第6話 第4クォーター

「第3Qクォーター、衝撃のインターセプトから、またしてもラン攻撃オフェンスで追加点をあげたBEイーグルス


 第4Qクォーターは、24-14でBEイーグルスリードのままむかえています。


 統合情報表示板インテグレーテッドインフォメーションディスプレイ、IIDには、


“第4Qクォーターで10点差以上あった場合、それを逆転したチームは『ハイパーボウル』はじまって以来、1チームもない。”


という情報データが表示されています。


 これは……10点ビハインドSTタイタンズ、過去のデータではほぼ絶望的という状況になってしまいましたが……」


「残すところ1Qクォーター、時間が残り少ないとはいえ、レギュラーシーズンのブレイザーのパフォーマンスならあと10点、いけないことはないといいたいところですが……今日のブレイザーは……どうでしょう。


 BEイーグルスディフェンスのデキから考えても、非常に難しい攻撃オフェンスになるといわざるを得ません」


BEイーグルスファンは喜びの瞬間を待ちわびる、STタイタンズファンにとっては奇跡ミラクルを信じるしかない最後のQクォーターになりました。


 でも、エイクマンさん、第4Qクォーターになって、心なしかSTタイタンズのオフェンスラインのプロテクションが安定してきたように見えませんか?」


BEイーグルスのディフェンスにやられるシーンが減っていますね。


 おそらく、第4Qクォーターに入ったことで、怪我けがのリスクをおって限界リミッターぎりぎりの安全マージンのないプレイをしているんでしょう。


 プロテクションさえ持てば、ブレイザーの武器パスきてきますよ。


 ただ、やり過ぎて故障者だらけになると、交代要員がいなくなってしまいますから、STタイタンズ防御陣ディフェンスは加減が難しいところですね」


「期待したいところですね。


 ここでパス成功コンプリート、ロングゲインです。


 やはり、ブレイザーを自由にさせると恐いですね。


 次のパスも通りました。


 STタイタンズ、なんなく得点しました。いままで苦しんでいたのが嘘のようですね。


 ブレイザー、息を吹き返しました。


 BEイーグルスは、なんとしてもブレイザーこの人を止めなければなりません。


 STタイタンズの追加点で24-21となったところで、STタイタンズ防御陣ディフェンスチーム奮闘ふんとうに勝負をゆだねます」


「時間がありませんよ。STタイタンズはなんとしても、このBEイーグルスの攻撃を止めなければなりません。


 BEイーグルスとしてはここで追加点をあげて、STタイタンズにトドメをさすことで(『ハイパーボール』)指輪リングに王手をかけたいところでしょう」


BEイーグルスは、ここでもボールを持って走る攻撃ラン主体ですね」


堅実けんじつな攻めですが、単調ともいえます。


 第2Qクォーターでも、似たようなシーンがあった気がするのですが……」


「あーっと、エイクマンさんの懸念けねん的中てきちゅうしてしまいました。


 BEイーグルス攻撃陣オフェンス、攻めきれず!


 ここで攻守が入れ替わり、STタイタンズの攻撃になります。


 STタイタンズ防御陣ディフェンス、ここはよく護りました」


「うーん。どうも今日のBEイーグルスは、ここぞで淡白な攻めになってしまうきらいがありますからね……」


「たしかに、要所で決めているSTタイタンズと対照的ではあるかもしれません」


『お前たちの能力ちからはこんなものか!?


 こんなもんじゃないだろ!?


 レギュラーシーズンの闘いを思い出せ!!


 俺たちが王者だ!!


 こんな情けない姿を、凍えるタイタンから送り出してくれた人たちに見せたままでいいのか!?


 いいわけないだろ!?


 お前たちは、応援してくれている(外惑星圏の)人たちに“負けました”と報告するために月まで来たのか!?


 そうじゃないはずだ!!


 俺は死んでもそんな報告はしないぞ!!


 お前たちもそうだろ!?


 応援してくれるすべての人たちのため、家族ファミリーのため、外惑星合同体すべての人たちのために闘うんだ!!


 俺たちSTタイタンズならできる!!


 俺はお前たちの能力ちからを知っているぞ!!


