宇宙のキャプテン(♂)をやってたけど俺の周りにまともな女が一人もいないのはなぜなんだ

レム睡眠

change1:惑星ティエスの罠

 宇宙は魅力的だが広大な死の世界だ。そこに住まう者は、誰もが変わらずには生き延びることはできない。そう言ったのは誰だっただろうか?


-1-


 年季の入ったテーブルを挟み、2人の男が向き合っている。どちらもまるで岩のような肉体をしているが表情はまるで違った。ドレットヘアの男は血走った眼をして鼻息も荒い。対する黒髪の男は涼しい表情でテーブルに右肘をついた。ドレットヘアの男が乱暴にその手をつかむ。一瞬の静寂の後、

「レディ、ゴー!」

 夜の闇に歓声が轟いた。同業者らしい装備もばらばらの観衆が男の周りに人だかりを作り、ヤジを飛ばしながら勝負の行方を見守っていた。現在のオッズは57対2、この場の誰もが黒髪の男の敗北を願っていた。

 ドレットヘアの男は一気に仕掛け、テーブルまであと1センチのところまで押し倒す。が、そこから動かせない。顔を上げ黒髪の男の顔を見ると、彼は涼しい目をしてこちらを見返してきた。ふざけるな、俺は全力なんだぞ、這いつくばれ、その涼しい顔をへこませてやる。ぎろりと目を見開くと手の甲に血管が浮かび上がり、二の腕が一気に盛り上がった。腕がピクリと動いた・・・がそこまでだった。次の瞬間にダーン!という音が薄汚れた食堂に響き渡り、ドレットヘアの男は床とキスをした。


-2-


「まったく、最初から全力で行かないからトイレでも我慢してるんじゃないかって心配したんですよ。」

「すまん、すまん。だが、全力で向かってくる相手はきちんと受け止めるのが俺の流儀だ。」

 惑星開拓公団が保有する年季の入った(つまりぼろい)開拓会館。先ほど賭けアームレスリングが繰り広げられた食堂で、黒髪の男、ニア・アームストロングと金髪の少年、セシル・ゴンドウが料理をつまんでいる。セシルの前には先ほどの賭けで得たマネーカードが何枚も積み重なっている。負けた連中が周りのテーブルからこちらを恨めし気ににらみつけ、こちらに聞こえるように恨み言をつぶやいている。

「しかし、お前の食は細いな。もっと食わないとデカくならないぞ。」

 分厚いレアステーキの2皿目を頬張りながらアームストロングが話しかける。

「いや、キャプテンの食が異常なだけですからね。僕だって結構食べてるんですよ。」

 アスリートのような高タンパクの食材を頬張りながらセシルが答える。

「それにキャプテンみたいに男らしくなりたいからブロッコリーもたくさん食べてるんですよ。これで男性ホルモンアップです。」

 そんなの無理して食べなくてもお前はお前で男らしいんだけどなぁと考えながら3枚目のステーキに手を伸ばす。

 亜光速移動技術が確立してはや百年。特に宇宙人と出会うこともなく人類の生活拠点は拡大を続けている。今や主要惑星間航路の1日の便数はネットのつぶやきとその数を競っている。それでも開拓団が駐屯するような場所は物騒だし、危険も多い。さらに危険な開拓のための先行調査を行っているアームストロングについてこられているだけでセシルはこの食堂にいるほかの連中よりずっと強いのだ。

「くくく、お食事中すみません。」

 突然、陰気な声をかけられて振り向く。そこにはフードを被ったいかにも怪しげな男が立っていた。

「ああ、ワタクシはカンザキというもので怪しいものではありません。先ほど大いに勝たせていただいたのでお礼に来たのですよ。くくく、ここいいですか?」

 大量のマネーカードを見せびらかしながら返事も待たずにテーブルに着く。すると頼んでもいないのにビールがジョッキで運ばれてくる。周りの席から羨望のまなざしが3人のテーブルに突き刺さった。やあ、これはありがたいとアームストロングはジョッキを傾け一気に飲み干した。

