(最終回)

   ***


 情事の感覚が残る身体を気怠そうに横たえたサリーは、伸びてきた太い腕に抱き寄せられ、目の前の厚い胸に頬をり寄せた。

 早鐘を討つ鼓動が、心地よく響いていた。


「今日は、寝かせないつもりだった」

「……違うの?」


 ちょっと不満そうな声音に、モーリスは目をしばたたかせ、残念だと言わんばかりに「あー」と間延びした声を零す。そして、枕もとに放り出されていた情報端末を手にする。

 画面に映し出されたのは、招集の通達だ。

 それに慌てたサリーも、同じように端末を引っ張り寄せて確認した。


「来てるだろ?」

「やだ、本当……」


 唇を尖らせながら、招集に応じる旨の返信をしたサリーは、端末を投げてモーリスに向き直った。


「また、変異種絡みかしら?」

「短い冬季休暇も、俺たち教官には、あってないようなもんだな」

「まぁ、休暇明け早々に肩慣らしの蒼の森演習、その後には大規模演習があるから仕方ないけど……」


 不満の色をにじませながら、モーリスの手から端末を取り上げた。


「ほんっと、いつも急なんだから」

「仕方ない。軍人なんてそんなもんだ」

「分かってるわよ!」

「……もしかして、今夜はもっと、イかされたかった?」


 冗談半分、期待半分で尋ねたモーリスは、滴りにまみれている熱いに指をはわせた。ゆっくりと解くように、その柔らかな肉を愛撫する。

 サリーの頬が染まり、唇が尖らせられる。

 バカと罵られて頬に一発食らうことも想定していたモーリスは、意外にも腰をくねらせた恋人に、しばし思考を停止した。

 翌朝に支障が出るから寝よう。そう話がまとまるものと思っていた。


「ね、もう一回くらいなら、明日にも支障はないんじゃない?」


 おねだりをするような上目遣いで、そんなことを言われて我慢の出来るヤツが、どこにいようか。

 僅かに残る自制心が首をもたげた。しかし、それをねじ伏せるように、欲望がお互い軍人だろとそそのかす。体力なら有り余っているだろう、と。

 

「帰ってからのお楽しみ、て選択は?」

「それはそれ。今日は今日」


 モーリスの質問にきっぱり答えたサリーは、彼の唇に触れるだけの稚拙ちせつで愛らしい口付けをした。

 元より、寝かせる気なんて微塵もなかったモーリスだ。自制心を投げ出し、再びサリーに覆いかぶさると「あとで、シャワー浴びような」と言って不敵に笑った。


 End.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の幼馴染みは戦場の女神になれない 日埜和なこ @hinowasanchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