第三章 その5 『野山乃花の反省会』

カーリング場を出た途端、野山乃花がしゃがみ込む。

『やった、やった。やらかした。、あ〜シにてぇ〜。ぜってぇうぜぇキッズ判定。後々に害悪キッズ泣かしたった動画になる。俺はなる』

そして乃花はむふ〜っとため息をつく。

眼鏡は曇る。

心も曇る。

「もしも~し」

乃花の前で小玉が手をひらひら振る。

「これは、アレです。脳内一人反省会をしてますね」

わへいが冷静な解説をする。

「一人反省会かにゃん?」

「一人反省会ですにゃん」

「何の反省だにゃん?」

「先ほど大人達相手にめちゃくちゃイキりちらしたからだにゃん」

「イキりちらすと反省会するのかにゃん?」

「たぶん、今頃自分は害悪キッズだとかシにてぇだとかおもってるにゃん」

「面白かったよん?いつも退屈な会議なのに。ね、乃花先輩パイセン

「楽しかったのにゃん。パイセン」

「こら、おまいら調子に乗り過ぎだ。特にそこの後輩わへい。あんま調子ちょーし乗ってると私の頭の中ででBLの刑薄い本の刑にするぞ」

「ほほ~う。それは興味あるねん。ちなみに“誰かけるわへい”クンになるの?」

「森島わへい✕黒崎諒で“森崎”はテッパン。身体の何処かに当たってくれ〜、そう何度もヌかれてたまるか〜ってな。意外なとこで座間夏彦✕わへいで“ざまぁわへい”」

わへいをよそ目に勝手に盛り上がる女子二人。


「で、実際のところ軽井沢選抜には誰に声を掛けるんですか?」

会話が一区切りついたかな、という所でわへいが二人に声を掛ける。

その言葉を聞いて小玉が「ほぇ~」と本人は感嘆の(と思われる)声を挙げる。

「わへいクンって乃花パイセンを本当に信頼してるのねぇ」

「なんです?」

「いやぁ、ね。本当に軽井沢選抜なんてやるのか、なんて聞かないで具体的に誰にするのかって聞く辺り。もう乃花パイセンがやりきるって信じてるんでしょう?」

「まぁあれだけの大見得切ったんだすからね。やらざるを得ないでしょう…で、実際軽井沢選抜ってそんなに敷居は高いんてすか?」

「何を持って軽井沢選抜と呼ぶか…にもよるが」

脳内の反省会やらBLの刑薄い本の刑に飽きたのか乃花が眼鏡を拭きながら答える。

「チーム組んでなら選手登録してるメンバーで各大会に届け出るだけだぞ」

「そうなんですか?」

「そうだぞ。お前もう少し登録とか所属協会とか理解した方が良いぞ」

わへいの無知を呆れる、というよりは知識を教える事に生き生きとしてくるのが乃花である。

「軽井沢町はもちろん、隣の御代田町や佐久市、少し遠いが諏訪市や長野市なんかにもカーリングクラブがあって。皆それぞれのクラブに所属してクラブを通して長野県カーリング協会に選手登録をしている。年会費と登録料払ってるだろ?」

「部長に言われた金額払ってただけで内訳知りませんでした」

「そういうトコだぞ。わへい。次の部長を狙うのであれば知っておけ」

「はい」

素直に返事するわへいを見て、実は真剣に部長を狙ってるのかと関心する乃花。

「で、公式な大会は選手登録してあれば出られる。私達は軽井沢のクラブ所属だな。だからチームを組むのは特段問題は、ない」

「そんなハードルが低い話でも日本全国で選抜が無い理由が…ある?」

「そう。結論から言えばチームの垣根なんだが。わへいクン、それが出来ない建前を述べよ」

「えっ…と。カーリングは高度なチームワークを必要とする競技です。だから即興でチームを組んでも結果は残せない。だからチームを崩してしまう事は出来ない」

「正解。ちなみにお前さん、即興で私と組んで結果は残せないか?」

「何言ってるんですか。先輩とは知らない仲ではないですから。癖も好みもわかりますよ」

全く恥じらう様子もなく言い切るわへいに一瞬顔を赤くする乃花。

「なかなか君達も面白いにゃん?」

それをにまにましながら見ている小玉。

「う…む。まぁそうだな。私達なら可能では、あるな」

顔の赤みを隠すために乃花はキャスケットを被り直す。

「では意地悪な質問をしよう。他の選抜を組んでいるスポーツは高度なチームワークが必要ないのか?」

「論理が飛躍している上に答えが分かりきっています」

「可愛くないな。素直に私の期待に応えろよ」

「他の競技は四カ年計画とか、長いスパンでチームを創りますね」

「答えを先に言うなよ」

「先輩の期待には応えてますよね?」

「う…む。可愛くないヤツめ」

「先輩は可愛いですよ…ってわへいクンが言うべきだねん」

「先輩は可愛いですよ」

「うわ、一切の照れもなくノータイム、しかも本気で言ったにゃん。たらしだ。女たらしが天然だ」

「困ったヤツだ」

乃花の眼鏡が都合よく遮光モードに切り替わりその表情は分からない。

「まぁ…だから出来る出来ないで言えば出来るんだよ。やりようはあるはずなんだ。チームの垣根…もっと言えば予算だな…が越えられれば、な」

「それを先輩達が超える、と」

子供達だけで決めたら問題だからな。コーチにまずは相談。それからさ」

「そういう意味ではコーチの言質は取ってあるから…」

「私は気兼ねないにゃん」

「あと二人…」

と呟きながら乃花の頭にはすでにリストが出来上がっているのだった。

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