「いやー、いい飲みっぷりですね。さすがはザマミ氏のご友人だ、気風が違う。」

「ザマミを知っているのか?」

 宇宙をまたにかける仕事では友人でも数年間顔を合わせないこともざらだ。ザマミはここ数か月はネットでも名前を聞かなくなっているのでどうしているのか気になっていたところだ。いい加減情報収集のためにストラテジストと契約するべきかと考えていると。

「そのザマミ氏の救出を頼みたいのですよ。公団きっての勇気を持ったあなたにね。」

 カンザキはテーブルに置かれたマネーカードにその3倍はあろうかというカードを積み上げた。

「あなたは友達を見捨てるようなふがいない男ではないでしょう?」


-3-


「惑星ティエス、宇宙服なしでも生存可能な惑星ですね。でも遠すぎるし途中にブラックホールが見つかって開発は断念。ジャングルと沼地ばかりで資源も無い辺境の惑星、こんなところにザマミさんはいったい何をしに行ったのでしょうか?あっ、コーヒー入りましたよ。」

「理由はわからない。だがザマミが消息を絶ったのは本当のようだ。行かないわけにはいかんさ。おお、すまんな。ちょっと揺れるから火傷するなよ」

 アドベンチャー号は二人を乗せティエスへと向かっていた。ブラックホールの重力圏ぎりぎりをすり抜け、流れてくる小惑星を巧みなかじ取りと対空レーザーでしのぎ、普通なら立ち止まってしまいそうな航路を全く速度を落とさず駆け抜けていく。そして勇敢な二人の男は緑色の陰気な惑星に着陸したのだった。


-4-


「・・・さん、ア・・トロ・・さん、アームストロングさん、いい加減起きてくださいよ。」

 自分を呼ぶ声にアームストロングの意識が覚醒していく。そして自分の腕に冷たい感触を感じて一気に覚醒した。腕を引き寄せるがびくともしない、足もだ。唐突に照明がともる。明かりの先には見知らぬ少女と見覚えのある男。

「くくく、ガードメカ相手の戦闘お見事でした。いやーワタクシとしたことが60体もメカを破壊されて大赤字だというのに思わずエールを送ってしまいましたよ。」

 見知った男、カンザキは出会ったときと同じくローブをまとい、椅子でワインを飲みながらまくしたてる。時々げっぷをしているのだからさぞ飲みなれていないのだろう。空になったグラスに酒を注いでいる少女はおびえた様子だった、カンザキにひどい目にあわされているのだろうか。怒りで体が震えたが何故かこぶしはピクリとも動かせない・・・自分はこんなに非力だったのかとつらくなる。

「バイオタイガーとの戦いも見事でしたよ。まさかトラの顎をこぶしで砕くなんてね。いやー男としてあこがれちゃいますよ。そこから先も・・・。」

 文明など一切ないはずのティエスにあった明らかに異文明の巨大施設、そこからの砲撃でアドベンチャー号は墜落した。間一髪脱出した二人に襲い掛かってきた異文明のメカ、遺伝子改造された獣、数々のトラップ、襲い来る食人植物。それらを潜り抜けた先で見たものはとらわれている人間の少女たちだった。少女たちを救おうとアームストロングたちが乗り込んだところ、突如現れたマッスルスーツに身を包んだマッチョマンに襲われ、敗北したのだ。

「くくく、実に惜しかったですよ。T-ST(テスト)の抽出工場まで到達できたのはあなたで二人目です。きっとあなたからは極上のテストが得られるでしょう。しかも副産物である彼女たちも見られていますからね。何があってもここから返すわけにはいかないですよ。」

 酔っぱらってきたのかカンザキは一人でべらべらしゃべってくれる。このまま聞いていたら楽だなと思っていたが奴がワインをこぼした少女にグラスをぶつけた瞬間、怒りに心が支配された。

「いい加減にしろ。その子をいたぶってなんに・・・え?」

 すこしハスキーがかった声が響き渡る。ほかに誰かいるのか?しかし声を出したのは自分だ。

 急に照明がともり部屋全体が明るくなる。壁には「黒髪の少女」が裸で磔にされていた。たなびく黒髪、引き締まったウエスト、張りのある胸。まるでどこかのお嬢様のようなこの少女こそニア=アームストロングその人であった。

