二十年ぶりに舞い戻った土地は、すっかり様変わりしていた。


 立場は逆転した、と思い知る。

 結局、運命さだめは変えられないということか。無念極まりないが、選べる手段は知れている。


 山を覆っていた雑木林は消えていた。

 山肌に貼り付くように、細かく区分けされた家が建ち並ぶ。一部は山肌を大きく削り、高級志向の外観に整えられたマンションとなっている。


 だが、あの場所に家はあった。急坂を上り詰めた、山の稜線の一区画。

 正確にはすでに古い家屋は取り壊され、周囲に合わせてならされて数件の戸建住宅に変貌していた。

 近年の様式に従って、白い壁に電動シャッターが取り付けられた窓。玄関前の駐車場には、普通の家と同じようにセダン型の白い車が止まっている。


 秋の午後は、日が落ちるのが早い。


 日差しに赤外線が混ざり、斜めに長く影を作る。午後の陽光が照りつけて、あの家の輪郭を浮かび上がらせていた。

 見上げる先、こちらがわに向いた壁面はすっかり影となっていて暗い。


 新築の家の窓が見える。

 外から入る採光のせいか、室内は明るく見える。

 人影が見える。


 寄り添うような、ふたつの人影。 


 目が合うように思えた。

 まるでずっと待ち続け、待ちわびたかのように。


 生まれたばかりの、息をするだけのぬくもりを掻き抱き、かつて居た場所へと回帰する。


 見すえて息を吐く。かまうものか。

 手にした新しい命に目を向ける。これは新たな好機。



 女の姿をしたものは、急な坂をゆっくりと登っていった。





                    < 了 >



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峠の幽霊 内田ユライ @yurai_uchida

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