第41話 極大攻撃とかね

クワリンパが突っ込んでくる。


ラナさんは既に俺の戦いの邪魔にならない様に後退してくれていた。察しが良くて助かる。


ガギンっ!!


そんな鈍い音が俺の目の前でした。クワリンパの長く伸びた爪が、俺の発動した『極小防御』に阻まれた音だ。


「これで防いだつもりか!!」


「なに!!」


クワリンパが額に生えた角を乱暴にたたきつけて来た。


「ヘッドバッドかよ!? 女の子らしくしろよな!!」


「ざれごとを!!!」


彼女の頭突きも俺が追加で発動した『極小防御』に阻まれる。だが・・・、


ビキっ・・・


「なっ!?」


何度も彼女が頭突きをする内に鈍い音が響いた。


角から・・・ではない。『極小防御』のシールドが悲鳴を上げる音である。こりゃまずい。


「油断したな、ミキヒコっ!!!」


こいつ、頭突きで無理やり防御を突破する気か!


魔族ならもっとそれらしい攻撃をしろよ!! なんだよ頭突きって。


ったく、ダークオークの攻撃すら楽にしのいだ防御スキルだってのに。


仕方ない、攻撃は最大の防御だ!


しかもこの距離だしな。


狙わない手はない・・・・・・・・


「極大攻撃!!」


「ちぃ!」


『極大攻撃を発動します。怠惰ポイントから400ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り2695ポイントです。ご利用は計画的に』


これを食らえば、さすがのクワリンパといえども、ただでは済まないだろう。


そう、喰らえばきっと、生還すること・・・・・・さえ出来ない・・・・・・


俺の脳裏にメッセージが流れるのと同時に、目の前に光の柱が立ち上がった。


そして、数秒ほど雲を突き抜ける様な輝きが続く。そして次第に光を収束させて行った。


さて、クワリンパはどうなったかな?


ちょっとした賭けの部分もあったのだが・・・。


俺が少し不安に思いながらも光の柱の収束を見つめる。


だが、中にクワリンパの姿はない。


「馬鹿め、こっちだ!!!」


俺から完全に死角になった空中から、ラウリンパが不意打ちを仕掛けてくる。


「御主人様!!」


遠くからラナさんの声が俺の耳に届く。


「うん、まあ何というか」


ズブシャッ!!


彼女の繰り出した攻撃を俺は受け止める。


そう、


「な、なんだと!?」


「いってぇぇぇええええええええ!!」


俺の体自身で彼女の攻撃を受け止めたのである。


「ば、馬鹿な、どうして防御をしなかった!?」


「さて、なんでだろうね?」


彼女が繰り出した右手の手刀は、丸で刃物のように俺の脇腹を貫通していたのである。


くっそ、全部計算通りで、余裕ぶってはいるが、まじでいってえええええ!!!


「く、狂ったか!!」


そう言って、ラウリンパがもう片方の手で攻撃しようとするが、さすがにそこまでは受け止められない。


っていうか、限界です!!


「くそ、この作戦は二度とやらん!!」


「何を考え・・・っ」


「スキル、『完全治癒』および『帰宅部』ダブル発動!!」


「なっ!?」


俺の叫びとともに、怠惰スキルが発動する。


そう、俺と接触している対象と一緒に、拠点としている場所へ戻るだけの魔法だ。


俺と接触しているのはラウリンパ。


そして、


「間に合いました!」


先ほどこの作戦を告げていたラナさんであった。


『完全治癒と帰宅部が同時発動しました。怠惰ポイントから320ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り2375ポイントです。ご利用は計画的に』


メッセージが流れるのと同時に、俺たちの姿は城から消失した。


ボロボロになった騎士団たちを残して・・・。



◆◇◇◆



「うわあ、めっちゃ宿屋壊されてるなあ・・・」


「きっとクワリンパちゃんがやったんですね」


そう言ってラナさんはやっと大人しくなったクワリンパの髪を優しく撫でた。


クワリンパは今、気を失ってベッドに寝かされている状態だ。


と言っても、壊された一室なので屋根も壁もなく、辛うじてベッドがあるような惨状なのであるが。


「それよりも御主人様、お怪我の方は問題ないのですか?」


「ああ。それは大丈夫。ほらこの通り」


俺がそういって、クワリンパに貫かれた脇腹を見せると、ラナさんは安心したように微笑んだ。


傷跡は一切残っておらず、先ほどまで大けがを負っていたとは思えないほどである。


「私の病気を治して下さった時の魔法を使われたのですね?」


「ああ」


「クワリンパちゃんにも、ですよね?」


彼女の言葉に俺は頷いた。クワリンパにも傷跡はなく、それどころか悪かった顔色は元に戻り、角やらなにやらも今のところ体からは消えている。


「でも、あえて相手の動きを止める為に攻撃を受けるなんて・・・さすが御主人様とは思いますが、正直心臓が縮まる思いでした」


「あれくらい何でもないさ」


というのは嘘である。あんな痛い思いは二度と御免だ。


今回はラナさんのお願いだったからクワリンパを助けるために実行したが、今度からはもう少し手段を選ぶことにしよう。


「まあ、完全治癒と帰宅部のスキル、どっちも極大攻撃以上に相手が至近距離にいないといけないスキルだからなあ」


クワリンパを俺に密着状態にさせるには、あれくらいしかアイデアがなかったので仕方なかったのである。


「クワリンパは魔王とやらの術にかかって正気じゃなかったみたいだし、それに公爵の城を襲撃してしまったら、この領地にいることは出来ないだろう」


だから、治療させるのと同時に宿へと戻って来たというわけだ。


騎士団たちには俺たちがどこに行ったのか。生きているのかどうかすら不明なはずである。


その混乱の内に姿を消すのだ。


うまく行けば相討ちになった、とでも解釈してくれるだろう。


「でも、本当に宜しいのですか? 御主人様には、その修行があるのでは・・・。クワリンパちゃんを助け欲しいというのも、もとはと言えば私のわがままで・・・」


「いいんだよ」


俺は言い切る。だって、もともとこの領地からはその内出て行こうと思ってたからな。


「公爵に目を付けられたみたいだったしな。今はダークオークを倒したから、っていうことかもしれないが・・・、俺がバカ息子・・・ジキトラを殺したことは事実なんだ。いつどこからバレるとも限らなかった」


だから潮時だったわけである。今回は丁度良い機会だ。


「ま、とりあえず細かいことは後だ。今はさっさとこの場所を引き払わないといけない。クワリンパもその内目を覚ますだろうから、そうしたらすぐに出発しよう。ラナさん、準備をお願い」


「はい、分かりました!」


ラナさんは元気よく返事をすると、宿に残していた私物を手早くまとめ始める。


俺は・・・俺はとりあえずそんなラナさんを眺めることにした。


サボれる時にサボるのが俺の心情である。


・・・はぁ、まったく、あまりサボれてないなあ、というのが異世界に転生して来てからの俺の反省点である。


「御主人様、ご主人様」


ん? ラナさんの声がすぐ近くから聞こえて来たので俺は顔を上げる。


すると、ラナさんが突然キスをしてきた。


俺が驚いていると、ラナさんが女神のように微笑みながら、


「もうお昼ですよ? そろそろ今日のキスの時間です」


そうささやくと、もう一度俺の唇に、彼女の唇を重ねたのである。

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