第42話 エピローグ
ガタッゴトッ
「やっぱり揺れるなあ」
俺は馬車の揺れに思わず苦情を言う。
街道が整備されてないこともあるが、馬車自体にクッションがついてから仕方ないのであるが。
「ではご主人様、またラナの体を使って下さい。少しは柔らかいですよ?」
そう言ってラナさんは手を広げて俺を迎え入れる様な姿勢になる。
最近の彼女は以前にもまして俺のことを甘やかそうとするようになった。
・・・まあ全く問題ない。
俺は考えることなく頷こうとする。
・・・が、俺の裾をラナさんとは別の少女の手がつかんだ。
「そ・・・その・・・、私の膝枕なんて・・・どうかな? ラナ姉さんと違って、あんまり柔らかくないかもしれないけど、さ」
そう言って、ラナさんと反対側に座ったその少女は俺のことを上目遣いで見る。
顔を真っ赤にしていて、とても可愛らしい。
「うふふ、クワリンパちゃんも分かってきたわね」
「だって、放っておいたらミキヒコったらラナ姉さんばっかりなんだもん・・・」
彼女たちの会話に俺は回答を保留することにする。
そう、俺の裾を掴んだ少女とは、魔族の将軍だったクワリンパである。
あの戦いの後、俺たちはすぐに馬車に飛び乗り、こうしてエギザリス公爵領を離れ、次の街まで旅をしているというわけである。
「じゃあ、こういう時にどうするかも分かる?」
「はい・・・習いましたから」
そう言って2人の少女は立ち上がると、頬を染めながらも俺の傍に立つ。
そして、ラナさんが俺の後ろに、クワリンパが前に立つと、丸で俺をサンドイッチするように身を寄せ合った。
俺はラナさんに体重を預けるような形になる。
「苦しくない?」
「はい、全然です」
結構彼女は体力というか力がある。魔の森でも敵を倒しこそしないものの、付いては来ていた。
どうやら以前は病気だったから力が発揮できないほど弱っていたということらしい。健康であれば彼女は常人よりもはるかに大きな力を持っているようだ。
もしかしたら普通の人間とは違うのかもしれないな。また機会があれば聞くこともあるだろう。
「ミキヒコ・・・私の方も見てよ・・・」
考え事をしていた俺の耳に、可愛らしい少女の声が届いた。
俺が顔を上げると、クワリンパの綺麗で白い顔が目の前にある。
「考えてるよ」
「うそだ。ぜーったいラナ姉さんのことを考えてた!」
割とクワリンパは嫉妬深い。
そして、信じられないことだが、俺の事が好きらしく、先日の戦闘の後、目を覚ましてすぐにその思いを打ち明けてきた。
ただ、魔族だから自分はきっとフラれると思ってたらしい。ラナさんが一番で良ければ、と答えるととても驚いていた。
どうも、魔族では男が何人彼女を作っても良いらしい。何ともご都合の良い事で。
「今はクワリンパのことを考えてるよ」
「うっ・・・そ、そうなんだ。え、えへへ~」
クワリンパはたちまちだらしない顔になると、その桃色の唇を俺に重ねてくる。
「ん・・・んむ・・・んちゅ・・・。えへへ、お、お昼のキスだよ?」
「さっき、朝のキスをしたばかりの様な・・・」
「あ、そ、そうだっけ? じゃ、じゃあ。これは朝のやつのお口直しのキスね。お昼はまた後でしようね?」
そう言って俺の唇に再び吸い付くのであった。
うーん、魔族というよりサキュバスの方が才能がありそうな。とっても気持ちがいい。
しばらくして満足したのかクワリンパが顔を離した。顔を真っ赤にして幸せそうな表情をしている。
「愛してるミキヒコ。ずっと一緒にいようね?」
「ああ、そうしよう」
「御主人様・・・あの、ラナもずっと一緒にいていいですか?」
俺のすぐ後ろから聞こえてきた声に、俺は慌てて頷く。
「もちろんです。ラナさん、ずっと一緒にいて下さい」
俺がそう言うとラナさんは本当にうれしそうに笑うと、そのままキスをしてきた。
それは何とも愛情のこもった、優しいものであった。
「なんか私のと違う様な・・・」
クワリンパがぶー垂れているが、気にしない。
旅が始まってからだいたいこんな感じなのだから。
・・・さて、そんな感じで俺の旅は続くのであった。
クワリンパいわく、幸いながらなぜか魔王が失踪しているらしく、追手などが掛かる気配はないようだ。むしろ、現在魔王軍はリーダーを欠いたことで大混乱に陥っているとのことで、逆に人間側の反撃が始まっているという。
きっとあの騎士団たちも俺の行方を追っている場合ではないだろう。
やれやれ、次の街ではちゃんと怠惰に過ごせるといいのだがと、思わずにはいられない。
とはいえ、それは怠惰の神様しかしらない。
俺はせいぜい、この女神と悪魔に囲まれて惰眠をむさぼることとしよう。まる。
充電式勇者。サボればサボるほど俺TUEEEE 初枝れんげ@3/7『追放嬉しい』6巻発売 @hatsueda
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