第12話 進捗

 揚げパン戦争が始まってから1ヶ月が過ぎた。揚げパンたちはまだ国の主要な都市を陥落させるには至っていないが、ところどころ揚げパンに支配されている地域が存在している。揚げパンたちは人間を捕まえて皆殺しにするとか、はたまた食べてしまうだとか、いやいや優しく待遇してくれるだとか、デマとフェイクニュースが飛び交っている。実際は揚げパンの行動は地域によって少しずつ異なるらしい。

 俺の住んでいる国はまだうまく耐えているが、忘れてはならないのが、揚げパンたちは全世界を攻撃しているということだ。小国や対応の間に合わなかった国は、揚げパンにやっつけられ、揚げパン帝国の支配下に入ってしまった。

 揚げパンたちの暴虐を止めるべく、世界は一致団結しようとしている。ここまで世界がひとつになるのは珍しい。最初からこうしていれば、無駄な戦争は抑えられていたのに。

 それはともかく、世論的にも、今はにっくき揚げパン帝国を打倒するため、国民は全力を尽くさなければならない、という気運が高まっている。そんなわけで、僕も軍隊に入ることになった。


「はあ、やっぱり軍の訓練はきついなあ、水輝。俺脱走しようかな」


 とカジュアルな言葉遣いで話しているのは、驚くなかれ理科野である。この男は、軍隊に入ると僕との階級差がなくなったのをいいことに、僕にタメ口を利くようになった。怒るようなことでもないので放っている。


「理科野、そんなことを言うものじゃない。僕たちは揚げパン帝国をやっつけるために戦わないといけないんだ。確かに戦争や軍隊は面倒だし嫌だけどな」


 僕たちはそんなふうに喋りながらも、実はずっと歩いている。揚げパンたちが布陣する丘を攻撃しに行くのだ。少し年配で経験者の隊長が指揮を取っている。

 少し進み、僕たちはいよいよ揚げパンたちがいる丘に近づいてきた。見つかるといけないので、軍隊らしく這って前進する。なんか感じはよい。ロマンのようなものが感じられる。こうなると、僕はどうも軍人もありかと思い始める。

 だが、それはもちろん甘い考えだ。どこかで発砲音が聞こえる。こちらが揚げパン軍に見つかり、戦端が開かれたのだ。


「撃てっ!」


 最高司令官の号令で、全員が一斉に引き金を引く。丘の上には揚げパンたちが城塞のようなものを構築しているのだが、その上で見張っている揚げパンたちがばたばたと倒れていく。

 揚げパンたちも負けてはいない。鉄砲だけでなく、大砲もどんどん撃ってくる。その大砲は壁に備え付けられていて、なかなか壊しにくい。もちろんこちらも大砲で応戦する。

 平兵士の僕たちは、地道に銃を撃ちながら少しずつ進んでいく。横で運の悪い仲間に弾が直撃する。

 息の詰まるような戦闘の末、僕たちはついに壁の近くまでたどり着いた。ここを越えれば敵の本陣である。


「よし、もう少しだ! 突撃!」


 司令官が号令をかける。僕たちは腹をくくって突っ込む。

 だが、そのとき一番前の兵士たちが、わあっと崩れ始めた。見ると、壁の向こうから揚げパンたちがどんどん押し出してきている。そして、そのさらに奥には、人間の指揮官が見える。


「行け、揚げパンたち! 覚悟しろ、人間ども!」


 指揮官はそう叫んでいる。僕はその方をよく見て、少しの間ぽかんとしてしまう。

 それは拓巳だったのだ。

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揚げパン戦争 六野みさお @rikunomisao

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