第4話(最終話) やっぱり、愛する人の赤ちゃん産むのってとっても気持ちいい

 我が子、きららが私の元に来てから私の生活は一変した。


 思ったよりも大変だったのは、出産だけではない。子育ては更に想像以上に大変だ。


 子育てがいかに大変なのかは、周りから耳にタコが出来るくらい聞かされていた。でも、しょせんは他人事。いざ自分が経験する立場になると、いかに見通しが甘かったのかを思い知らされた。


「一姫二太郎」という言葉がある。なんでも赤ちゃんの頃は男の子の方が病気がちで女の子の方が丈夫だとか、精神年齢が高くわがままを言わないから育てやすいからだそうだ。


 でも、そんなのウソだと思った。きららはしょっちゅう熱を出しては風邪が重症化するし、とにかくわがままで大暴れ。部屋はまるで嵐が過ぎ去った後のようにちらかり放題。夜泣きもすごかった。


 それでもやっぱり、きららの事がかわいくて仕方がない。私は今までずっと、自分は我が子に愛情を感じる事なんてないと思っていたのに。


 私は幼い頃に両親を事故で亡くしてから、ずっと施設で育った。だから両親から何かしてもらった記憶がほとんどない。正樹に会うまでは、人を好きになった事もない。愛情とは無縁な人間だと思っていたのだ。


 でも、きららを育てていて、子供の頃に無類の動物好きだった事を思い出した。なにせ、出産フェチに目覚めたきっかけが、ほかならぬ動物なのだ。


 施設育ちの私は、子供の頃に犬や猫を飼いたくても飼えなかった事を思い出した。あたかもその頃の願望を埋め合わせるかのように、きららに一心不乱に尽くした。どんなにわがままを言われても、どんなに夜泣きがひどくて眠れなくても、私は幸せだった。


 ママ友とのお付き合いは、心配していた程ではなかった。私は幼い頃から人と話すのが苦手。特に一対一の会話がいつもぎごちなくて、なかなか友達を作る事ができないのだ。


 それに、私は色々と普通の人と違っている事が多いみたいで、周りがすごく盛り上がっていても一人だけ冷静だったりして、どうしても人に合わせる事ができなかった。


 その最たるものが出産フェチなのだろう。ほかにも他の人たちが芸能人にキャーキャー言ったり、恋バナで「誰々が好き」という会話で盛り上がっているのにはついていけなかった。


 だから、結婚・出産後もママ友とどうつきあっていけばいいのかよくわからなかった。


 最初はマウントとってくる人とか、私の苦手なべたべたしたお付き合いを強要するような人がいたらどうしようとか、いろいろと心配していた。でも、そんな人は一人もいなかった。あんなのはドラマの中だけのフィクションなのだろう。本当に表面上のお付き合いだけで済んだ。


 それでもやっぱり、出産時の苦痛を思い出すと、どうしても二人目を作る気にはなれなかった。

「正樹ごめん。もう子供はこりごり。お願いだから避妊して」

「わかった。まどかがそう言うなら」

 私は正樹にそう言うと、以後いつもちゃんとゴムをつけてくれるようになった。


 ところがだ。一度も付けずにした事はなかったのに、私の生理は止まってしまった。

 もしかして欠陥品なのかと疑ったが、ゴムをつけても100%絶対に避妊出来る訳ではないそうだ。


 よほど中絶しようかと悩んだ。でも、せっかく授かった命を奪うなんてやっぱり無理。それに、「二人目からは楽」という事も、書籍や周りの話で聞いていたので、私は甘く見ていた。


 そして二人目の出産を迎える事に。今度は男の子。絵にかいたような「一姫二太郎」になった。さすがに一人目よりは短時間で済み、胎盤が出ないといったトラブルもなかったけれど、陣痛の痛みは一人目とほとんど変わらなかった。やっぱり産まずに堕ろせばよかったと後悔した。


 それからは、ゴムだけでなく色々な避妊法を試してみた。低用量ピルを飲んだり、女性用の避妊具を使ったり。


 ピルはドラッグストア等では売っていない。かつては産婦人科で診療しなければ手に入らなかったので、私は恥かしくてとても無理だと思っていた。でも時代は変わったものだ。今ではオンライン診療サービスなんていうのができて、昔より格段に手に入れやすくなった。某人気youtyuberが堂々とCMまでしているくらいだ。本当にいい時代になった。


