第86話 ゴーレムと金の畑

 極上のスープによるディナーの後、シルフィアはツリーハウスに帰っていった。

 教会でマホロと一緒に眠れれば良かったのだが、残念ながらベッドが不足していた。


 ベッドの骨組みなら俺がいくらでも作れるが、クッション性のある柔らかなマットはどうしようもない。

 金属製のスプリングを仕込むにしても、それをおおう布がいる。

 俺にはどうにも出来ない植物由来の産物をどうするか……それが一番の問題だな。


「じゃあ、私たちはシルフィアさんの家にお泊りしますので!」


「ニャー!」


 教会にはベッドがない……それならばと言わんばかりに、マホロとノルンはツリーハウスの方で寝ることにしたようだ。

 ツリーハウスにはシルフィアが時間をかけてった布地と、ジャングルに群生ぐんせいしているワタから取れたコットンを組み合わせた大きなベッドがあるらしい。


 シルフィアはジャングルで過ごす時間が長かったからか、その間にいろんな物を作り上げて来た。

 ヘルガさんの革製品といい、俺の手の届かない分野に精通する人がいてくれてありがたいな。


「俺もいざという時のため、スプリングマットレスに入れるコイルの作り方を学んでおかないとな」


 瓦礫の海の中には朽ちたベッドも眠っているだろう。

 この世界がスプリングベッドを発明済みかはわからないが、時間があったら瓦礫の中からベッドを探してこの世界のベッドレベルを調べよう。


「今晩は教会にガンジョー様と二人っきりですね」


「そうなりましたね、メルフィさん。マホロたちは隣の家に行ってるだけなのに、何だか寂しい気分です」


「私も寂しいです……。あの、私って一人だと眠れないタイプなので、今日は夜のうちにお仕事を進めず教会にいてくださいね……」


 メルフィさんが少し恥じらいながらそう言った。


「わかりました。今晩は俺も教会でゆっくりします。あ、でも……夜中に何度かマホロたちの様子を見に行きたい気もするんですよね」


「そ、それはそうですね……! ツリーハウスにはカギもありませんから、この街が平和とはいえ様子を見に行く必要はあります……! あの、ですので……」


「はい! 出来る限りサッと見回りして教会に帰って来ます」


「ありがとうございます、ガンジョー様……!」


 メルフィさんは立場的にしっかりしないといけないと思って、いつもしっかりしている。

 特に主人であるマホロの前ではね。


 だから、マホロと少し離れると彼女の素の一面が見られる気がする。

 それが寂しがり屋で怖がりなところなんだろうな。


 ということで、今晩はマホロたちの見回り以外の仕事をせず、ゆったりと夜の時間を過ごした。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝――教会の鉄の門がコンコンコンと叩かれた。


 マホロがいないので今日はちょっと寝坊しているメルフィさんを起こさないよう、素早く俺が訪問者に対応する。


「おはようございます。何かありましたか?」


 来訪者は見慣れたラブルピアの住人たち。

 特に防壁の外の畑仕事を手伝ってくれている人たちだ。


「ガ、ガンジョー様……! 畑が……!」


「まさか、夜のうちに魔獣に荒らされて……!」


 くぅ……! あまり魔獣は作物に興味を示さないというか、そういうのが食べたいならジャングルでいいからこっちを狙わないと思っていた。

 しかし、畑の作物に手を出されたとなると、いよいよ第二防壁を作って畑も守らないと……。


「違うんです! むしろ逆で……植えてた麦が育ちまくってるんですっ!」


「……あっ!」


 昨日、波長の異なる二つの魔宝石を接続リンクさせたことによって魔力波ウェーブが起こった。

 それは教会の裏庭の植物を急成長させていたけど、その影響は防壁外の畑にも及んだわけだ。


 いや、そもそも昨日ガイアさんが「防壁外の畑にも命の魔力を集中させる」みたいなことを言ってた気がするな……。

 それならば、畑の作物が育ちまくっているのが自然か!


「とりあえず、見に行きます!」


 わざわざ俺に報告しに来てくれた人たちと畑に向かうと、そこに広がっていたのは……。


「黄金の絨毯じゅうたんだ……!」


 畑一面に麦が実っていた!

 どれも収穫時期に見えるほど成長している。


 元いた世界の外国の大規模栽培と言えるほどの面積はないが、それでも街の人たちと力を合わせて広げて来た畑だ。

 それが一面金色で満たされているというのは、なかなかに感動させられる!


「どうしてこんなことになったんでしょう……!?」


 ただ、事情をまったく知らない街の人々は、感動よりも先に不安が来ているようだ。

 俺は謝罪しつつこと経緯けいいをみんなに話した。


「ははっ、やっぱりガンジョー様の仕業か~!」

「そうだとは思ってたけど、ビックリしちゃったわね!」

「ちゃんと食べられる物が実ったみたいで良かったぜ!」


 みんなは笑って許してくれた。

 しかし、今度からはしっかり情報共有しておかないとな。


「すいません。昨日のうちに報告するべきでした」


「いいってことよ!」

「あのシルフィアちゃんって子をおもてなししてたんだろう?」

「ハハハ、そんな重大任務があったんじゃ仕方ねぇ!」


 本当に気前良く許してくれるので、俺も話題を切り替える。

 それはもちろん、この実った麦をどう使うかだ。

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ゴーレム転生 瓦礫の中から始めるスローライフ 草乃葉オウル@2作品書籍化 @KusanohaOru

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