しているというか共存しようとしているというか。
私の知っているお庭は、なんというか、もっと『規則正しく!』っていう感じです」
ああ、洋風の庭園はそんな感じだと、聞いたことがあるような。
「不思議といえば、あの石のお庭も。
他になにもないんですけれど、そこになにかの意志があるというか」
おお、なかなか鋭いんじゃないかな、この娘。
「『枯山水』ですね。水を使わずに、でも水辺を現しているらしいです。
ここは、砂が日本の砂浜を、石が中国の荒磯を現していて、そこにさっきの借景で本物の山まで素材にしているんだとか」
「へえぇ……!
凄い工夫です、そんな表現方法があるんですね」
こう驚いてくれると、この国の人間としては、やっぱり嬉しくなってくるね!
いつまでも庭を見飽きない様子の彼女。
俺はそんな彼女が見飽きません。
俺がじっと見ていると。彼女は、やっと気付いたようにこちらを見て、これも見飽きることがなさそうな素敵な笑顔をくれたんだ。
そして俺たちはようやく庭を離れ、そのまま外へ。
ここにもまだまだ他の見どころはたくさんあるけれど、きりがないからね。
そしてそのまま歩いて行ったのは……
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