第3話 もう二度と産みたくない!

 正樹のプロポーズを受け入れてから、夜の営みが大きく変わった。


 正樹の指が私の下半身に触れる。

 甘美な刺激に、体が反応してしまう。


「あ…いやっ」

 言葉では拒否するものの、体は素直だ。

「こんなに濡れてるのに?」

「ダメ……」


 正樹は私の愛液を指にからめ、私の一番敏感な突起にかるく触れた。

「んっ」


 思わず悦びの声が漏れる。

「もう我慢出来ない……はやく来て」


 体が熱い。


 正樹は何度も私にキスをした。

「愛してるよ。まどか」

「私も」


 二人は一つになった。

「あン……気持ちいい」


「好き……」

 私は正樹の首に腕を回し、何度もキスをする。


 二人はほぼ同時に絶頂に達した。


 目が覚めたら正樹が私の頭をやさしく撫でてくれた。

(好きな人とするのがこんなに気持ちいいなんて)



 時は流れ、出産予定日を過ぎた。そしてついに陣痛が始まった。


 陣痛の間隔がだんだん短くなって、私は想像を絶する激しい痛みに翻弄された。

 どんなに我慢しようとしても、自然に声がもれる。

「ううっ」


 私は必死でいきみ逃しをした。普通の下痢の100倍は痛い。正樹は必死で私の腰をさすってくれたが、全く痛みは軽くならない。


 陣痛室と呼ばれる部屋から、いよいよ分娩室に移動。


 と、突然、下半身から生暖かい水が流れ出る。破水だ。


「ここ、ここよ。こっちの方に力を入れて。なるべく長ーくいきんで。はい上手よ、その調子」

 助産師は私の菊の花を押えながら指示する。


 助産師のかけ声に合わせ、必死でいきむ。

「ンンンッ……」


 いくら必死でいきんでも、いっこうに赤ちゃんが出て来る気配がない。まさかここまで痛くて苦しいとは思わなかった。今まではうんちが出そうなときのイタキモチイイのが強くなった感じをイメージしていたけれど、全然質が違う。おなかが痛いだけじゃない。腰が砕けそうに痛いし、さらに脚にまで広がってもげそうな感じだ。


 それに吐き気がすごい。実際に食べたものは吐いたし、もう吐くものもなくなって胃の中がからになってもまだまだ出て来そうなくらいだ。


 陣痛の合間だって、実際には一番短い時も痛い時と同じくらいの時間のはずなのに、あっという間に次の陣痛が来る感じで休みがとれない。とても体が持ちそうにない、こんなの嫌~!!!!!


 私はあまりの痛みに何度も気を失い、次の陣痛で目を覚まされ、本能の赴くまま必死で下半身に力を入れたが、もはや体力も限界だった。


 そして……。


「もうおなか切って出して」と言おうかと思った頃、わけもわからないうちにやっと赤ちゃんが生まれた。


「栗原さん、女の子ですよ。おめでとう」

「ありがとう」

 助産師から手渡され、私はへその緒で結ばれたままの赤ちゃんを抱きしめた。


 でも、まだ出産は終わっていなかった。


 赤ちゃんが生まれるまでが分娩第二期で、この後まだ分娩第三期が控えている。胎盤やへその緒、羊膜等の胎児の付属物がすべて体外に排出される時期だ。これが終わるまではまだ出産の途中だ。


 通常ならば胎児が出てから、10分程度で胎盤が出てくるための陣痛が起こり、比較的容易に体外へ産出される。


 ところが、私の場合、一時間近く経過しても胎盤が出て来なかった。

「困ったな。自然に胎盤が出て来ない。先生、もう一度見ていただけますか」

 助産師が医師に言った。


「まずは胎盤圧出法を試してみます」

 胎盤圧出法とは、子宮マッサージ等で自然に胎盤が剥がれるよう促す措置だ。この際に臍帯静脈から生理食塩水を注入する。


 でも、この方法を用いても胎盤が出て来なかった。明らかに異常である。まさかここに来て異常に見舞われるとは。


「出産中に命を落とすのは、この産後の出血による場合が多いですからあなどれません。仕方がない、用手剥離という処置を取ります。私が手で胎盤を剥がす処置です。少し痛いですけど我慢してください、すぐに終わりますので」


(ええ~っ! 胎盤を手で剥すってことは、もしかして……そんな……いやあ~、やめてっ)

 私はこれから起こるであろう事態を想像し、顔から血の気が引いた。


 医師はそう言うと、私のアソコに手を入れて、中の胎盤を剥す措置を取った。


 私の身体の中に出産時以上の激痛が走る。痛いというより「熱い」。まるで真っ赤に焼けた鉄の棒か何かを入れられたのかと思った。


「うううっ、痛ったーい!」思わずうめき声を上げる。

 正樹はとても見ていられないのか、固く目をつむって顔をそらした。


 医師の手によって、なんとか胎盤も排出され、無事出産が終わった。


 でも、私はもう二度と産みたくないと思った。あんなに待ち焦がれていた出産が、思っていたのとは違っていた。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 あまりの壮絶な出産に、出産フェチではなくなってしまったまどか。次の第4話はいよいよ最終話! お楽しみに!

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