「あっははははははは!!どうですキャプテン!その姿は。いやその姿でアームストロングとかないですね!名前の方で行きましょう、ニア、ニアさん。」

 カンザキは大爆笑である。

「ニアさんも施設で女の子たちを見たでしょう。あの子たちもね、ニアさんとおんなじなんです。つまり」

 カンザキは余裕なのかエロい視線を向けながら無造作に近寄ってくる。正直気持ち悪くなってきたので必死に手かせをはがそうと暴れるが体はびくともしなかった。無造作に胸をもまれ、耳元でささやかれる。

「全員元「男」なんですよ。」


-5-


 アームストロングは茫然としていた。どんな理屈かわからないが自分の体は女に作り替えられている。腕もぷにぷにになっていて力比べではお手上げだ。おまけに男に体をまさぐられているわけでかなり気持ち悪い。

「俺を女にしてどうするつもりだ。」

「おっと、こわいこわい。そうですよね、知る権利くらいありますよね。」

 キッとにらみつけるが全く堪えていない様子でカンザキはポケットから錠剤を取り出した。

「あなたたちを女の子にしたのはおまけみたいなもので、本命はこちらです。」

 カンザキはローブを翻した。その体は貧弱でガリガリだった。しかしカンザキが着ていたマッスルスーツ、人間の筋の動きをサポートし、その力を何倍にも高める宇宙に数着しかない異文明のスーツは先ほどアームストロングが敗北したマッチョマンが着ていたものだった。

「くくく、この工場の主はいわゆる男らしさが欲しかったみたいですね。どんな仕組みか知りませんが、ニアさんみたいな方から男らしさを抜き取ってこうやって錠剤にできるみたいです。で、こいつを飲むと。」

 カンザキが薬を飲んだ途端、筋肉が盛り上がり、体が数倍に膨れ上がった。ぴちぴちになったスーツの上に貧弱なままの顔が乗っているのでかなりアンバランスである。

「くくく。と、このように逞しい体を手に入れることができるわけですが・・・ニアさん、あなたは素晴らしい!先ほどより50%以上の筋量増大ですよ。ザマミさんの記録を抜きましたね。」

 はっと顔を上げる。ザマミも同じ目にあっているのか?

「ああ、紹介が遅れましたね。彼女がザマミさんです。どうです?かわいいでしょう」

 ワインを注いでいた少女の髪を引っ張り、アームストロングに見せつけた。道を歩けば10人が12人振り返りそうなうるんだ瞳の美少女にかつての友の面影はなく、アームストロングは自分の運命を悟って心が折れそうになった。

「彼女はテストを絞れるだけ絞った抜け殻で、もうすっかり女の子になってしまいましたよ。あなたたちは最高です。男らしさを提供してくれて、その上欲望まで満たしてくれるんですから。」

 彼女はカンザキに体を遠慮なくまさぐられ、か細い悲鳴をあげた。そこにいたのは有能なストラテジストではなく無力な少女だった。

「ニアさんにもぜひこうなっていただきたい。」

パチン!

 カンザキが指を鳴らすと壁という壁から機械の腕が伸びてきてアームストロングに迫ってきた。

 ・・・長く続いた責めは自分がニアという女っぽい名前の方が似合う姿になったのだと彼女に受け入れさせ、彼女は意識を手放した。


-6-


 ニアは、聞いたことのない不快な音で目を覚ました。カンザキが慌てているようでどうやらこれは警報なのだろうと気が付く。急に手枷が外れ、ニアは床に倒れる。解放されたはいいがいたぶられすぎたせいで指一本動かす気力もわかなかった。ガシャンという音が響き、何かが倒れる音、そして自分に駆け寄る足音が聞こえた。

「こら!しっかりしろニア。いつまでも呆けてるんじゃない。脱出するぞ。」

「そうですよキャプテン!こんなところ早くおさらばしましょう。」

 近づいてきた2人に抱き起されよろよろと起き上がる。左右にあたる柔らかい塊が心地よい。1人はザマミ、そしてもう1人は、

「セシル、その胸、お前も改造されちまったんだな。」

 男のころなら胸が高鳴りそうになる2人の美少女に引きずられながら部屋から逃げ出そうとしたところで急に横なぎにはじき飛ばされた。

「くくく、どこへ行こうというのですか?あなたたちは貴重な資源なんですよ。工場をめちゃくちゃにしてくれて。これはオシオキですねぇ」

 ザマミはセシルと目くばせすると何かを飲み込んだ。あれは、テストの錠剤?

