005

男は、う~んと伸びをした。

高い位置で括られた金の髪が風に靡く。高台から街跡を眺めていた青い目を、海へ──海上の玄獣へと移した。獣は今日もそこに居る。変わらずニタリと嗤っていた。

グランツのリーダーはアレを知らないと言っていた。恐らく嘘ではない。あちらも被害を受けている…ということも確かだが、彼女は嘘は巧くなさそうだった。あちらの戦力でないのなら共闘して討つ事も検討すべきか。あんなのに居座られては領土拡大どころではない。それとも、この地は諦めるべきか。

もう一度街跡に目を戻す。諦め時と言えばそうかも知れない。一度退くのも有りだろう。騒がしい小魚が増えてしまった。

「潮時かぁ」

もう一度だけ海上に目をやり、ラファは海に背を向けた。



「来ませんね」

「感付かれたのでしょう」

リトはそう言って肩を竦めた。

「まぁこちらもそろそろ場を移す頃合いだ。ここまでの様子から見るに、避難所へは攻めてこないだろう」

「そうですね。玄冥は一旦戻って下さい。…カマヤの調子も悪くないみたいですよ」

「本当か!?」

キラキラと目を輝かせて、ザフキは拠点方向へ飛び立った。

「カマヤの事となるとホント早いな」

「妬いてる?」

からかってくる同じ顔に、ユタは困ったような表情を返した。

「今更過ぎるだろ、そう思うには」



自らを抱き締めるようにして縮まっていた身体をゆっくりと伸ばしていく。用意されている濡れた布で脂汗を拭って、人心地を得た。

「治まった?ザフキが戻ってくるよ」

「そうだね。近付いてきてる…あ、着いたみたい」

直ぐに騒がしい音が聞こえ始める。

「カマヤ!ただいま!」

「お帰りなさい、ザフキ」

飛び込んできた幼なじみに柔らかな笑顔を返す。

「あれ?ユタとリトは一緒じゃないの?」

続く影が無い事にグイドが首を傾げる。

ザフキは戦地で起こった事をざっと説明し、ユタは大海獣の、リトは蝶々魚の警戒にあたっている旨を伝えた。

「…そう」

海の側で騒ぐから海の怒りをかったのだ。海に還った命たちに黙祷を捧げ、カマヤはゆっくり目を開けた。

「それで、どうするの?」

去らない大玄獣。去った蝶々魚。何にどう対処していくべきなのか。

「取り敢えず玄獣の方は動きがないから暫く放置。あんなの相手に出来ないよ」

下手につついてまた大津波を起こされても敵わない。

「蝶々魚は…まぁ顔も判ったし、向こうの戦力も削れたワケだし。こっちも様子見」

「そっか。気を付けてね」

床に座りベッドに肘を乗せて話すザフキの頭をカマヤが撫でる。幸せそうな声を洩らしてザフキは目を閉じた。

「そんな姿勢で寝ちゃダメだよ」

「…やだ。ここがいい」

窘めるカマヤと駄々を捏ねるザフキを困り笑顔で見下ろして、グイドは薄い掛け布団を一枚用意する。今は一群を指揮する玄冥も、彼らにとっては末の弟。甘え、甘やかす関係は変わりがない。

頭を撫でられ安心して眠るその肩に、そっと布団を巻き付けた。



頑張るから。カマヤが安心して暮らせるように。この場所は、安全で平和であるように。私が護るから。だから。どうか、このまま。私を置いて行かないで。

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創国記 炯斗 @mothkate

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