「推し」が作品を破壊する?(こともある)

kayako

~創造と破壊は紙一重~

 皆さんは、「推し駄目」という言葉をご存知だろうか。

 え? 知らない?

 そうでしょう。私が今考えた言葉なので。



 この言葉の意味を説明すると――

「作者による特定のキャラクターへの愛が行き過ぎてしまったが故に、作品自体が崩壊してしまった、またはその疑いが濃い」、そんな残念な作品や現象のことを指す。


 もう少し言うと、これに類する言葉は「推し駄目」以外にも「■え駄目」という言葉が存在するのだが、その言葉は某所で非常に厳密に定義されており、安易に使用して特定の作品をあげ連ね「これは■え駄目に該当するんじゃないの?」とか言ってしまうと袋叩きに遭いかねず、また予想外のところで火を起こしかねない。

 なのでこのエッセイでは、そういう作品や現象はあくまで「推し駄目」と定義させていただく。



 何故なら、このエッセイの目的は

「キャラ愛が過ぎるあまりに自作が残念なことにならないようにするにはどうすればいいのか」を考えるものであり、

 特定の作品をあげ連ねて「アレは該当する」「アレは脚本自体が駄目なので違う」「アレはスタッフからして全員駄目だから違う」「アレは売上が凄いからそもそも崩壊してない」という議論をするものではないからである。

 作品の崩壊原因がキャラ愛か否かを問わず、「キャラ贔屓しすぎてつまらん」と結構な数のファンから思われた時点で、もうその作品は推し駄目。このエッセイではそう考えることにする。



 某所を知らないかたには全く訳の分からない話で申し訳ありません。

 本題に入ります。



 この「推し駄目」、本当に様々な作品で散見される。

「真の仲間」なるワードの元ネタになったあのゲームとか。

 友人の彼女寝取った上に腕捻り上げ、続編では主人公が途中ですげ替わったあのアニメとか。

 世界最長の小説と謳われたあの超長編小説とか。

 非常に多くのスタッフが関わるあのシリーズでも、歴史ある名作シリーズでも、多くの傑作を生みだした大御所の作品でも構わず出現するのだから、この問題は本当に根が深い。




 あ、いや、違うんです。

 だから、特定の作品をあげたいわけではないんです。

 自分の生み出す大切な作品がそうならない為には、どうすればいいのか。それを考えていきたいんです。決して恨みつらみなど(ry



 作品が推し駄目に陥ると、具体的にどのような弊害があるかというと


 ・作者の贔屓キャラ(以下、推し駄目キャラと呼称)以外の出番が減る

 ・推し駄目キャラにとことん有利な方向へ設定・世界観が捻じ曲がる

 ・推し駄目キャラと対立するキャラはろくに過程を描かれず無理矢理和解させられるか塵にされ、以後ろくに触れられない

 ・登場キャラ全員が推し駄目キャラを総出で持ち上げ、それ以外に役割がなくなる

 ・推し駄目キャラ自体、当初の性格設定が捻じ曲がる。冷徹な貴公子が何故甘えん坊の姫になったんだ?

 ・推し駄目キャラは死ぬことはあっても決して下げ描写をされることはない。

 死亡する場合、ド派手に単行本1冊使うことも


 などなど、枚挙にいとまがない。

 そしてこれらが重なった結果、当然ファンは激減し。

 作品、そしてシリーズまでが完全崩壊に至ることさえある。

 そこまで至らずとも、推し駄目要素が原因となり、作品の評価を大きく落としてしまうこともある。推し駄目要素さえなければよい作品だったのに!的な。



 実は私自身、まごうことなき推し駄目作品を生み出したことがある。

 そう、あれは高校生の頃。

 まだ世を知らぬ若かりし頃。私は地球を舞台にした壮大なファンタジー小説を書いていた。

 ナウシカやラピュタやナディアを見て、ああいう世界を書いてみたい!!と思って書きだした小説。いつ終わるかも分からない超長編。

 ロボットの反乱で水没してしまった世界。それを救える力を秘めた孤島と、そこに封印されていたヒロインを巡って何のかんの……という、まぁよくある話である。

 中盤からラストのあたりまで散々妄想していた割には、小説自体は序盤からほぼ進まないままだったが、それでも妄想しているのは楽しかった。

 いつかこの作品でジ〇リに殴り込むんだー!と。うん、若かった。


 しかし、序盤からちょっと進めたあたりで。

 私は致命的な大ミスを犯した。


 世界を救う為、あちこちを飛び回る主人公一行。

 そんな彼らの後ろ盾となる国連(的な組織)とのパイプ役として、私はサブキャラを登場させた。仮にKさんとする。

 当初は完全な脇役のつもりで、直後に起こる大災害によりすぐ死亡する予定だった。

 しかし当時の私、何を思ったのか、


 このKさんに惚れてしまった。


 結果、プロットは大幅変更。

 Kさんは死亡せず、後に下半身サイボーグとなって復活。

 Kさんの話いっぱい書くならKさんの恋バナ書きたいよネ!ということで、ヒロインに妹、そして家族が出来ました♪(ヒロインは天涯孤独という設定だったのに)

 主人公とヒロインを差し置いて、Kさんとヒロインの妹で繰り広げられる恋模様。

 さらに、ヒロインがたった一人で封印されていたはずの神秘の孤島は、いつのまにかラジオ局まであるちょっとオシャレな街に。

 そしてKさん、最終的には主人公の立場を完全に奪い、敵の本拠地に単身乗り込んで親玉と1対1で対峙、そして華々しく散りゆくという、当初からは考えられなかった最期に。

 ここまで来るとヒロインは最早、Kさんを想って泣きぬれるヒロインの妹にとって代わっていた。



 ここに至って改めてプロットを見直し、気づいた。

 ――あれ? この話、大崩壊してる?



