第41話 またもう一人
翌日の昼、僕ら四人は、屋上で集まっていた。
「ということで、新しくハーレムメンバーにキョウコが加わりました~。はい拍手!」
僕が言うと、ツユリ、ユイがそれぞれ言った。
「拒否するよお兄ちゃん」
「アキラくんの言葉でもちょっと厳しいかな……」
さらにキョウコが微笑んで続いた。
「そうですね。それが妥当でしょう。ああ、もちろん私からもお断りです。夜道には気を付けてくださいね」
殺伐度がツユリとユイの初めてのお昼ご飯並みに戻っている。
「ということで、今日も親睦を深めるためにみんなでゲームをしよう」
「相変わらずの強引さだよね」
丁寧に僕に突っ込んでくれるツユリがいる一方で、ユイは勝手にやり合い始めてしまう。
「あ! そうだキョウコちゃん。そういえばね、キョウコちゃんが家を焼いてくれたおかげで、今私、アキラくんのお家に住んでるんだ~! ねぇねぇ、どんな気持ち? 自分のミスの所為で恋敵が恋人と接近してるの聞いてどんな気持ち?」
「何も問題ありませんよ。今日中に殺しますから」
「ひぇ……」
ツユリがドン引きしている。
それから、僕に助けを求めるような視線を向けてきた。
僕は頷いて提案する。
「という事で、今回は大富豪をローカルルールの確認なしで行いたいと思います」
「ねぇお兄ちゃん、何でこのタイミングで一番ケンカが起こりそうなルールをチョイスするの? せめてローカルルールは確認しようよ。絶対『はぁ? そんなルールありませんけど』ってなるじゃん」
「じゃあシャッフルするね」
「話聞いて?」
僕は6つの手札に分けて、みんなに呼びかけた。
「さぁ! 大富豪の始まりだ!」
「「「……」」」
みんながプレイヤーの存在しない手札の二つを見つめている。
「あの、会長。手札が多いですが」
「人数通りだよ」
「いえ、しかし……。お二人はおかしいと思いますよね」
「アキラくんの言うことは、ぜった~い!」
「同じネタには突っ込まないよ。やってられないから」
「以前もあったんですか?」
「じゃあダイヤの3の人出してくれるかな」
沈黙。僕ら四人は動かない。
そこで、ユイがげんなりした顔で言った。
「あの、お兄ちゃん。これ多分その手札のどっちかだと思うんだけど、もうこの妙な寸劇止めない……? 前は途中でやめたじゃん」
「え? 寸劇じゃないよ。ほら、もうカードを出してるじゃないか」
「え?」
みんなの視線が僕の指の先を見る。そこには、ダイヤの3が置いてあった。
「「「えっ」」」
三人の声が重なる。
「お、お兄ちゃん?」
「いいや?」
「いやいや、アキラくんだよね?」
「違うよ」
「か、会長。その、こういった冗談は趣味が悪いといいますか―――」
キョウコの言葉の途中で、プレイヤーのいない手札のカードの一つがふわりと風で浮き、そしてダイヤの3の上に置かれた。
クラブの4だ。
「「「……」」」
沈黙が全員に降りる。僕以外の全員が、「マジで?」って顔をしている。
「じゃあ順番的に僕だから出すね。はい8切り」
捨て札の山を流す。
「で、革命」
Qを四枚出して革命する。
「出せる人いる?」
「え、普通に出せないけど……」
「っていうか、アキラくん。今、今の何? 偶然?」
ユイは何故か嬉しそうだ。
「ふ、ふふ、そんな、ただの偶然に決まっているでしょう。ここは屋上ですよ? こんな風通しのいい場所。たまたまカードが舞い上がったっておかしくは―――」
一方キョウコが青い顔で強がっている時だった。
プレイヤーのいない手札の片方から、四枚のカードが舞い上がった。
そして僕の革命の上に並ぶ。
10の革命。つまり革命返しだ。
「……ひぅ」
キョウコは泡を吹いてぶっ倒れた。
「きょっ、キョウコさん!? キョウコさーん!?」
「ぶくぶくぶくぶく……」
「キャー! いる! これは本当に居る! キャーキャー! すごい! 心霊現象起こってる! すごいすごい! キャー!」
「それでなんでユイさん狂喜乱舞してるの!? かなりの恐怖なんだけど私!」
僕はキョウコを抱き寄せて、膝枕しながら言った。
「じゃあ革命返しされたところで、出せる人いる?」
「居ないよ! 普通に居ないしこの状況へのツッコミも追いつかないしお兄ちゃんなんかキョウコさん膝枕してるし! 何なの!」
マズイ、ツユリが恐怖のあまりプンプンしている。
そこで、出せる人がいないということでふわりとまたカードが浮く。
8。8切りだ。
「キャー! 本当だ! 本当に起こってる! すごいすごい! こわーい!」
「怖い人のリアクションじゃないだけどユイさん!」
その後もプレイヤー不在の手札は、どんどん大富豪のコンボを決めていく。
そして最後には手札の全てを出しきった。
僕は宣言する。
「大富豪確定は、トイレの花子さんでした!」
「トイレの花子さんだったの!? いや、それはいいよ! どうやってそんなの呼んだの!」
「トイレの花子さんコンボ強くない?」
「ユイさんせめて叫んで! 普通に受け入れないで!」
「ぶくぶくぶくぶく」
「あとキョウコさんはいつまで泡吹いてるの! そろそろ起きて! 事態の収拾の手伝いして!」
ツユリが大忙しでワーワー言うのを聞きながら、僕はそっと微笑んだ。
「キョウコ、結構楽しくない? 君と同じヤンデレ―――異常偏愛を抱えた二人だ。二人は君の偏愛を、異常と見て遠ざけたりはしないよ。きっと正面からぶつかってくれる」
「……」
キョウコは、見下ろす僕から視線を逸らす。
「君たちはきっと殺し合う。けれどね、それは他の人とは築けない関係性だ。例え殺し合いの末に死んでしまったとしても、そこには君の居場所があった」
「……私は、あなた一人と一緒に居たかったです、会長」
ぼそっと言うキョウコの頭を、僕はそっと撫でる。
「僕がこんなだって知りながら惚れた、君の負けだよ。だから、大人しく付き合ってほしい。安心してよ。僕が全部いいようにする。君を不幸にはしないから」
キョウコは僕を見て、僅かに頬を赤くしていった。
「信じてますよ。あなたはずっと、私のヒーローですから」
「そっか。それは、光栄だね」
僕はキョウコをさらに撫でる。
そんな、ヤンデレハーレム3人目を追加した、とある春のことだった。
ヤンデレハーレムを築きたい少年と彼を独占したいヤンデレ少女たち 一森 一輝 @Ichimori_nyaru666
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