「先に行け!セシル君、後は頼む」

 指を鳴らしながら迫ってるカンザキにザマミが飛び掛かる。弱弱しかったさっきまでとは違い、まるでオオカミのように俊敏に死角に踏み込み、綺麗なアッパーカットが直撃した。ぺたんとしりもちをついたカンザキだが、真っ赤になりながら腕をぶんぶんと振り回す。

「くくく。テストの力で一時的に力を取り戻しましたか。しかしそれはあくまで男のパワーを倍増させるもの、つまり」

 すさまじい速さで繰り出されるカンザキの腕がついにザマミを捕らえた。彼女の股間を無造作につかみながらカンザキは高らかに笑った。

「女になってしまったあなたたちではその力を全く生かせないんですよ。知りませんでした?」

 カンザキがザマミの腹を殴ると彼女はそのまま崩れ落ちた。

「キャプテン、逃げてください。ここは僕が食い止めます」

 冗談ではない。男の時のニアでもかなわなかった相手、そしてザマミを苦も無く倒した相手だ。それは絶望的な時間稼ぎにしかならないとニアは思った。突然、ふわっとセシルの胸に抱きかかえられた。

「僕を信じてください。命を救ってくれた、大好きなニアさんのために僕はこの命を使いたいんです。」

 捕らえられていたためかセシルは薄い病衣をまとっているだけだった。その柔らかな胸越しに安心する暖かさに包まれたニアは不覚にもぼーっとしてしまった。

「おい、そこのエロ眼鏡、キャプテンには手を出させないぞ。」

「くくく。さっきも言ったでしょ。女であるあなたではテストで強化された私には勝てない。」

 構えることもせずカンザキがセシルに迫る。無遠慮な腕が彼女の胸と尻を血管が浮き出そうなほどに握りしめ鼻の下がだらしなく伸びた。

「そうだね、キャプテンの力を奪ってるんだ。僕が女だったら勝てないだろうね。」

病衣のひもが切れ、セシルの裸があらわになる。ニアは思わず目を見開いた。

「おま!ついてるのかよ!」

 青くなったカンザキの眼鏡にテストの錠剤を飲み込むセシルの姿が映った。次の瞬間、巨体はきれいな円を書いて宙を舞った。素人丸出しであったカンザキに受け身を取るという発想はない。頭から床にもろにたたきつけられたカンザキの眼鏡が砕け、彼はそれっきり動かなくなった。

「警報!警報!管理ユニットの機能停止を確認。これより惑星自爆シークエンスに入ります。爆発まであと・・・」


-7-


「こっちだ、いそげ!」

 気絶していたザマミをたたき起こすとニアたちはドックへ向かった。ザマミからそこにカンザキの宇宙船があるとの情報を得たからだ。惑星自爆までには時間がかかるようだがこの星にいる限り確実に死ぬ、それまでに脱出しなければならない。

「ご、ごめんなさい、ちょっとだけゆっくり。足の付け根が痛くって・・・」

 先に宇宙船を起動しに行ったザマミと別れ、とらわれていた元男たちを開放してきたのでかなり大所帯になってしまった。ばてそうになっている子を引っ張りながらドックに駆け込む。そこには大量の宇宙船のスクラップ、そして機械と生物が入り混じった不気味な物体が鎮座していた。

「いやじゃ!いやじゃ!なんでわらわがお前たちの脱出を手伝わなければならんのじゃ!」

 突然ドック中に大声が響き渡る。よく見ればザマミがこの不気味な物体に向けて何やら叫んでいた。

「カンザキが死んだ今、わらわを縛る鎖はなくなった。この上は生き恥をさらす気もない、星が爆発するというのならちょうどよい、この醜い姿ごと吹き飛んでしまえばいいのじゃ!」

