守護霊はいつだって私の背中を押してくれる

春海水亭

私の守護霊

 自分の背中には守護霊みたいな存在が憑いています

 目には見えないし、声も聞こえないけれど、いることだけははっきりと感じていて、彼か彼女かはわかりませんが、私の守護霊はいつだって迷っている私の背中を押してくれるのです。


 守護霊の存在を初めて感じたのは小学生の頃です。

 仲良しだったともちゃんと些細な言い争いから「ともちゃんとは絶交だからね!」なんて言ってしまったことがあります。

 今振り返ってみれば、何色が好きみたいな話がきっかけの、そもそもなんで喧嘩してしまったのかと思うような些細な出来事だったんですが、当時は何事も本気でしたから、本気になって喧嘩して、そして家に帰ってから「自分はなんてことを言ってしまったんだろう、ともちゃんとはもう一緒に遊べないんだ」とぐずぐず泣いていました。

 それから、しばらくともちゃんとは気まずい雰囲気が続きました。

 自分はもう怒ってなんかいません、仲直りがしたいと思っています。

 けれど、もしもともちゃんがまだ怒っていて本当に絶交になってしまったのなら……それが怖くってとても声をかけられませんでした。

 ある日の図工の時間のことでした。

 互いの似顔絵を描いてみようみたいな授業で、私とともちゃんが出席番号の関係で一緒に組むことになりました。

 二人で隣同士の席に座っていて、絶交の時からこんなにもともちゃんの近くにいたのは初めてのことでした。

 謝りたい、絶交だなんてしたくない――私はそう言いたかったのに、ともちゃんの態度はそっけなく、私の中に芽生えようとした勇気はしなしなとしょげていくようでした。

 そんな時、私の背中を押す温かい感触があったのです。

 私の後ろは壁で背後には誰もいません。

 押されるはずのない手に押されて私は頭を下げるように前のめりになりました。

 何が起こったのかはわかりませんが、誰かが私を応援してくれているようで、私はその勢いのまま「ごめんなさい、ともちゃん」と言いました。

 ともちゃんが少し驚いたような顔をして、その後に震える声で「いいよ」と言ってくれたのを今でも覚えています。

 私だってともちゃんが許してくれたのが嬉しくて泣いていました。

 それが私の守護霊が初めて背中を押してくれた瞬間でした。


 喧嘩した時に謝ったり、好きな相手に告白したり、受験する高校のランクを一つだけ上げてみたり、それから何度も誰かに背中を押されるような感触があって、私には守護霊が憑いているんだなと実感するようになりました。


 もしかして……背中を押してくれるって聞いて、嫌な予感がしました?

 実は私も同じことを思ったことがあるんですよ。


 高校の頃、ひどいイジメにあっていました。

 イジメの切っ掛けはわかりません、もしかしたら私をイジメていた女の彼氏と仲良く話していた程度のことだったのかもしれません。

 ただ、理由を知っていようと知っていまいと関係ないことですよね、イジメなんて災害みたいなものですから。

 教科書を隠されたり、机に落書きされたり、聞こえるように陰口を叩かれたり、クラスから無視されるようになったり、一つ一つは些細なことでも積み重なると本当に、心って傷つくんですね。

 私、その時は本当に死にたいと思っていたんです。

 家族に相談する勇気もなくて、何日も学校を休んで、そしてある日一人で自転車を漕いで遠くの駅まで行きました。

 守護霊に背中を押してもらおうと思ったんです。

 電車に轢かれたら確実に死ねると思ったし、自分で死ぬのはイヤだけど……誰かに殺されるなら、それは私の責任じゃなくて、私以外の誰かに死の責任があって、だから家族も死んだ私のことで変に悩まなくていいかなって思えて。

 電車が来るのを待ちながら、私は手を組んで祈りました。


 ――守護霊さん、今まで本当にありがとうございました。どうか私の背中を押してください。


 けれど、背中は押されませんでした。

 ただ、背中に温かいものだけがあって――私を抱きしめるように優しく包んでいました。

 なんだかわからなくなって、私はその場に崩れ落ちてわんわん泣きました。

 その後、家に帰って家族に全部話して、私は転校することになりました。

 やっぱり、守護霊は私の背中を押してくれたんですね。


 今でも、守護霊は私の背中を押してくれます。

 姿も見えないし、声も聞こえないけれど、温かい感触で背中にいることを教えてくれるんです。





 あ、そうだ。

 私をイジメてた人、全員死んだんですよ。

 赤信号の横断歩道や、電車が来る直前のホーム、高層ビルの屋上。

 そんなところで……誰かに背中を押されたみたいに。


 さぁ……守護霊は私の背中を押すだけですから。

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