 それなのに、三人目が出来てしまった。ピルの避妊率は99.7%だそうだが、これって一体何だったのだろう。世間ではなかなか子供を授からずに、不妊治療に苦労する人も多いというのに。これは神様がもっと「産めよ、増やせよ」と言っているとしか思えない。やはり中絶はしたくなかった。


 二人目までは事前に性別を聞かなかった。生まれるまで知らない方が感動が増す、なんていうのは建前で、私はあまり子供自体に興味がなかったのだ。でも、なぜか今度は聞いてみようと思い、正樹に相談してみた。


「正樹、今回は男か女か聞いてみようと思うんだけど……」

「いいんじゃない。俺も早く知りたい。その方が名前もじっくり考えられるし、洋服とかグッズの調達にも余裕が出来るし」

「わかった。もうすぐ分かるみたいだから聞いてみる」


 今度は女の子だった。きららの洋服を捨てたり、誰かにあげたりしないでとっておいてよかった。



 ついに三人目の我が子を送り出すことになった。やはり何度経験しても陣痛は本当に辛い。陣痛室でいきみをのがしている時は本当に苦しくて、やっぱり子供作るんじゃなかったとまたもや後悔に襲われた。


「栗原さん、そろそろ分娩室に行きましょう」

 いよいよ本番だ。

 今までがまんしていた分、必死で本能の赴くままにいきむ。

 すると……


 ある方向にいきみを加えた時、痛みがあまり感じられなくなった。

 あたかも、ひどい下痢の時にやっとトイレに行けたかのように、いきみを加えるたびに楽になった。


 私は痛みがらくになる方向に向かって、これでもかという感じでいきむ。くせになりそうな不思議な感覚だった。


 一人目や二人目と比べると、少しだけ余裕みたいなものが出てきたような気がする。再び私の中に出産フェチの火がついたのかもしれない。


「か、鏡を見せてください」

 私は、自分が赤ちゃんを産むところをしっかり見たいと思った。


 鏡を見ると、アソコの奥に赤ちゃんの髪の毛らしいものが見える。私がいきむたびごとに、少しづつ赤ちゃんの頭が見えて、だんだん大きくなる。陣痛の合間にはまた元の頭が見えない状態に引っ込む。


 赤ちゃんの頭が出たり入ったりするたびにだんだん出口が広がっていく。そのうちにアソコがこわれるんじゃないかと思う程伸ばされて出てきた。陣痛の合間にも頭が引っ込まなくなった。ここまで来ればあと一息。


 赤ちゃんの頭が完全に外に出ると共に、すごい量の羊水が飛び出し、あとはとても早かった。あっという間に肩、胴体、足とスムーズに全身が出てきた。私の中を熱く巨大なモノが通っていく。こんなにはっきりと出てくる感触が分かるものなのか。


 赤ちゃんの全身が通り抜けるのを感じた次の瞬間、一気に痛みが引いていく……

「あああああああああっ!」


 私は、苦痛の限界から解放された。

 思わず「フーフーフー、はぁはぁ」といった感じの安堵のため息をつく。私はまるで10か月分の便秘が解消されたかのような爽快充足感を味わった。


(やっぱり、愛する人の赤ちゃん産むのってとっても気持ちいい)

 私は幸せの絶頂を感じた。やはり出産は痛いけれど素晴らしい。これなら何人でも産める。


「正樹……私もう次の子欲しくなってる。協力してくれるかな」

「もちろん。どれくらい欲しいの?」


「なるべく沢山欲しい。サッカーチーム作れたらいいな」

「そんなに育てるの大変じゃん」

「私は大丈夫。だから正樹も家族のためにがんばって」

「責任重大だなあ……でも嬉しいよ」


 私達にそんなに沢山の子育てが出来るんだろうか、なんて妄想がどんどん湧いてくる。あなたとなら出来そうな気がする。



◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


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 よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713

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私、おなかを痛めたいの! ~誰の子でもいいから産みたかった【カクヨムWeb小説短編賞2022中間選考通過作品】 北島 悠 @kitazima

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