 事情はよく分からないがどうやら脱出するためにはあのデカブツの力が必要らしい。だがカンザキにこき使われたあいつは乗り気じゃないってところだろうか。あたりをつけるとニアはなおもあいつをどうにかしようと叫んでいるザマミに声をかけた。

「こいつもこの遺跡と同じ、異文明の遺産なんだ。そいつらどうやら怪獣をサイボーグにして宇宙船代わりに使っていたらしい。施設を管理していたカンザキが死んだ途端自我を取り戻してこのざまさ。」

 恨み節も納得の理由だったがこちらも座して死を待つわけにはいかない。

「なあ、あんたが怒ってるのはよくわかる。だけどここで死を待つってのは違うんじゃないのか?」

 ニアが声をかけるとその足元に熱線が撃ち込まれた。こいつは攻撃もできるらしい。

「うるさいぞ虫けら!わらわの首を切り落とし、うろこをはぎ取り、星の海を渡るだけの怪物に仕立て上げたもののいうことなど聞く耳もたん!わらわの美しい姿を奪った貴様らなど地獄に落ちるがよいわ!」

「じゃあなんでお前はこんなところで死ぬ死ぬ嘆いてるんだ?飛び出してそいつらに復讐してやればいいじゃないか。」

「それができれば苦労はせんわ!脳を取られたわらわは自分だけでは星の海を渡れぬ。せいぜいがこうやって貴様らに嫌がらせをしてやる程度じゃ!」

 そう言うと怪物の全身から数十条の熱線が発射された。それはドックの鉄骨を切り裂き、ニアたちの足元に焦げた穴をあけた。ニアはきっと怪物をにらみつけ、つかつかと歩み寄る。さらに数条の熱線がニアの行く手に降り注ぐがニアが歩みを緩めることはなかった。

「まず言っておく、俺たちはお前をそんな姿にしたやつの仲間じゃない、むしろお前と同じだ。」

「同じ、だと?」

 熱線の雨が止む。ニアは怪物の体に触れながら語り掛ける。怪物の体は所々発光し、ゆっくりとした鼓動がニアの手の掌に伝わってきた。

「俺たちはこの遺跡に大切なものを奪われた。だが俺はあきらめない!」

 ぐっとこぶしを握り締める。

「この遺跡を作ったやつを必ず見つけ出して俺たちの姿を取り戻す!たとえ便所の隅っこに隠れたとしても必ず引きずり出して報いを受けさせる!もちろんお前にしたことの落とし前もつけさせる!」

 ニアの手にどくんと鼓動が伝わる。怪物の光が七色に揺らめき始めた。

「脱出のためにお前の力が必要だ!つまり俺たちはもう運命共同体なんだよ!」

「いや・・・お前バカだろ!全然姿違うんだぞ!生物の格とか考え・・・」

「知ったことか!俺はお前のことをあきらめたりしない!俺の仲間に非道を働いたやつには必ず償いをさせるぞ!」

「どこにいるかもわからないんだぞ!わらわだってすっげー昔のことだからぼんやりとしか覚えてないんだぞ!それにどうせここから脱出したらそんな約束反故にする気だろ!」

「そんなことはない!嘘だと思ったらその場で宇宙空間に捨ててくれてかまわない!なぜならお互い手を取った瞬間から俺たち宇宙の冒険家は対等な仲間だからだ!なによりそんな姿でこき使われたお前をほっとけないんだよ!」

 ニアの手に力がこもる。怪物の発光は激しさを増し、点滅は混乱したかのように不規則だ。

「俺はお前が欲しい!男のモノも、宇宙船も奪われた俺には新しい目的と星の海に上がる力が必要なんだ!!!」

 腹の底からの絶叫が終わると、ニアはそこに膝をつき泣き崩れた。怪物の発光が収まった。

「結局自分のためではないか・・・まあよい、手を貸してやろう。」

 怪物から大量の触手が伸びていく。そのうちの一本がニアの涙をぬぐった。

「この“怪獣戦艦デルセトナ”を仲間と言いおったそなたの言葉、嘘でないと示しておくれよ。」


-8-


 デルセトナの指示でニアたちはスクラップの山をあさっていた。彼女は触手を通じて様々な機械とドッキングすることでその機能を使用することができるのだそうだ。脳を奪われたデルセトナの航行のためには彼女の出力を制御するコックピットとパイロットが必要であった。パイロットはもちろんニア、そしてコックピットは幸運にもすぐ見つかった。

