第六話 ありきたりな冬空の無色の雪

  雪姫が死んだ後、ニュースやネットにも報道されていた。

 学校では俺ももう三年生だったのもあって、卒業式に出た。綾小路が少年院に入れられてもういないことをいいことに、義盛が全校生徒の前で他のイジメられていた生徒たちのいじめ映像暴露したのを見て、気分がよかった。

 泣き出してしまう生徒や、よく頑張ったねと笑い合ってる生徒もいて、なんだか少し泣けてしまいそうになったが頬を叩くことで無理やり誤魔化した。

 俺は大学生になったある日、義盛から唐突にあるものを手渡された。義盛は、ん、と言って封筒とCDを手渡してきた。


「お前への贈り物だ、封筒は動画見てから読め」

「誰から貰ったものなんだ?」

「教えるつもりはない、だがお前にとってアイツの存在はその程度だったか」


 と、少年の日の思い出に出てくるエーミールみたいな発言をされ無理矢理CDを押し付けられた。それ以外は何一つ教えてくれなかったので最初は何か裏があるのだろうかとイジメに遭っていた時の疑心暗鬼を発動しながら言われた通りに動画から見ることにした。

 パソコンを起動させ、CDトレイにディスクを入れてマウスで一つだけぽつりとある「やっほー」という名前の動画をクリックする。

 初めに「私の大好きなマモルへ」と白い文字が黒い画面にメッセージとして流れた後に自分のよく知る少女がそこに映り込んでいる。


《大丈夫ー? ずれてない―?》

《動くな、撮りづらいだろう)


 ん? 義盛の声?

 映っているのは、どうやら病室のようだが……?

 見えるパジャマ姿には、どこか覚えがあった。


《マモル! やっほー! びっくりした? 見えてる? 見えてるよね? 私! 鏡雪姫かがみゆきひめです! 忘れたなんて言葉、言わせないぞー?》

「雪、姫……? 嘘だろ?」


 映像に映るのは笑いながら片手でピースしている雪姫。どうしてアイツが彼女の動画なんて持っているんだ、という疑問は彼女が映っている動画を見た瞬間からその考えは吹き飛んでいた。


《きっと、マモルがこれを見た時には私、もう死んでると思う。だから、ヨッシー君に撮ってもらってるんだ》

《おい、俺の名前を出すなと言っただろう》

《えー? いじめっこの綾小路さんのお父さんのことメシアとか呼んでるヨッシー君に言われてもなぁ》

《メシアは俺と親父を助けてくれた恩人だ。礼を払うのは当たり前だろう》

《そっかなぁー? って、そういう話をしようとしてたんじゃなくって!》


 パンと、雪姫は手を叩く。


《マモル、きっとこれから辛いこと、苦しくて泣きたくなること、たーっくさん、あると思うんだ! でも、クエストって私は言ったけど君は、乗り越えてきたよね?》

「……ああ」

《だから、他の人がもし、誰かに苦しめられていたら、気づいてあげられる人になってあげて。理由を言えない人のことをむやみやたら責めるような人じゃなく、どうしたの? って聞いてあげられる人になってあげて》

「……なれる、かな」

《わかんないけど、きっとマモルがそういう優しい人でいようとするなら、きっと誰かが理解しようとしてくれるはずだよ!》

「うん、うん」

《だから、無理しすぎず! 適度に力抜いて、普段通りでやっていこ? マモルって地道な作業得意じゃん!》

「……うっせ」

《私が言いたいことは以上でーす! だから、最高の男になってね! マモル!》


 雪姫は親指を突き出して笑う。

 頬に伝う涙を手で拭った。


《もういいか》

《うん、お願い……またね、マモル》

「……ああ」 


 動画はそこで終わっていた。

 封筒の中身を開けると、クリスマスの時に映画館で撮った写真が出てきた。

 もしかしたら、あの時にスマホいじってたりしてた時に義盛に送ったのかもな。

 写真を見て雑貨屋で写真立てを買おうと、決意した護は椅子から立ち上がる。


「……さーて、外出ますか」


 外を出れば、軽い雪が降っていた。

 白い息を吐きながら、俺は雪がつもった道路を歩く。

 ありきたりな冬空の無色の雪は、その日やけに綺麗に見えた。

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