第一章 その2 機屋リューリ『汗と氷の香りがするベッドの上で』
心地良い
明け方寒いなと感じていたが、私はわへいのTシャツを着ただけのほぼ裸で寝ていた。
いくら四月の下旬とはいえ、これでは寒いはずだった。
昨夜、わへいと
その
隣で寝息を立てていた。
首筋を中心に噛んだ跡が残っているのは…私のせい。
夜中にうなされた、私の様子を気にしていたのだろう。
わへいは律儀にこちらを向いたまま寝ていた。
ここはわへいの自宅でわへいの自室。
造りつけの二段ベッド。
その一段目にふたりして寝ているのだから寝返りも打てない程に狭い。
でも、
どんなに狭くても、私は心地良く感じる。
初めて彼と
わへいは初めてで。
でも、私は初めてではなかった。
ただ、それが申し訳なくて。
私は泣きじゃくるばかりだったわ。
それを取り戻すように今では私の生理周期の許す限り、わへいを
身体中に残った昔の記憶を、全てわへいの感触で上書きしたい。
だから私は何度も何度も
わへいとの行為の中、時折パパの事を想像しながら。
汚い私はわへいを体内に導く事で彼に浄化される事を願いながら。
わへいとの行為に没頭した。
それは自分の過去の選択を否定する、良くない考えであるけれど。
わへいはその私の愚かな選択もひっくるめて、私を愛してくれた。
しばらくわへいの寝顔を眺めた後、ふと、二人の香りに混じって
二段ベッドの上段には私達のカーリング用ユニフォーム、ベッド脇にはカーリングブラシが立て掛けてある。
ユニフォームやカーリングブラシに
少し目を閉じると、裸で
廊下からパタパタと足音が聞こえた。
壁掛けの時計を見ると六時前。
わへいのお母さん、しのぶさんが起き出したのだろう。
私も朝食の支度を手伝わなければ。
しかし私の身体は汗やら体液やらお互いが愛し合った跡が残っていて、いくら
…シャワーを浴びる必要があるわ。
私はベッドの上段に頭をぶつけないよう身体を起こす。
私は壁側でわへいがベッドの開放部に寝ているので、このままではベッドから起き出す事が出来ない。
わへいは私が身体を起こしても気付かずまだ寝ている。
その寝顔は呑気で、幸せそうだった。
昨夜はたくさん頑張って動いてくれて、その上私が夜中にうなされて。
それでしばらくは眠れなかったのだろう。
その頬を指でツンツンつついてみる。
…普段寝起きは良いのに今日に限っては起きない。
私は昨夜わへいを求めすぎた事に少し反省をする。
…反省はしても止めることはしないのだけど。
その幸せそうな寝顔を見ている内に、私の中でイタズラ心がむくむくと頭をもたげる。
私は柔らかそうな頬に優しくキスをする…のではなく、軽くつねってやる。
「痛っ…くはないけど、起こすならもう少し優しく起こして欲しい」
「つねられたくなければ私より早く起きなさい」
「相手にした事は自分も同じ手段で報復を受ける覚悟が必要だけど、僕がリューリより早く起きたら、同じ事をしても許されるよね?」
「私を起こす時は優しく愛を囁きなさい」
「起こす度に?」
「そう、起こす度に。起こす時だけではなく、朝はおはようの前に必ず"好きだ、今日も綺麗だね、愛してる"と言いなさい」
「昨晩だいぶ愛したつもりだし、僕の普段の態度見ていたら、いちいち言わなくても分かるんじゃない?」
私はわへいの鼻先に人差し指を突きつけてやる。
「いいコト、わへい。女の子に"好きだ、綺麗だね、愛してる"って囁くコトは、ね。お花に水をあげるのと同じくらい必要なコトで同じ効果があるの。綺麗に咲かせたければ毎日水をあげなさい」
「…Yes」
「水を貰えなくなったお花は、ね。枯れるのよ。それはお花のせいじゃない。愛を囁かない男に原因があるんだわ」
「…Yes」
「分かれば良いわ。はい、それじゃあ今日の分、私にお水を頂戴?」
「好きだ、リューリ。今日も綺麗だね。愛してるよ」
「指示された戦術をそのまま実行するのは、ね。良い事ではあるけど、面白味には欠けるわ」
「…酷い言われようだね。それに注文が多すぎるのでは?戦術は選手の技量を見極めるべきであると具申致します」
「私の多彩な戦術について来なさい」
「…Yes」
「よろしい。さぁ、起きましょ?しのぶさんが動いてるわ」
「えっと、それじゃまずはシャワーからかな。母さんきっと脱衣場のヒーター入れてくれてると思うから。寒くはないはず」
私達は半裸のまま、それぞれベッドから起き出した。
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