 結果、その小説は完全にお蔵入り。

 今も実家のどっかに眠っているかも知れないが、探し出すことは多分ない。

 見事なまでの推し駄目黒歴史です。



 このように、ド素人は油断すれば即、推し駄目の罠に嵌る。

 百戦錬磨の大御所や、名作の数々を生み出したプロ作家でさえ陥るのである。当然、ド素人の私はこれ以上ないほどあっさり嵌ってしまった。

 作品が推し駄目に陥る原因の一つとして、きちんとした担当編集がいない、もしくは機能していないという説がある。

 大御所であればあるほど担当編集や周囲のスタッフが口を挟めなくなり、結果、作品が推し駄目に陥る――個人的にはかなり納得できる説。

 そしてなろうを始めとするweb小説の書き手の殆どは、担当編集不在の素人。

 ならば、作品が推し駄目に陥る可能性が飛躍的に高まってしまうのは明白であろう。



 じゃあ、自作品を推し駄目にしないようにするにはどうしたらいいのか。

 それは――



 それは……



 うん、分かりません!!w



 いや、その、弁解させてください。

 だって、自分の生み出した推しの存在が作品の原動力になるケース、非常に多いと思うんですよ。

 現に私の作品だってそうです。

「解雇寸前だけど、推しに補佐され~」こと、「かいおし!」なんかその典型です。

 というかアレ、第4章あたりで既に推し駄目化してる気がします。推しをバトらせたいばかりに。

 推し駄目化しつつあるなと自覚しながらも書いてましたけど!



 作品内にお気に入りキャラ、つまり推しが出来てしまう限り、その作品が推し駄目化する可能性は常にあると思っています。

 推しへの愛は作品を動かす大きな力となりますが、同時に作品を破壊しうる恐ろしい力ともなることを、忘れてはいけません。

 どうしてもそうしたくなければ、作品内に推しを作らないようにするしかありませんが、そういう気持ちは容易にコントロールできるものではない。



 そもそも、有名作家や有名監督、百戦錬磨のクリエイターさえ陥ってきたこの罠、そう簡単に素人が回避なんて出来るわけないだろと。



 それでも、推しを愛しながら作品もちゃんと崩壊させずに書いていきたい。

 その為に、推し駄目化防止策をいくつか考えてみました。



 1.主人公、ヒロイン、もしくはそれに準ずる位置に推しを据える


 こうしておけば、どれだけ出番が多くなろうと主人公特権で許される……はず。

 ただし、あまりに目に余る行動をした場合は主人公特権すらも効かなくなることがあります(例・友人の彼女を(ry



 2.脇役を推したくなってしまった場合は


 「メアリースー診断」を使用してチェックしてみましょう。

 その脇役にこれからさせようとしていること、チェック項目のどこかに引っかかってはいませんか?

 二次創作用の診断ですが、多分ある程度応用可能だと思います。

 ただし、引っかからなかったからといって推し駄目ではない、わけでは決してないので注意。

 あくまで客観的指標の一つです。



 3.推しを複数作る


 同作品内でも別作品でも構いません。大きすぎる力は分散させれば、ただ一人の推しが暴走する危険性は少なくなるはず。

 作品内の全キャラを好みのタイプで固めまくるのもアリです。



 4.第三者の目を通す


 正直、これが一番有効な策かと思います。

 忌憚ない意見を聞かせてくれる友人などがいれば一番いい。

 私には残念ながらいないのでw、客観的な意見は皆様の感想を待つより他ありません。

 だから皆様、お気に入りの作品が推し駄目化しつつある?と感じた時は、思い切って作者様に言ってみるのもありでしょう。作者本人が自ら気づくのは難しいと思います。

 幸い、なろうにはメッセージ機能があります!

 カクヨムは早くメッセージ機能を実装するんだ!!



 5.どうせなら最初から推し駄目を押しだす


 よく考えたら、なろうのテンプレってほぼ全てが推し駄目の典型。

 でも何故か読まれる。理由は簡単、最初から推し駄目を押しだしているから。

 初っ端から推しキャラを持ち上げて最強無双させれば、読者はそういう作品だと思って受け入れてくれるでしょう。

 推し駄目は、読者が世界観やキャラに馴染んできた中盤以降から突然なるから問題なんです。

 重厚でリアルでハードな世界観が売りだった作品で、サブヒロイン的な僧侶が唐突に無双し始めて、正ヒロインたる聖女のかわりに聖女になって、それを作中の誰も疑問に思わないという展開、どう思いますか?という話です。




 それから個人的に気になったこととしては、

 推し駄目に陥ったクリエイターの推しキャラを見ると、どうも好みがニッチな場合が多いという点。

 つまり、万人に好まれるとはお世辞にも言い難い造形のキャラを贔屓しまくる傾向がある。その為、余計に既存ファンからの反発を招くという……

 私自身マイナーキャラ好きなので、この点は本当に気をつけたいところ。



 最後にもう一度。

 推しへの愛は創作の原動力となりますが、同時に作品を破壊しうる恐怖の力ともなる諸刃の剣。

 過剰に使用すれば作品は推し駄目に陥り、推しキャラもろとも作品を崩壊させてしまいます。

 書き手の皆様、どうか推しキャラは正しく愛していきましょう。

 勿論自分も肝に銘じたいと思います。陥りやすい傾向があるのは重々承知。



 あと、推し駄目に陥らない為の有効な手段が他にあれば、コメントなどで教えていただければ幸いです。


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「推し」が作品を破壊する?(こともある) kayako @kayako001

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