代替品

荒川馳夫

縁を切ったら、全てが上手くいく

「あいつら、絶対に許さないからな」


ある男が一人で叫んでいた。それも周りに聞こえるような大声で。


「会社を辞めた。辞めてやったぞ。社員どもが俺をバカにしやがったからだ、ざまあみろ」


次に吠えたのは、伴侶に関することだった。


「妻とも別れてやった。アイツも俺のことをグチグチと悪く言いやがるからだ。別れてやって当然だ」


男は自分との関わりを絶つことで、自分がいかに大きな存在であったかを知らしめようとしているようだ。きっと、会社は上手くいかなくなり、妻は生活するにも困るようになる。そう予想していた。


「俺のことを大切にしなかった報いを受けろってんだ」


 だが、予想はいとも簡単に裏切られた。

男が退職した会社は急成長を遂げていた。元妻は新しい相手を見つけ、幸せに暮らしていることをSNSで知った。


「なんで、どうしてだよ……訳が分からない」


男はそう愚痴ったがどうにもならなかった。

会社も妻も、より良い代わりを見つけられたのだ。

男の代替品などいくらでもあったという事実を、男本人だけが知らなかった。たったそれだけのことである。









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代替品 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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