アイドルは凄いよ

霜花 桔梗

第1話

 この学園には女子三人組のアイドルグループ『シズク』がある。このアイドルグループは部活として公式に学園に認めた、凄い人達なのだ。


 それでわたしは目立たない下流女子である。頭も悪く、予習復習をしないと授業についていけない。今日も図書室で勉強だ。


「あら、醜い顔、この学園には相応しくなくてよ」


 何やらもめている。


 『シズク』のリーダー『園芸路 櫻子』さんが一年の男子を罵倒している。


「僕、だって好きでこの顔じゃないぶー」

「まあ、美しく無いのは罪であってよ」

「ぶー」


 関わるのはよそう『園芸路 櫻子』さんに目を付けられたら終わりだ。世の中は平等、平等、言うが、現実は違う。選ばれた人種だけが支配できるのだ。


 騒ぎと遠目に見ていると。罵倒されていた。一年の男子がシャーペンを取り出す。


「危ない!」


 わたしは大声を出して櫻子さんに伝える。そう、櫻子さんを刺すつもりだ。

すると、髪の長い女子がシャーペンを持つ手を蹴り上げる。吹っ飛んだ男子は泣きながら逃げ去る。


「櫻子、いい加減にしろ」


 それは『シズク』のメンバー『佐々木 愛姫』であった。


「愛姫、余計なことを、わたしだって護身術くらいできてよ」


 刺されかけたのに全然動揺していない。それはオーラが違うのであった。

「うん?」


 愛姫さんと目が合う。


「可憐だ……」


 何を言い出すのだ。わたしを見て可憐だとか……。


「そこの女子、わたし達のグループ『シズク』に入らないか?」

「はぎ?」


 なにやら、口とは別の場所から声が出た。この下流女子にアイドルをヤレと言うのだ。


「ダメ、ダメ、アイドルは簡単でなくてよ」

『シズク』の三人目の『番条 あやね』が現れる。

「付き人から始めなさい」


 それから、わたしは『シズク』の部室に連れて行かれるのであった。


 わたしはアイドルグループ『シズク』の部室こと、控室に案内されていた。中央に愛姫さん、右に櫻子さん、左にあやねさんとパイプ椅子に座っている。


「今日から愛姫の付き人よ」


 あやねさんが静かに語る。わたしを付き人とは実に一方的な展開である。


「仕事は簡単、この学園から駅まで荷物を持つだけよ」


 は?わたしは自転車通学なのに任務の為に自転車を押して一緒に歩けと言うのだ。しかし、拒否権はなかった。


「では早速、帰りましょう」


 わたしはブーブー言いながら。学園から表通りに入ると。フラフラと右に左に揺れるダンプカーが突っ込んで来る。運転手が意思を失っている。


 それは一瞬であった。


 愛姫さんがダンプカーにひかれてしまう。人間ってこんなに簡単に死ぬのか……。妙に冷静なわたしは血で染まる辺りに立ち尽くしていた。


 それから数日後。わたしはシズクの部室に呼び出されていた。


「結論から言うわ、シズクの新メンバーになってもらう」


 櫻子さんが死んでしまった愛姫さんの代わりにアイドルになる事を宣告する。


 うわー、マジで!


 あやねさんも深刻な顔で見ている。マジらしい。


「初ライブは一週間後、愛姫の追悼ライブよ」


 それは特訓の始まりであった。


 今日はライブのリハーサルだ。わたしは一階の多目的フロワーに来ていた。ここはダンスの授業などに使われる部屋だ。そう、ここで愛姫さんの追悼ライブが行われるのだ。アイドルグループ『シズク』はあくまでも、学内アイドルである。生徒会の下部組織で悪く言えば生徒会による支配の道具である。

