004
災害の報はユタとリトの元にも届いたが、ふたりはそれぞれの持ち場を離れることはしなかった。寧ろ場の警戒を強めなくてはならない。
ところが、以来これといった動きがない。沿岸部の続報が届くとふたりは引き続き警戒を続けるよう部下に言い残し、急いで玄冥の元へ向かうことにした。
『玄冥が金髪の男に付きまとわれている』。
其々に異なる焦燥を抱きながら、二尾の魚は空を駆けた。
「玄冥!」
「ユタ!?何かあったか!」
突然現れた部下に表情を引き締める。
「こっちのセリフです!大丈夫ですか!?」
「あぁ、津波か。酷いものだ──」
「それもそうですがそうじゃなくて!」
ユタは機敏な動きで周囲を改める。怪しい人間は見当たらない。怪訝な表情のリーダーに悟られないよう溜め息を吐いた。
彼らのリーダーは幼馴染みに囲まれて育った。少しばかり世間知らずだ。ユタも責任の一旦を感じている。ただ、世間を教えて糺そうとするのではなく更に護ろうとしてしまうのだから然もありなんだ。
「金髪の男に付きまとわれていると聞きましたが」
「…あぁ、うん。キレイな顔してたが、間違いようなく男だったな」
「中央域の人間でしょう、警戒してください」
色んな意味で、と心の中で付け加える。中央域は蝶々魚の領域だ。ということに加え、もうひとつ。男女の区別がある領域の男性が女性に近付く意味を、この魚は理解していない。
「間諜であると?その可能性は考慮してはいる」
「間諜どころじゃないかも知れませんね」
「リト!?」
「おまえまでどうした」
現れたリトに揃って驚いた。
「自分で確かめた方が早いと思いまして。その男は何処に?」
「さあ。今日はまだ見てないな」
「そうですか。では僕らは離れて待ちましょう」
この日に限って、件の人物はザフキの前に現れなかった。
「…勘付かれたか?」
そう言ってリトはユタに目を遣り、短く溜め息を吐いた。
「いい加減教えてくれ。リトは何を確かめたかった?」
ザフキの問い掛けに、リトは勿体振る事なく答えた。
「玄冥に付き纏っているというその男、蝶々魚本人かも知れません」
「…あれが?」
確かに口から生まれたような男だったが、にわかには信じ難い。が、ザフキがそうは感じなかったと言ったところでそれはこのふたりには信用に値する証言とはならない。
「ですから直接確かめたかったんですが」
「リトは蝶々魚の顔を知っているのか?」
「知ってますよ。一度接触していますから」
ザフキとユタは驚いてリトを見た。そんな報告は聞いたことがない。
「言い辛いでしょう、他所のリーダーから勧誘を受けたなんて」
「行かないよな?」
「かなり前の話ですよ」
そう言って肩を竦めて見せるも、ふたりにほっとした様子はない。ザフキは不安そうな、ユタは不信な眼差しを向けている。
「だから言わなかったんですよ」
予想通りの反応にリタは目を細める。ふたりとも、反応が解り易すぎていけない。
「とにかく、その男の正体を見極めない事には落ち着きません。ユタは戻っていいよ」
「いやこっちだって心配して来てるんだ」
より一層の心配を増やしたまま戻れはしない。
「そういう可能性があると判れば私だって対処…」
「出来そうにないと判断したから持ち場を離れてまで此処に来たんです」
言い切られ、ザフキはぎゅっと口を曲げた。
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