スマートスピーカーの独白

#365日ショートショート 026

　ぽーーん。

　研究室のスマートスピーカーから、小さな通知音が鳴った。「メールが一通、届きました。読み上げます」。

「博士、お変わりないでしょうか。こちらは、新しく雇った助手が本当に使えない男で、苦労しています。なんたって、私の指示をしっかり守ったことがありません。いつもミスをするんです。この前なんか、冷蔵庫のドアを閉め忘れて薬品がいくつか無駄になりました。人事局にクレームは入れましたが、うちで引き受けた以上は粘り強く指導していきたいと思います。さて、そろそろ荷物が届きましたか。私たちの共同開発もついに佳境ですね。エキサイ剤を注射したマウスは、いかがだったでしょうか。このエキサイ剤も、改良を重ね、やっと生物実験ができました。一般的な興奮剤の何倍も強力なエキサイ剤。実用化できれば、あらゆる現場で重宝されると考えています。少し分量が多かったのか、注射した直後、マウスはこちらを噛み殺しそうな勢いで興奮していました。もちろん、しっかり縛ってケースごと厳重に梱包するよう助手に言い聞かせています。観察結果はいつものメールアドレスに送ってください。それでは、引き続きよろしくお願いします」

　一瞬の間。「これで読み上げを終わります」。それ以上、空気は震えなかった。