何故、学内アイドルがここまで力を持つのは生徒会に所属すると強力な推薦が得られるのだ。権力がアイドルを利用する、嫌な構図である。


 本題に戻すと追悼ライブである。本来なら裏方のわたしが主役である。毎日が歌い込みと振付けの特訓であった。


「あら、華のライブだと言うのに、衣装が地道でなくて?」


 櫻子さんが衣装担当の演劇部の部員に文句を言っている。


「追悼ライブだと聞いて……」

「アイドルは死んでもアイドルなの。追悼ライブも同じライブ、全力で輝けるかが大切よ」


 そう言うとリハーサルの続きが始まる。


「しかし、困ったわね、センターの愛姫が居なくなるとここまで質が落ちるとは」


「……」


 櫻子さんも愛姫さんの存在感に黙り込む。二人は絶対仲が悪かったはずなのに……。大体、新しいセンターをくじ引きで決めている時点で混乱を感じる。

その結果は櫻子さんがセンターを努めることになった。


「ダメね……部室でアロマをして来るわ」


 櫻子さんはリハーサルを抜け出してしまった。しかし、誰も攻めようとはしない。アイドルが輝く為には色々と苦労が絶えない事を知っているからだ。


 そして、リハーサルの都合上に必要なのかわたしがセンターの配置であった。これがアイドルの中のアイドル……。


 それは誰よりも輝く瞬間であった。


 追悼ライブ前日の事である。わたしは部室の中で簡単な振付けの練習をしていた。すると、櫻子さんがずぶ濡れで部室に入ってきた。


「櫻子さん、どうしたのです?」

「あぁ、これか……トイレに入っていたら、上からザブンだ」


 これは酷いイジメだ、先生に言わなければ。


「まて、まて、この程度のことは普通だ。それに今の時代はイジメ事案が発生しただけで担任は査定が下る。まったく、優等生は大変だよ」


 最近も図書室でトラブルを起したばかりだ。シャーペンで刺されかけている。


 確かに櫻子さんは毒舌だしな。櫻子さんはジャージに着替えるとコーヒーを一杯飲む。


「あーすっかり冷えてしまった」


 今日はやけに人間臭い櫻子さんはしょげていた。


 そんな櫻子さんを見て、わたしは運命石の伝説を連想していた。


 自分の命と引換えに輝く光になる事だ。その光は人々から称えられてアイドルの名前が刻み込まれていた、それは『シズク』全体を嫌っている生徒も多いのも等価交換で例えられた。


 追悼ライブ当日、わたしは夢を見た。櫻子さんまでも失う夢だ。具体的には駅で特急列車にはねられるのであった。


 運命との運命との交換……。


 もしかしたら、愛姫さんも自らの命と引き換えに輝いていたのかもしれない。


 そんな事を考えていると、ライブの時間になる。輝くペンライトにフロアー全体に居る人の群れ。センターの櫻子さんの合図と共にライブがスタートする。わたしは全力で歌った、踊った、輝いた。そして、MCの時間に新メンバーとして紹介された。


 その後もライブが続きラストの曲の時である。櫻子さんが天を見上げて迷っている様子である。運命石の等価交換だと直感で感じた。


「ダメ!」


 わたしは櫻子さんに抱きついて止めた。一瞬の会場のどよめきが起きた。あやねさんがフォローに入り。落ち着く会場に、わたし達も異世界から戻ってくる。


 そして、三人の「ありがとう」でライブは終わり照明が消える。それから、どうやって部室に帰ったか覚えていない。


 わたしはさっきまでの声援が耳に残り、アイドルとしてデビューできたのだと確信した。


 気がつくと櫻子さんが小さな石を握っている。


……運命石……。


「櫻子さん、その石は?」

「あぁ、これか、愛姫が持っていた物だ。これはわたしには似合わない。捨てる事にしよう」


 そう言うと櫻子さんは部室の窓から投げ捨てる。


「おっと、今日の主役はデビューライブのお前だ」


 そんな事ない、愛姫さんの追悼ライブだもの。わたしは一歩下がると皆は関心する。


「そうだな、この世界で一番、輝いているのに、それを誉めても仕方がない」


 それから、回転寿司で打ち上げを行い。


 夜になる。


 わたしは自宅で夜空を見上げて運命石について考える。それは願いであった、わたしは運命石など無くても誰よりも輝けるアイドルになる。


 これはアイドルの道を目指した少女の物語の始まりであった。

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