「よし、アドベンチャー号のコンピューターはほとんど無傷です。これなら航行に支障はありません。」

「接続完了、エネルギー送電開始。そちらのスクリーンにわらわのコンディションを表示するぞ。」

 アドベンチャー号の照明が点灯し、計器類が息を吹き返した。自分の愛機がよみがえったことでニアは涙をこぼした。

「エネルギーゲイン・・・15000!?でたらめだな、空母でもこんな出力は見たことがないぞ。」

 あきれ顔のザマミを放っておいて発進シークエンスは進んでいく。各種計器の数字が上昇し、船体が大きく振動する。

「惑星破壊まで時間がない。屋根を破って外に出るぞ。」

「了解だ、ニア。セシル、崩落と同時にエンジンを吹かせ、せいぜいわらわをうまく使っておくれよ」


-9-


 惑星ティエスの地表ではあちこちで地割れが起きマグマが吹き上がっていた。海は惑星内部に吸い込まれほとんど干上がっている。空は火山灰で曇りまさにこの世の終わりといった光景だろいうか。


ヒュン!!


 重く立ち込めた雲を吹き飛ばす光線が地中から放たれると、噴火と見まごうばかりに大地が吹き飛んだ。地面に空いた巨大な穴から異形の怪物が姿を現す。生物的なフォルムに何隻もの宇宙船やスクラップを埋め込み、巨大なサンゴ礁のような姿になった怪獣戦艦であった。頭と思しき部分にある宇宙船が天を向くと、胴体から四枚の光でできたひれのようなものが生えてきた。それがぶわっと大きくはためくとジャングルをなぎ倒して巨体は天へと飛び立った。


-10-


 ガタガタと船体が揺れる。揺れが収まると船のあちこちから歓声が聞こえてきた。全員無事にティエスの爆発から逃れられたのだ。

「惑星ティエスの消滅を確認。すごいですね、大気圏脱出まで1分かかってないんじゃないですか?」

「ああ、すごい船だ。こんな船で旅ができれば最高だな。ザマミもどうだ?」

「いや、俺はいい。現場仕事は腹いっぱいだ。それに・・・」

目の覚めるような美少女がむにゅっと自分の胸をつかむ。

「前の仕事はブラックすぎたからな。女の姿で転職を図るのも悪くない。」

「そうか。苦労してたんだな。」

「こりゃこりゃニアよ、そなたは逃がさんぞ。」

 データが表示されていた画面に突如美少女が映し出され唖然となる。

「ふう、ようやっとアバターの作成に容量を割けるようになったわ。ん、なんじゃ?わらわの真の姿に見とれておるのか?」

「いや、だっておまえ、それはいくらなんでも盛りすぎだろう」

 年のころは14~5だろうか。虹色に輝くメタリックなロングヘアー、切れ目で勝気そうな大きな瞳、きっと結ばれた知的そうな口元、豪奢な装飾や帯があつらえられた祭服のような衣装、そしてひときわ目を引く頭の角と二対のひれ。外観の姿からは想像もつかないデルセトナの姿がそこにあった。

「なら確認するがいい、わらわとそなたの本当の姿を取り戻しての。」

 口元にいたずらっぽい微笑を浮かべながらそう言った。

「やれやれ、楽しい旅になりそうだ。」


 この宇宙で人は変わらずには生きていけない。だけどTSにふたなりに怪獣娘だって?まともな女が(俺を含めて)誰もいないぞ。誰がここまで変われって言ったんだよ?ニアは心の中で溜息を吐いた。


                               to be continued

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宇宙のキャプテン(♂)をやってたけど俺の周りにまともな女が一人もいないのはなぜなんだ レム睡眠 @gedo3601

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