第2話 まさかのプロポーズ

 私は正樹に妊娠した事を伝えた。

「赤ちゃんが出来たの」

「何! 何だって!」


(やっぱり。この男は絶対責任を取るなんて事は考えてない。ひとまず堕ろすと言っておこう。どっちにしろ誰かに引き取ってもらうのなら、父親にとっては堕ろすのと変わらないだろう。代理出産の事は話すと長くなるし、面倒だからだまっていよう)


 正樹は驚いた様子で言う。

「そうすると、この前のあの時だよな」

「そうだよ」

「たった一回で出来ちゃったのか」


「うん。でも安心して。あなたに迷惑はかけないから」

「どういう事?」


「堕ろすから」

「ちょっと待て。それってどういう事だよ」


「だって育てるのなんて無理でしょ。あなたも嫌なんじゃないの」

「何言ってるんだ。その子は俺の子でもあるんだろ。まどか一人で勝手にきめるんじゃない」

「へ?」


「こうなったら責任とらせてくれないか。まどか、俺と結婚してくれ。子供は一緒に育てよう。だめかな?」

(結婚って。それってプロポーズじゃん。急にそんな事言われても……)


「本気なの?」

「ああ」


 正樹のようなイケメンのモテ男からこんな事を言われたら、普通の女子ならば天にも昇る気持ちで即答でOKするだろう。でも困った。だって私はそんなつもりは1ミリもないのだから。


 誰の子でもいいから産みたいだけなのだから。


「すぐに返事くれなくてもいい。良く考えてくれ。返事待ってるよ」


 まさか正樹からプロポーズされるとは。いったいどうしたらいいのだろう。


 それでも、正樹のようなプレイボーイが私にプロポーズするなんて、きっと一時の気の迷いであるに違いない。だから少しほおっておけばすぐに「やっぱり堕ろしてくれ」なんて言って来るだろう。そう高をくくって様子を見ていた。


 ところが、正樹は私と顔を合わせるたびに、プロポーズの返事を聞かせてくれと迫って来るのだ。

「まどか、そろそろ返事聞かせてくれないか。もう待ちくたびれたよ」


 私は聞いてみた。

「どうして私なんかと結婚したいの」

「そんなの、好きだからに決まってるだろ」


(そんな事初めて聞いた。今までそんなそぶりは全然見せた事なかったのに)

 正樹は、とても冗談を言っているようには見えなかった。これは本気だ。


 私は動揺した。今まで男の人から「好きだ」なんて言われた事がなかったから。胸がドキドキしてる。まるで全力で走った後みたい。何だろうこの気持ちは。

(もしかして正樹の事好きなのかな……そんなはずはないと思うけど)


 それでも煮え切らない態度で接していると、正樹は今まで以上に私を熱心にデートに誘うようになった。私もそれがだんだん嬉しくて仕方なくなってきた。


 私はすっかり正樹に惚れてしまったのだ。


 そして、お腹の赤ちゃんが成長してくると、だんだん母性本能が刺激される体験が増えて来た。

「正樹、お腹に触ってみて。さっき動いたんだ。凄いの」


 胎動だ。

「あとこれ見て」


 私は上着をまくってお気に入りのフロントホックブラを外して、胸を出しておっぱいをもみ始めた。すると、乳首からやや白く濁った半透明の液体がごくわずかに染み出した。


 普通母乳は産後少ししてから出るのだが、たまに妊娠中にも出る。まさか私がそうなるとは思わなかったけれど。


「これって……もしかして母乳?」

 正樹は驚いた顔をして言った。


「俺にもお腹触らせて」

「いいよ」


 正樹は私のお腹に耳を当てて、胎児の動きを感じようとしている。

「う~ん。触ってみても動いてるかどうか良く分からない」

「おかしいな。さっきあんなに動いてたのに。まあこの時期は少ないけどね」


 あの、遊び人の正樹とは思えないような父性がたまらなく愛しい。


「あ、今動いたかな?」

 胎動が激しくなり、お腹を蹴られたりすると、もうこの子を手放すなんて出来ない。だんだん代理出産なんて嫌だ、そんな風に考えが変わってきた。


「正樹、絶対出産の時立ち会ってね。約束だよ」

「それって……プロポーズОKしてくれるって事? もちろんだよ。安心して」


 私は黙ってコクリと頷いた。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第3話は、ついにまどかが出産! お楽しみに!

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