76.エピローグ


 ウェルズリー侯爵を倒した日、第七近衛隊は全ての出来事をシャーロットに報告した。

 リリィが幻影魔法を解除したこと、精神安定によってアルトの魔法の制御力が飛躍的に向上したこと、生命力の活性化によって周囲の草木が瞬時に花開いたことをなど聞いたシャーロットは唖然とした表情をした。


「それって……伝説の聖女と同じ能力(ちから)がではありませんか!?」


 シャーロットはすぐに王家に伝わる文献を引っ張り出してきた。

 そこには、波乱の世に安寧をもたらしたとされる伝説の聖女に関する記述があった。

 曰く、彼女は〝セイクリッド・ベール〟という名の特殊な神聖魔法を使い、魔法による状態異常の回復、アンデッドの浄化、生命力の活性化、精神安定による精神障害克服などを実現したという。 後日、神官による調査が行われた結果、リリィが自然と発動できるようになっていたスキルが、まさに伝説の聖女が使用していた〝セイクリッド・ベール〟と同様の効果を持っていることが判明した。


 以降、リリィはその能力を活かして、犯罪被害者の精神のケアを行なったり、土地の生命力を上げて豊穣をもたらしたり、高レベルダンジョンで味方の能力を高めながら状態異常を回復したり、幅広く任務をこなした。

 その活躍ぶりは次第に国中に広まり、いつの間にかリリィは国民からも聖女として認知されるようになっていた。

 それと同時に、聖女を擁する王女派陣営は急速に市井からの支持を拡大していった。


 一方、ウェルズリー侯爵とカミーラは重大事件を起こした犯罪者としてホワイトプリズンに収監されることになった。

 事件におけるリチャード王子の関与は認められなかったものの、ワイロー、ウェルズリーが逮捕されたことによって王子派閥の肩身は非常に狭くなり、リチャードは実質失脚したと言っても良いほどに発言力を失っていた。

 無実の罪で捕まっていたアーサーは、ウェルズリー侯爵の逮捕と同時に無事解放され、第七近衛隊は以前と同じ体制に戻った。

 最近ではシャーロット王女からの特命任務において、爆発的な攻撃スキルを使えるアルト、強力な敵であってもそのスキルを無効化できるミア、二人のスキルをさらなる高みに引き上げながら被害者のメンタルケア等も行うことができるリリィ、この三人で対応することも多くなっていた。

 今はちょうどその三人で王都から歩いて数時間の村に起きていた問題を解決してきたところであった。

 その村では突然毒ラビットとその上位種が大量発生し、作物に影響を与えていたのだ。


「この度は本当にありがとうございました」


 村の出入り口で村長から丁寧なお礼を受けると、三人の中で一番の先輩であるリリィが微笑んで返す。


「また何か手に負えないようなことがあれば騎士団に一報ください」


 そう言って一行は村を出て王都に向かって歩き出した。

 眼前には見渡す限りの草原が広がっており、その中を一本の道が伸びている。

 三人がしばらく歩いていると、後ろから地を駆ける足音が聞こえてきた。

 振り返れば、そこには十歳にも満たないであろう子供が三人並んでいた。


「あれ、君たちどうしたのかしら?」


 リリィが問うと、三人の中心で両脇の二人の手を繋いでいた活発そうな少女がハキハキと答える。


「私たちの村を救ってくれて、ありがとうございました! 聖女様のお陰で家の野菜も元気になってました!」


 少女は隣にいたもう一人の少女に「ほら」と声を掛けた。

 すると、声を掛けられた女の子はおずおずとミアの前に出る。

 ミアにはその姿に見覚えがあった。


「あなたは確か……毒ラビットのスキルの標的になっていた……」


「……お姉さん……守ってくれて……ありがと……」


 内気そうな少女の言葉に、真ん中の少女は、よしよしと頷いた。

 そして最後の一人の脇腹をつついた。


「ほら、あんたも。聞くんでしょ?」


「……う、うん」


 長い髪で目元が隠れていたため分からなかったが、その声は確かに男の子のものであった。


 少年は顔を上げて、アルトを見つめた。


「ぼく、学校でいじめられてばっかりで……。どうすれば、お兄さんみたいに強くなれますか」


「強くなる方法か」


 アルトは困ったように頭をかく。


「まずはやっぱり努力だな。一口に努力と言ったって、ただがむしゃらに頑張ればいいってわけじゃない。人それぞれ適性が異なるから、まずは自分の適性を見極めて、その上で一番効率的な方法を模索する必要がある。俺には君の適性がわからないから、今詳しくアドバイスすることはできないかな」


 少年は、アルトの発言を聞いてどうすれば良いか分からずに困った表情をしていた。

 リリィやミアも、どうフォローしたものかと頭を悩ませている。

 しかし、アルトの言葉はこれで終わりではなかった。


「でも、努力よりももっと大事なものがある」


「もっと大事なもの……?」


「そう。それは互いに信じて支え合える仲間だ。俺だって自分一人で力を身につけたわけじゃない。それに、今回の任務だって俺一人が頑張ったってどうにもならない部分がたくさんあった。だから心から信頼できる仲間を見つけて、切磋琢磨することが一番大事だな」


 アルトは目の前にいる三人を力強い眼差しで見た。


「まあ君には既にいい仲間がいるみたいだから、このまま頑張ればいつか強くなれると思うよ」


 話を聞いていた少年の瞳には光が灯っていた。


「ありがとうございます、話してくれたこと、分かった気がします。頑張っていつかお兄さんみたいに強くなります! それで、ぼくも悪い奴を倒す騎士になりたいです!!」


 少年の発言に触発されたように、他の二人も次々に声を上げる。


「私、聖女様みたいにみんなを助けたい!」


「……わたしはお姉さんみたいに大切な人を守りたい……!」


 普通の大人なら、たわいない子供の夢だと適当に相槌を打って返していたかもしれない。

 だが、アルトもリリィもミアも、全員が子供の頃に抱いた騎士になるという夢を叶えてここに立っているのだ。

 リリィは嬉しそうに微笑んだ。


「もしみんなが騎士になるとしたら、私たちの後輩になるわけね。みんなの活躍に期待してるわね」


「……頑張ればきっとなれると思います」


「そうだな。王都で待ってるよ」


「じゃあ、そんなみんなに、私からおまじないをしてあげる」


 リリィはみんなの頭を一人ずつポンポンと軽く叩いていった。

 その手は僅かに光を帯びている。

 子供たちの精神力を〝セイクリッド・ベール〟によって底上げしたのだ。


「これできっと大丈夫。さあ、村の人たちが心配するから、もう戻りなさい」


「はい、ありがとうございました!」

 やる気に満ち溢れた表情で子供たちは来た道を引き返していった。

 その後ろ姿を眺めていたミアがぽつりと呟く。


「……なんだか、嬉しいですね」


「俺たちの夢が叶って、今度は子供たちに夢を与えたんだな」


「そうね。あの子たちが目指す騎士であれるように、私たちも頑張らなくちゃね」

 三人は決意を新たに、再び歩き始めた。




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長くお待たせしてしまいましたが、これにて「全自動魔法のコスパ無双」は完結になります。

今まで読んでいただいてありがとうございました。


また、作者の新作を投稿しております。

本作と同じように、主人公がどんどん強くなっていくチートスキルものです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330661951001566


こちらもぜひ読んでいただけましたら幸いです。

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全自動魔法【オート・マジック】のコスパ無双〜 放置しても経験値が集まるみたいです。 アメカワ・リーチ@ラノベ作家 @tmnorwork

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