第4話



 半年後、富士の山頂にて。

 春が終わり、夏が始まっても登山者の数はまばらでした。


 されどそこにはなぜか、たたずむ自販機の姿があったのです。


 ツクモンは自らの行いを恥じながら、毎日下界を思っていました。


 ―― 平太郎はどうしただろうか? 寿命が尽き 亡くなってしまったのだろうか?


 そんなある日のこと、大荷物を背負った一人の登山客が山頂へとやって来たではありませんか。


 なんとその男は、夢にまで見た平太郎その人だったのです。



「待たせたな、ツクモン。さぁ、続きをやろうぜ」



 自販機が重箱のごとくパカっと開き、そこから痩せた女が姿を現しました。

 彼女は涙で瞳をうるまませながら、小声でつぶやきました。



「もう、バカなんだから。寿命は大丈夫なんですか?」

「山本さんから買い戻したよ。やっぱり俺、ユーチューバーだからさ。どんな災難も、僥倖ぎょうこうも、ある種の人間にとっては飯のタネでしかないんだ」

「成程。私達の思い出を動画にして、ネットへ流しましたか」

「そう、それで君に謝らないと。実はね、俺の部屋には幾つも隠しカメラが仕掛けてあったんだ。動画を作るのに無断でその録画を使っちまった」

「あらあら、追い詰められた人間様は怖いですね」

「追い詰める妖怪だって怖いだろ? それで投稿動画に感動した視聴者から助言を頂いてね。今の世の中、便利なシステムがあるもんだ。クラウドファンディングで皆からお金を集めて、山本さんと取引したってワケ」



 クラウドファンディングとは、ネットを介し不特定多数の人から資金調達をつのる便利な救済策です。けれど、有名人か、よほどの大義名分でもないとまず大金は集まらないのです。


 こうして生きている平太郎の雄姿。


 それこそが人類の叡智えいちが成し得た逆転劇でした。

 人は誰しも一人ではないのです。

 平太郎は笑って掌に載せた百円玉を差し出しました。



「さぁ、これで最後だ。ルーレットが当たるか、否か、試してみようぜ?」

「そんな事の為に、ここまで? 後悔はないんですか?」

「有るはずもない、そうだろ?」



 最後にどちらが後悔するか試してみよう。

 それは、二人の馴れ初めにて語られた言の葉でした。


 答えは言うまでもなく、引き分けといった所でしょうか?

 きらめく太陽と雲海が祝福する中、平太郎はツクモンを抱きしめるのでした。


 真に、強く決心して行動する者には、必ずや結果が伴うものでございます。

 逆光を浴びる自販機は、のぼせたように赤く染まって見えました。


 妖怪と人の恋物語。

 これにてめでたく閉幕でございます。


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オカルト自販機ツクモン ― 冷たいもの ― 一矢射的 @taitan2345

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