第7話 外惑星合同体特設航宙母艦

「あいつらやりやがった!!!」


 「ハイパーボール2049」試合終了の数時間後、片耳のレシーバーで、激闘の実況を聞いていた航宙士こうちゅしが思わずさけんだ。


 時差のある地球圏からのレーザー放送をこっそり聞きながら、闘いの趨勢すうせいに手に汗をにぎっていたのだ。


 外惑星宙域で試験航行中の特設航宙母艦とくせつこうちゅうぼかん艦橋ブリッジは、大型航空機程度の広さしかなく、艦橋ブリッジといっても操縦席コックピットといった風情ふぜいである(小型の航宙戦闘機アストロファイターに比べれば、それでも十分居住性はよいのだが)。


 ただし、元は外惑星圏からのエネルギー資源を運ぶのが目的で造られた航宙こうちゅうタンカーであった特設宙母とくせつちゅうぼには、海洋船や航空機と違って見張り窓やキャノピーはなく、わりに大型情報統合ディスプレイが前面に配置されている。


艦長キャプテン、失礼いたしましたっ!』


 試験航行中のため、戦闘用宇宙服バトルアストロスーツのヘルメットを装着し、ヘルメットバイザーも密閉した状態で送受信機の送信ボタンもオフにしていた。


 しかし、艦橋ブリッジ内は1気圧を保っていたため、大声が隣席の艦長に聞こえてしまったらしい。


 航宙士こうちゅうしは、怪訝けげんそうに航宙士こうちゅうしのほうへ顔を向けた艦長の表情を見て、咄嗟とっさに送受信機をオンにした。


 そして、条件反射で直立不動の姿勢を取ろうとしたものの、身体を固定しているハーネスが彼をシートに引き戻したので、着席のまま背筋を伸ばし、艦長にびていた。


『勝ったのかね?』


 隣席に座乗するマウントブック艦長が、航宙士こうちゅうしうた。


『は! 閣下。


 宿敵BEイーグルスに先制を許し、第4Qクォーター、10点ビハインドで絶望かと思われた我がSTタイタンズではありましたが、冷静なるQBクォーターバックジョー・ブレイザーのリーダーシップと試合運びドライブで、10点差を追いつき、逆転勝利を収めました。


 ハイパーボールで第4Qクォーター、10点ビハインドのチームが勝利したことはいまだかつてなく、これは歴史的快挙であります!!』


 艦長が航宙士こうちゅうしに向けて右拳みぎこぶしを上げたので、航宙士こうちゅうし右拳みぎこぶしを上げて艦長のそれに合わせた。


 マウントブックは、外惑星合同体の要人のなかでも特にさばけた人物だといわれていた。


『ふ、いただきだな……』


『いまなんと?』


『いや、こちらの話だ』


 艦長の口元が、ほころんでいるのがバイザー越しに見えた。


 そのとき航宙士こうちゅうしは、艦長が地球圏連合軍に出向していた際、あちらの宙軍士官ちゅうぐんしかん相手に事あるごとに賭けては賭けて、勝ちまくったという伝説を思い出した。


 それは宙軍関係者ならばどこかで聞いたことがある、発足ほっそくして間もない連合宙軍におもむいて、宇宙艦隊用兵の専門家を志した、マウントブック艦長が若かりし頃のエピソードだった。


 この「ハイパーボール2049」でマウントブックはそれなりに大きな賭けをしていたのだが、その後、さらに大きな賭けをすることになることを彼はまだ知らない。


 未来に行われることになるその賭けは、外惑星合同体の存続を賭けるほど大きなものとなるのだが、それはまた別の物語ストーリーである。

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銀河系最大のスポーツの祭典「ハイパーボール2049」開幕! SKeLeton @SKeLeton

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