アタシの価値観は世界の標準

くにえミリセ

第1話

現在、80を超えた、「おかあ」(母)の超ジコチュー物語。

おかあは自分の価値観が世界の標準であると信じてる。悪いことはぜーんぶ、誰かのせい。ここまでくると、全くもってうらやましい限りの性格だ。おかあの周囲は、涙、涙と少しの笑いで渦を巻く。


まずは、この話…


(1) 茶色い弁当


『3年B組金八先生』15歳の母と薄っぺらな家庭事情。アリスの劇中歌がぐわっとそれを盛り上げる。そんなドラマに心を揺さぶられて泣いていた1979年か80年ごろやと思う頃、わたしは純真で単純な中学生だった。


その頃、おかあはレストランのパートをしていた。あんまり覚えてないけれどホテルかなんかの横にある大きくも小さくもない目立つとこが全然ないごくフツーのレストランだった。


仕事が終わる帰り際に、飼っていた雑種犬のエサにと客が食べ残した肉をいつも、もらっていた。


うちのわんこの名前は『チッチ』。小鳥みたいな名前だが、れっきとしたイヌ。臆病で耳が半分垂れていて、白くて可愛いメスの雑種犬だった。しかし、来る日も、来る日も、あんまりにも客の残した肉ばかりのエサに、しだいにうちのチッチも飽きてしまい食べなくなった。


おかあはなんとかうちのわんこ『チッチ』に食べてもらうため、隣の家のマルチーズ犬、『ゆたか』を利用することを思いついた。


エサの器を持ち上げたかと思うと、

「ゆたかぁー、肉をやるぞー」

と、どえらくでっかい声を出しながら隣に行くフリをする。


うちのわんこはまんまと罠にはまり、

「あいつにやるくらいなら

あたいが食べるわ。」といわんばかりにおかあの行く手を阻むのだ。


よっしゃ、とばかりに

エサの器をチッチの前に置くおかあ。

少しクンクンと鼻を動かすうちのチッチ。

が、やっぱり食べない。


そんなやりとりが続くのだけど、

何故かしらんが、肉をもらって帰ることをやめないおかあだった。


そうそう、おかあがたまにお金を出して買って帰る、手のひらサイズの丸いケーキは、今思うとそのお金でドッグフード買えばいいやんって思うけど、当時のわたしはそんな論理的思考より、目の前に出された丸いケーキによだれをたらすほうが先だった。


そんなこんなで犬も食わないようなものが、今度は、わたしの弁当に入れられるようになった。

煮なおしてただ茶色いだけの肉のかたまり。


弁当のおかずが、それ。


茶色一色。


トマトの赤も

レタスの緑も

たまごの黄色も、


ない。


いやいや、色以前に、その肉、客の食べ残しじゃないのか?


「火を通して煮なおせば、菌は消えるけん」


と言うおかあの言葉。


今考えると、ひじょーにやばい。


肝炎か、ハライタ病か、なんかわからんけどしらんけど、なんかの病気を発症しなかったのが不思議なくらいだ。


わたしは、「火を通せば…」のくだりを信じて疑わず、多少、違和感を感じながらも

中学校で友達とヘラヘラ笑いながら食べていた。


わたしも、

どうやらかなりの


アホだったようだ。



To be continued

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