第40話 クワリンパ来たりて
激しい爆発とともに城の壁が吹き飛んでいるのが見えた。
と、その周囲に一つの黒い影が浮かんでいるのに気がつく。
あれが犯人かな?
「とりあえず、ラナさんは俺の後ろへ」
「はい、ご主人様」
ラナさんは怯えるどころか俺を信じ切っているようで平気な顔で俺の後ろに回る。
さて、せっかくの修行タイムを邪魔するのはどんな不届き者だろうか?
俺は早くラナさんを抱き枕に眠りたいというのに。
異常事態の発生に、俺の元へと集まった薔薇騎士団へ問いかけてみる。
「この城はあんな風に、よく襲撃されたりするんですかね?」
「そんな訳ないだろう! 城への襲撃など初めてだ! くそ、守備隊は何をやっていた!!」
だが、ミホルさんから返って来た答えは要領の得ないものであった。
そうか、こんなことは初めてなのか・・・。
俺たちが来たタイミングでの襲撃。
ちょっと嫌な予感がして、俺は浮遊する黒い影に目を凝らしてみた。
うーん、どこかで見たことがあるような・・・。
喉元まで出かかっているんだが・・・。
「ご主人様、ご主人様」
俺が喉元まで出かかった答えに苦しんでいると、ラナさんが俺の耳元に口を寄せてきた。
そしてヒソヒソと、
「あれ、もしかしてクワリンパちゃんじゃないですか?」
と言ったのだ。
ああ、そうだ! クワリンパだ!
よく分かりましたね、ラナさん。
体型は少女のままのようだが、顔色は少し悪く、額からは一本の角、背中からは黒い翼、お尻に尻尾がにょろりと生えているっていうのに。
「敵襲! 敵襲だあああ!!! 公爵様のお命を狙って魔族クワリンパが出たぞおおおお!」
ミホルさんが叫んだ。
どうやら彼女の顔は割れているらしい。
まあ、この地方を攻めている魔王軍の大将なんだから当然か。
「ミホル! 敵襲か!?」
「ボーリン騎士団長! はい、魔将ラウリンパみずから襲撃を掛けて来たようです!」
ボーリンさんが遠くに浮かぶクワリンパを睨んだ。
と、その瞬間、その視線を感じたかのように彼女はこちらへと視線を向けた。
だが、その目線はどうやらボーリンさんの隣にいる俺に向かっているように感じる。
「大将自ら襲撃とは、我ら人間を舐めおって! ようし、前回のオーク戦での敗北の雪辱を果たしてくれるわ!
薔薇騎士団もワシらに続けえええええええええ」
「了解です! 行くぞ、エッカ! ルルン!!」
「はい!」「わかった」
そう言って、駆けつけた男たちの騎士団に混じって、薔薇騎士団もラウリンパに向かって走り出した。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
なかなかの気迫だ。合計で50人近くはいるだろうか。
もちろん、気合だけが空回りしているような訳でもなくて、ちゃんと統率も取れている。
オーク戦の時よりもその動きは洗練されているように見えた。
うん、これならラウリンパといえども、そう簡単に騎士団たちを倒すことは出来ないだろう。
・・・・・・・・・・などと俺が考えている間に、
「げふぅ・・・」
「つ、強すぎるっ」
「さ、さすが魔将ラウリンパ、ここまでとは・・・っ!!」
はっや!
いやいや、さすがに早いだろ! もう少し粘れよ!
「ふん、何だお前らは? 私はミキヒコに用事があって来たのだ」
丸で足元に転がる小石にように無造作に騎士たちを蹴り飛ばしたラウリンパが、そんなことを言いながら俺の目の前へと降り立った。
「ミキヒコ・・・探したぞ?」
「何だよ、しばらく見ない間にえらく怖い感じになったな?」
俺の挑発するような言葉に、ラウリンパが憎しみのこもった目で睨みつけてくる。
「ふん、私はお前を殺すために、魔王様から力を授かったのだ。見ろ、この溢れだす力を。いかにお前が優れた魔術師であっても、私を倒すことは出来ない」
「ふーん、そうなの? 俺としては前の可愛い感じの方が好みだったんだがなあ。その魔王ってのはとんでもない奴だな」
せっかく綺麗な容姿だったのに、今は顔色が悪く、額から角まで生える始末だ。
その魔王とかいう奴、その内しばく。
だが、俺が口を開いた途端、少女が頭を抱えて苦しみ出す。
「か、可愛い!? う、・・・ぐぅぅぅうう頭が・・・っ!」
え、急にどうしたんだ?
「もしかして、病気かなんかか?」
いきなり蹲(うずくま)ったラウリンパを心配して手を差し伸べる。病気ならさっさと病院へ連れて行かないとだしな。
んー、いや、それだと時間がかかるか。それなら・・・、
「なっ、何でもない、触るな! はぁはぁ、私は・・・お前を殺す!!」
だが、彼女は俺の手を振り払うにようにすると、キッと俺を睨みつける。
うーん、いきなり殺すとか何とか・・・。どうやら相当機嫌が悪いらしい。
やはり何かの病気なのだろう。
「分かった分かった。少し大人しくしてろ。すぐに治して・・・」
「私に・・・」
そう言って、ラウリンパが大きく息を吸った。
あっ、何だか危険な予感。
「触るなと言っているっ!!」
彼女はそう叫ぶと、口から金色のブレスを放つ。
バチバチとした弾ける様な音がしている。
「雷のブレスか!!」
「御主人様!!」
ラナさんが俺の背中にギュッとしがみついたのが分かった。
と同時に、俺の脳裏にメッセージが流れる。
『シェルターが発動しました。怠惰ポイントから200ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り3095ポイントです。ご利用は計画的に』
ふいー、びっくりした。
ブレスは俺たちに到達する前に、淡い緑色のドーム状の壁に阻まれている。
自動防御が発動すると分かっていてもやっぱり怖いもんだな。
シェルターはレベル2のスキルの一つで、一定範囲にいる味方ごと守るスキルだ。
どうやらラナさんごと守るために、絶対防御ではなく、こっちのスキルが発動したらしいな。
いやあ、賢いなあ、この怠惰スキルさん。
『それほどでも御座いません、マスター』
・・・うん、やっぱり会話できるのね。前回のオーク戦の時もちょっとしゃべってたもんな。
ま、そのことは今は後回しでいいだろう。
とりあえず先に、
「御主人様、どうかクワリンパちゃんを・・・」
「ああ、分かっているさ」
分かっている。
とりあえず、クワリンパを治療してやるとしよう。
「作戦だけどな、ごにょごにょ」
「えっ、でもそれは・・・」
「いいから、いいから。これは命令ね」
ラナさんは少しためらった後、俺を信じるといった風に頷く。
「くそっ、やはりそうたやすくはいかないか!」
シェルターに阻まれたクワリンパはブレスを諦めてそう言った後、俺へと突撃してきた。
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