第二章 その5 『ストーンより重いモノは無い。』

「さっきはすまなかったね」


シートの端でわへいが休んでいると宇葉が近付き声を掛ける。

そこには先程感じた重圧のようなものはなかった。

「いえ。まじないの類…ですか」

「まさか!私にはそんな力はないよ」

なはは、と宇葉が笑う。

改めてみると、一言で“小さい”。

ただ、二の腕等見えている箇所だけでも現役選手に劣らぬ程に筋肉が付いている。

かつては海口と共に“日本筋肉部員”だったとか、“クレイジーマッスル”と呼ばれたとかわへいは乃花から聞いた情報を思い出す。

「スコアボードを見せて、ストーンを並べて。そこから何を感じ取るかはキミ次第。でもキミはの本人の重圧が感じられた。それは既に世界戦を…擬似的にでも体験したことになる。それって無駄にならないだろう?」


世界戦の経験。

もちろんわへいは未経験の領域だ。

だが、先程感じたストーンを投げることさえ出来ない重圧。

それは思い出すとまだ胃の奥に重く伸し掛かる程、生々しいものだった。


「マァ、こんなことやってるからヒミコ様なんて変なあだ名付けられて困ってるケドね」


カラカラと宇葉は笑う。


「カーリングってどうしたら上手になれますか?」

オリンピックという四年に一度しかない機会。

それを二度も挑戦し二度ともメダルという結果を残した。

そんな宇葉であれば、自分が成長出来るヒントを貰えるのではないか?

そんな甘い考えから、わへいは軽はずみな質問をしてしまう。

人によっては「そんな道などない」と一蹴されるだろう。

しかし意外にも宇葉は口の中でわへいの質問を繰り返し、考え込む。


「カーリング、上手くなりたいかい?」

「はい」

「…そうだよなぁ。私もそうだったもんなぁ。私は、ね。カーリング上手くなりたいなら、あのいけ好かない神様とやらと仲良くなるしかないと思うね。…だけど、そんなコトまともな人間には無理なんだよ」


宇葉は昏く、薄く笑った。


「あんな性格の悪い神様と仲良くするなんて、ね」

「宇葉さんは神様と会ったことあるんですか?」

「…たぶん、あるよ」

また一段階宇葉の表情が昏くなる。

「最初、私達に神様は味方してくれた。それで二個もメダル取れたんだよね。でも…それっきりさ。後は…ねぇ…」


暫くの沈黙。


「私はチーム die sonneディゾネ を作った。強いチームだと思うよ。でもね、きっと何かが足りない。世界に挑むための何か、が…。君は、カーリング、楽しいかい?」

「はい。」

「羨ましいなぁ」

宇葉は眩しそうに目を細めた。

「私も、楽しかったなぁ。彼女達も、このまま楽しんでくれるといいなぁ…」


その呟きが誰に向けられたものか、わへいには分からなかった。

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