私、おなかを痛めたいの! ~誰の子でもいいから産みたかった【カクヨムWeb小説短編賞2022中間選考通過作品】
北島 悠
第1話 出産フェチって?
「ねぇ、出産でエクスタシーに達することがあるって本当?」
「本当だよ。私見たんだ。産む瞬間に『きもちいい』って叫んでるDVDがあるの」
ある日、私は親友の片瀬ユイから面白い話を聞いた。
私の名前は栗原まどか。あだ名はクリちゃん。
私は幼い頃から人には言えない秘密をかかえていた。
それは、出産フェチという変わった性癖。他の女性が出産している所を見たり想像したりとか、自分が出産している所を想像しながらひとりエッチしないと絶頂に達する事が出来ない。
普通のエッチは好きじゃない。エッチな映画や、エロ小説ではあまり感じないのだ。
きっかけは出産についての知識を得た事。
私がかなり幼かった頃は、出産はおなかを切って赤ちゃんを取り出す、つまり全部帝王切開だと言われていた。
でも私はすぐにこれは嘘だと思った。なぜかというと動物が好きで、動物の事を色々知っており、人間も動物だから同じはずだと考えたからだ。
人間も交尾みたいな事をするのだろう、赤ちゃんはアソコから出てくるのだろうと推測していた。
なので、書籍で真実を知った時にもあまり驚かなかった。
この時にまず思ったのは、あんなに大きなモノがアソコを通り抜けていく時に、いったいどんな感覚を味わうのだろうという事。
当然痛いのだろうけれど、私は本能的に気持ち良さもあるのではないかと思った。
あと陣痛。私は腹痛フェチだった。お腹が痛くなって大便をする時に何ともいえない快感を楽しんでいた。出産ではこの感覚がもっと強くなるらしい。
出産時には多くの医師や助産師、看護師達が周りにいるのである。私は見られる事も快感なのだ。私はこれもたまらなく感じた。
次に、家にあった婦人公論という雑誌。母が定期購読しており、ちょっとエッチな手記が多く掲載されていた。それだけでも十分楽しめたのであるが、更に出産に関する手記が多くあった。
別の雑誌では、女子高生がレイプされて身籠った子を一人で出産した話が載っていた。この人は赤ちゃんが出る瞬間の、股の間に挟まった感覚で気を失ってしまったそうだ。
また、有名人で出産が気持ち良かったという事実をカミングアウトしている人がいる。年の離れた旦那を捨てて若い男と結婚したМ.Мとか、元AV女優のT、シンガーソングライターのC等だ。
(出産って、痛いだけじゃないかも)
私は、自分が出産している所を細部に渡りイメージしたり、出産動画で他人が目の前で出産する所を見たり、想像するのがとても興奮した。
そして、ある日ユイから出産でイってしまうという話を聞いて、くだんのDVDを観てからというもの、妄想は更にエスカレートした。私はとうとう想像だけでは満足出来なくなり、誰の子でもいいから産みたいという願望を持ってしまったのだ。
先月、職場の飲み会で酔ったふりをして、職場一のモテ男、芳賀正樹と一夜を共にした。この日が危険日というのも承知の上で、なにもつけずにした。案の定、私は妊娠。
私はその子を産む事にした。なぜなら出産を体験したかったからだ。
でも、育てる気はさらさらない。それじゃあ捨てる気なのかって。ご冗談を。それって犯罪ですから~
もちろんどうするかはちゃんと考えている。世の中には子供が欲しくてもどうしても手に入れられない人達が存在している。
一方で私のように出産したいけれど子育てはしたくないという人や、経済的な理由でどうしても自分で育てる事が出来ない人がいる。
そして、この両者の間を取り持つ人もいるのだ。それが「代理出産コーディネーター」である。
代理出産は、残念ながらこの日本では違法ではないが、倫理的見地から行われていない。事実上の禁止だ。そこで私は代理出産が認められている国で出産する事にした。
私は施設育ちの孤児で、親戚もいない天涯孤独の身。犯罪でもない限り、何をしようが誰にも干渉される事はないのだ。
さて。問題は父親である正樹だ。これも考えがある。
わざわざ職場一のモテ男を選んだのには理由がある。彼ならば私との子を「一緒に育てよう」なんて言い出す可能性がほぼゼロだと考えたからだ。
なにせとんでもないプレイボーイなのだから。きっと堕ろせと言うに決まってる。代理出産ならば責任を取らなくていいからOKするだろう。そんな男だと思ったから彼を選んだのだから。
ところが、私の思惑は予想外の事態をもたらす事になってしまった。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第2話は、正樹がまどかに意外な提案をします。お楽しみに!
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