 自分の能力ちからを信じろ!!


 リミッターを外せ!


 いまこそ、そのときだ!!


 巨神どもタイタンズいくぞ!!!』


「闘志満々のブレイザー、攻撃陣オフェンスチームの面々にげきを飛ばしました。


 これは、STタイタンズ攻撃陣オフェンスチームは気合いが入ります。


 BEイーグルス防御陣ディフェンスチームもふんばりどころです。


 ただ、リードしているBEイーグルスQBクォーターバックライアンのほうが落ち着かない表情をしているように見えます。


 まるで、闘志あふれるSTタイタンズのブレイザーのほうがリードしているチームのQBクォーターバックのようです


 こういうところは、若手QBクォーターバックとベテランQBクォーターバックの経験の差なんでしょうか?」


「もちろん、経験値が多いか少ないかの影響あると思います。


 ただ、私も現役時代に何度かあるんですが、先制して追われる展開で点差が縮まってくると、まだ逆転されたわけでもないのにすごいプレッシャーがかかるんですよ。


 負けていて追いつかなければならないときよりも、ある意味、追われるのはもっと嫌なものなんです……流れが相手にあると感じられるときは、特に」


「エイクマンさん、実体験からの貴重なコメントありがとうございます。


 スタジアムは興奮のるつぼです!」


「先ほどまで、元気がなかったSTタイタンズファンがわいていますね(笑)」


「おっと、お気づきでしょうか、先ほどのBEイーグルスが連続ラン攻撃オフェンスだったのに対して、STタイタンズは連続パス攻撃オフェンスです」


「これはもう、ブレイザーの意地でしょうね(笑)」


「でも、STタイタンズのオフェンスラインはよくブレイザーをまもっています。


 まるで、生まれ変わったかのようです」


「パス攻撃オフェンスはインターセプトの危険はありますが、ラン攻撃オフェンスに比べてここ一発の長距離前進ロングゲインが狙えますし、決まりだすと強力ですよ」


「そこにきてSTタイタンズQBクォーターバックはパスの名手エキスパート、ジョー・ブレイザーです。


 パス成功コンプリート、敵陣をどんどん進んでゆきます。


 STタイタンズは、もし、この攻撃で得点することができれば、第4Qクォーター10点差からの逆転となり、『ハイパーボール』史上初の快挙となります。


 会場のボルテージは最高潮といっても過言ではないでしょう!」


「先ほどまで精彩を欠いていたブレイザー、レギュラーシーズンの輝きを取り戻しましたね」


「決まったーーーー!


 ブレイザー、なんなく得点タッチダウンパスを決めたーーーーー!!


 第4QクォーターSTタイタンズ奇跡的大逆転ミラクルです!!!


 いま私は、みなさんと共に歴史的瞬間をの当たりにしています!!!


 私は、いまこのスタジアムにいられたことを感謝したいと思います!!!


 ……す、すみません。興奮してしまいました。エイクマンさんいかがですか?」


「ゲームが開始されるまで、誰がこの展開を予想できたでしょうか?


 正直、私は後半戦に入ってから、STタイタンズは『今年はダメだ』と思ってしまいました。


 そのことをSTタイタンズファン、STタイタンズの選手とそのご家族ファミリーSTタイタンズ関係者のすべてにお詫びしたいと思います。


 ただ、時計が0になるまでゲームはわかりません。


 インターセプトも多いゲームだということを忘れてはなりませんよ」


「さあ、先ほどのブレイザーの闘志あふれる表情と対象的に、茫然自失ぼいうぜんじしつともとれる凍りついたかのようなQBクォータバックライアンの表情が気になります。


 注目のBEイーグルスの攻撃は、パスからです。


 パス成功コンプリート、幸先のよいスタートといえるのではないでしょうか。


 その次の攻撃オフェンスは……ここでまたパスですが……失敗インコンプリートです。


 次の攻撃オフェンスは……ラン!


