第6話 もう本心を偽りたくない

 きゃあと叫び声を上げたのは幽霊だった。


「急に話しかけないで! 初対面の人は緊張、する……」

「すみません!」


 私が詫びると、幽霊は浅井くんを聞きただした。


「あなたも見えてますよね。ご婦人の姿も」

「もう隠しきれないか」


 浅井くんは長い溜息をついた。

 信じられない。しかも、私には見えない霊も察知しているなんて。


 現実離れした出来事の連続で、険悪な雰囲気は霧散していた。


「清羅はお母さん似だな。泣きぼくろの位置もそっくりだ」

「本当に、そばにいるの?」

「あぁ。告白がことごとく失敗したのも親の優しさというか」

「お母さん!」


 霊力で妨害するなんてひどい。


『だって、うちの子は顔いいなんて思われていたのよ? 失礼しちゃう』


 一瞬だけ見えたのは、ぷくりと頬を膨らませた女性。遺影と変わらない姿に涙がこぼれた。


『私が消える前に、美優ちゃんとの関係を見直してくれて安心したわ。浅井くん、今まで秘密を守ってくれてありがとね』


 私の髪は揺れ、ラベンダーの香りが立ち込める。


『清羅、愛してる』


 鼻をすすると、浅井くんも学ランさんも嗚咽していた。学ランさん、あなたの未練もなくなるといいね。


「美優ちゃんとカタをつけて来る」


 もう、本心を偽り続けたくない。対等ではない交流は、今日でおしまいにする。


 私の決意に浅井くんは頷いた。


「行こうか。修羅の地へ」


 そこまでの激闘を繰り広げるつもりはない。でも、浅井くんの言葉は大げさじゃなかったんだ。


 人盛りの中央に、美優ちゃんはいた。年齢も身長もバラバラな男性達に囲まれている。


「あっくん、信じてよ!」

「信じられるか。減らない財布が六つ? 遊びだった? この人達が向けた愛情は迷惑だったのか?」

「そ、それは……」


 口ごもる美優ちゃんと視線が合う。


「せーいら! 清羅は、美優が六股するような子に見える? 友達なら潔白を証明してくれるよね」


 私は首を振った。


「引き立て役の私には、友達なんて務まらないと思う」


 驚くくらい、冷ややかな声が出る。私を睨みつけた鷹見さんは、ちっとも怖くなかった。


「さよなら」


 舌に残る苦味を悟られないように、私は歩き出した。

 できることなら友達のままでいたかった。


「頑張ったね、富安さん」


 浅井くんは私の涙を拭う。


「さっきの言葉を訂正させて。富安さんと別れたくなんかない。でも、富安さんが幻滅したら、きっぱり諦めるから」

「ちゃんと諌めてくれる人を、手放せる訳がないよ」


 私は改めて告白する。浅井くんとは、友達以上の関係でいたいから。

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友達のままでいたかった 羽間慧 @hazamakei

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