ムーン プリズムパワー メイクアップ

 本作品は、‟偽教授長編大賞”という長編執筆を募る企画の参加作品であり、そして唯一の「期間中の十万字完走&完結」を成し遂げ、見事大賞に選出された作品である。
 テーマは、19歳の魔法少女。なかなかギリギリ感がある。女性における19歳という年齢は少女というにはギリギリなのであって、その年で魔法少女というのは限界ではないのか、ということであるが、実際、この『Magical 19』という物語の中では、19歳の魔法少女は引退を間近に控えたベテランである、と定義されている。なんとなれば、20歳になると変身能力から何から失ってしまうのだそうだ。なるほど道理だ。で、本物語の主人公、瀬戸七海はその19歳の魔法少女である。
 この設定は「主人公と、そのパートナーになるキャラクターの年齢の和を38にすること」という、偽教授長編大賞企画主催者の意向に即して作られたものであるわけだが、38という数字は本当にその場のノリだけでまったく適当に決めたため、その半数となる19という数が物語のキープロットを為す物語が投下されること自体が割と予想外の、嬉しい誤算であった。
 物語は、強制引退の日を丸一年後に控えた19歳の誕生日から始まる(それも企画主催側の指定によるものだが)。その日にいきなり何かが起こるわけではなく、七海はセブンスというコードネームでもう何年も前から魔法少女として戦い続けているのであり、そしてこの世界における魔法少女という存在も、何十年も前から存在していて、社会に公認されており、その役割は公的なもの。闇に紛れて悪を討つヒーローという類のものではなく、実質的には軍人であるというわけだ。
 この物語はとても安定している。ほぼ日刊連載に近い連載ペースを維持したまま約二カ月弱の執筆によって完結へと至った流れ自体もそうだし、世界観そのものも(現代の地球を舞台にした現代ファンタジーであるということもあるが)非常にかっちりしていて、登場人物たちはその中に確かなアイデンティティを置かれ、それぞれの役割を全うする。
 物語が後半に向かうに従い、世界の謎は少しずつ(読者の目線に分かるように)解き明かされていき、はっきりこの言葉を使っておくが「王道」というべきクライマックスの盛り上がりを見せ、そして最終的には大団円のハッピーエンドが待っている。
 これを書いている筆者は連載を一話ごとに全部追ってコメントを付け、そしてその後完結後に改めて一から全部もう一度読み直してこの文章を著しているわけだが、連載を追う段階と通読の段階とではやはり大きな手ごたえの違いというものがあった。それは、物語全体の流れるようなシークェンスの持つ通底した「自然さ」である。無駄がなく、洗練されている。そこに、作者氏の確かな力量というものが宿っていると、そう認識させられるのである。
 さて、ではストーリー内部に少し踏み入って話をしてみようか。筆者としては、作中のキャラクターの中で一番好きなのは「ドネキ」こと魔法少女ドリームスターライトである。強者であり、リーダー的存在であり、かつ百合。何度ももったいを付けられながら後半でようやく登場する構図になっており、この作品中では最大のトリックスターであるといえる。最終決戦にも参加し、最後まで活躍の場を与えられている。
 この物語をよりよくするためにはどうあるべきか、という論考は、できなくはないのだがこの場では筆を控えようと思う。連載中に散々話したことではあるし。というわけで、今はもう一度、完結を祝してこの言葉で締めくくらせていただく。おつかれさまでした。