 おっと、ディフェンス陣の間をするするっと抜けてビッグゲインです。


 やはり、頼れるRBランニングバックですね」


BEイーグルスは、このパスとランのバランスの取れた攻撃が、もっと早くから欲しかったですね」


「ここでまたパス攻撃オフェンス……は落としたか? いや、成功コンプリートです!!」


「いまのプレイ、片手ではたき落としたボールが相手ディフェンスに当たっていますが、レシーバーはその跳ね返えったボウルをさらにまた片手キャッチしていますね。


 ディフェンスをかいくぐった無理な姿勢からのミラクルキャッチ、やはり『ハイパーボール』出場チームともなると、こういう“持っている”選手がいるものなんです。


 この土壇場どたんばでこういうプレイができるというのは、さすがとしかいいようがありません」


「さあ、STタイタンズのゴールライン目前に迫ったBEイーグルス、しかし、残り時間は1分ちょっとしかありません。


 次の攻撃、BEイーグルスは絶対成功させなければなりません。


 エイクマンさんならどう攻めますか?」


「これはもう、ランしかないでしょう。


 『安全策か』とか『読まれてしまうだろう』といわれてしまうかもしれません……でも、レギュラーシーズンのこと、今日のゲーム運び、いろいろ考えたうえで、私がBEイーグルス監督ヘッドコーチならRBランニングバックにすべてまかせたいと思いますね。


 それで、もしダメなら仕方がないというものです。


 それだけのパフォーマンスで、今日、BE《イーグルス》のRBランニングバックは我々をせてくれましたよ。


 それに私がもし、STタイタンズのディフェンスラインにいたとしたら、いまBEイーグルスにランで来られるのがいちばん嫌です(笑)」


「確かに、スタジアムのBEイーグルスファンもRBランニングバックのステップに期待するところ大でしょう。


 そして、スナップされたボールを受け取ったライアンは……おっと、パスだ!


 ライアンからのパスは、あーっと取れない、いや、これは……どうでしょう」


「インターセプトですね……」


「なんということだ。ここでまさかのパス攻撃オフェンス、そしてまさかのインターセプトです!!」


「うーん。STタイタンズの裏をかいたということだったんでしょうが……うーん。


 好調だったRBランニングバックが走り込めば逆転できただけに、ちょっと疑問の残るBEイーグルス采配さいはいですね。


 パス攻撃オフェンスを選択した結果が、最悪の事態、インターセプトだったというのは不運としかいいようがありませんが……」


「残り時間は、あと数秒、STタイタンズ、あとは時間を流すだけとなりました。


 ここでスナップされたボールを受け取ったブレイザー、フィールドに膝をついてニーダウン、時間を流します。


 ゲ~ム終了~!!


 STタイタンズBEイーグルスを下して、見事『ハイパーボール2049』の覇者はしゃとなりました!!


 第4Qクォーター、絶望的点差からの歴史的大逆転劇という、ドラマティックな展開のゲームとなりましたが、エイクマンさん感想をお願いします」


「いや、映画のようなとかそういった言葉がありますが、おっしゃる通り、まさにそういったドラマティックな展開のゲームでした。


 私の語彙ごいでは陳腐ちんぷな言い方になってしまいますが、私も常々、大学カレッジの選手たちにアドバイスを求められたりすると『試合終了のホイッスルが鳴るまで、絶対にあきらめるめるな』とよくいいます。


 でも、今日のゲームをて、そのときの私はその言葉をどれだけ真剣にいっていたのかと再考させられました。


 信念のともなわない、口だけの言葉ポーズではなかったのか、と。


 このゲームのSTタイタンズの闘いぶり、終始しゅうしにわたって闘志あふれるQBクォーターバックブレイザーのふるまいとリーダーシップ……いちチームの勝利というだけでなく、私たち観戦したすべての人に勇気をくれるプレイでせてくれました」


「エイクマンさん、ありがとうございます。


 エイクマンさんの言葉で、私もいろいろと考えさせられました。


 私もGFLの素晴らしさをスポーツというわくを越えて、これからも伝道しつたえてゆきたいと思います。


 エイクマンさん、本日は長い時間、お付き合いありがとうございました」


「ありがとうございました」


「それでは、今日このスタジアムで闘った、両チームの選手に感謝しつつ、ここ月面の静かな海スタジアムからお別れしたいと思います。みなさんさようなら」

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